11話 アニマルヘッズの意図
最も深き迷宮の出口にて、脱出しようとする冒険者たちが散見していた。
ある者は期待以上の成果を、ある者は悔しそうに歯嚙みしながら、そしてある者は絶望に押しつぶされそうになりながら。
三者三様の歩みで出口を目指していた。
地下にあるとは到底思えない平原の中に、石造りの神殿めいた建物がぽつりと佇む。
それが最も深き迷宮の出口である。
そこから少し離れた所に10人ほどの男たちがいた。
冒険者でないのは、遠めに見ても明白だ。
「あいつら、なんで出口で待ち構えているんだ?」
エリオットは困惑したようにつぶやいた。
十中八九クロムウェル商業組合の人間である。
しかも武装をしていることから、組合兵なことは間違いなし。
「あんたがぶっ殺した組合兵の帰還でも待ってるんじゃねぇの?」
先の争いを思い出し、アニタはふくれっ面になる。
「アニタが燃やした組合兵の間違いじゃ?」
平然と言い返すエリオット。
とはいえ辛そうなのは変わらず、額に汗は滲んだままだ。
スコットが手をパンパンと鳴らして、割って入る。
「はいはい。じゃれ合いはそこまで。理由はどうであれ、幸いなことに向こうは第6階層でのことを知りません。堂々と出口に行けばいいんです」
その通りである。
平然と出口を抜けてしまえば何も問題ない。
第6階層で誰が誰に殺されたなんて知る由もないのだから。
「でもエリオットさんはこれを巻いてください」
「え?」
手渡されたのは包帯。少し黄色みがかって古い。
スコットは左腕を指差し、
「そんなゴリゴリの違法改造腕、目を付けられたくはないですしね。左腕に巻いて目立たないようにしてください」
「わかりましたよ」
エリオットは慣れた手つきで包帯を巻いていく。
元の形が異形なので隠せないが、とにかく漆黒の外骨格は誤魔化せる。
ミイラめいた左腕が完成したところで、エリオットたちは何食わぬ顔で列をなす冒険者たちに混ざり込む。
普段はダンジョンから出るのに列なんてできない。
しかし、どうやらクロムウェル商業組合は検問めいた事を行っているらしい。
列が進めば進むほど、周囲の冒険者から文句の声が聞こえてくる。
「何の権利があってやっているのか」
「理由を説明しろ」
「商業組合の横暴では?」などと正面切っては言わないが、声を潜めて不満を漏らす。
クロムウェル商業組合の組合兵は全く気にせず、極めて事務的に確認していく。
そんな彼らの中に1人だけおかしな格好の者がいた。
服装は他と変わらないが、狐の頭を模したフルフェイスの兜を被っている。
アニタが顔をしかめた。
「うへぇ。アニマルヘッズじゃねぇか。なんであんな奴がいるんだ?」
クロムウェル商業組合が保有する組合兵の中で、最も恐れられている部隊がある。
アニマルヘッズと呼ばれる、動物を模した兜を被った組合兵たちだ。
その戦闘能力はAランク冒険者よりも強く、他の商業組合との小競り合いや汚い仕事もこなす組合の切り札である。
冒険者としても関わり合いになりたくない輩だ。
「アニタ、あんまり険しい顔をしないで。むしろ愛嬌を振りまくくらいしてもいいんですよ」
「へぇー、こんな感じか?」
アニタはお世辞にも立派とは言えない胸を寄せてウインク。
さて何と返すべきか。
エリオットの思考が一瞬停止する。
しかし、さすがとも言うべきかスコットは笑顔で拍手。
「そう、その調子でOKですよ」
次々とポージングするアニタと褒めちぎるスコットを見ながら、
「俺には真似できないなぁ」とエリオットはつぶやく。
ほどなくして2人組の組合兵がエリオットたちの元へと寄ってきた。
不幸なことに片方はアニマルヘッズ(フォックス)である。
「別に根掘り葉掘り聞く気はない。簡単な質問だ。我が社の部隊が第6階層から帰ってこない。誰か見なかったか、と聞いている」
「すみません。僕ら第5階層からの帰還組なんです」
スコットはしれっと嘘を付く。
「そうか……道中見なかったか?」
「いえ、全然」
フォックスは言葉を切ると、今度はエリオットのことを見た。
「それにしても、お前、えらくボロボロだな」
「聞いてくれよアニマルヘッズさんよう。こいつしょんべんしてる時にショゴスに襲われたんだぜ」
アニタが言い、周囲から笑い声が漏れる。
予想外なことに、フォックスも周囲の雰囲気に飲まれたのか笑っている。
「それは災難だったな」
「では僕たちはこれで」
「ああ」
スコットとアニタが通り過ぎ、いかにも愚図な冒険者ですと後ろ頭を掻きながらエリオットが続いて――
「エリオット、俺の目を誤魔化せるとでも思ったか?」
エリオットの視界いっぱいに狐の兜が割り込んだ。
「なッ!」
白銀の刃が一閃。
左腕の包帯が全て解ける。
露わになる漆黒の左腕。
エリオットはようやく気が付いた。
フォックスの声が、『栄光の道』と同行した組合員のそれと一緒だということに!
「その腕! まさか漆黒の剣!?」
フォックスは驚きの声を上げるとともに、とっさに飛び退いた。
先ほどまで彼の頭があった空間を、スコットの槍が貫いたからだ。
「いい腕だ。だが、殺気はもう少し抑えたほうがいい。剣を回収する。生死は問わん。やれ!」
フォックスが指示を飛ばした次の瞬間、大量の魔力が膨れ上がった。
その場にいる組合兵はその全てが魔法使い。
それも身体改造済みで、論理詠唱が可能な魔法使い部隊であったのだ。
幾数もの魔法陣が展開!
白い閃光が押し寄せる!
フォックスの指示の下、組合兵はエリオットを狙って付近にいた冒険者ごと、無差別爆破呪文を撃ち込んだのだ。
「エリオット!」
スコットがエリオットを蹴り飛ばした。
轟音がダンジョンを揺らし、閃光が視界をホワイトアウトさせる。




