後編
そして・・・。
狭い寝室には、嫁たちが康治を取り囲んでいる。
「みなさん!」
ポランは目を覚ますなり、かつての康治の嫁が揃っているのに驚いた。
「お前たち!」
康治は思わず叫ぶが、いつものことかと「ふう」と一息溜息をつくと燭台に明かりを灯した。
「久しぶりだな康治」
シャロットは、はにかんだように笑う。
「おう」と、康治。
「帰ってきたんだからね」
莉子はツンデレで顔を背け言った。
「おう」と、頷く康治。
「ほうほう、皆、勢揃いではないか・・・あ、アリスがおらぬの」
聖剣から精霊へと化したデュラ子はしみじみ言った。
メイヤとライヤが事の経緯を話すと、皆は一様に頷いた。
「ダーリン会いたかった。シャロ姉様も!」
エリザは両手を組んで右肩まであげ喜ぶ。「おう」(康治)
「康治様、お久しゅう」
エスメラルダは慇懃に頭をさげた。「おう」
「康治様、懐かしいです」
アリエルは破顔した。「おう」
「康治様、お久しぶりです」
「本当に・・・です」
ライヤとメイヤはぺこりと頭を下げる。「お、おう」
「康治ボクも会いたかったぞ」
ケイは潤んだ瞳で彼を見る。「おう」
「康治会いたかったですう」
ヒルダは静かに目を伏せた。「おう」
「別に会いたくて・・・来た訳じゃないからねっ!」
エマはツンデレを見せる。「おう」
「ふふふ、皆、実にいい顔です。私もですが」
イシュタルは、ずっと微笑んでいる。「おう」
「お慕いしています。康治様」
ララは赤面して、頭を下げた。「おう」
「みなさん、お久しぶりです」
ポランは久しぶりに出会う面々に、笑顔が綻ぶ。
「・・・で、コォジィの嫁たちは解散したんじゃなかったのか?」
康治は何故このような状況に陥っているのか説明を求めた。
「ふむ。そうですね」
女神イシュタルは、康治とポランに語りはじめた。
「康治とポランをのぞいて、ここにいる皆さんには同意の元で、転送し集まっていただきました。まもなく極天魔王が降臨します。再びコォジィと14人の嫁の力が必要となったのです」
寝耳に水の2人。
「はあ?」
康治は思わず言った。
「魔王の襲来。康治と私たちの力が必要なのです・・・ですが」
イシュタルは、ちらりとポランを見て思案顔を見せる。
「でも・・・アリスさんが・・・」
ポランは肝心なことを言った。
「それに・・・」
康治は続ける。
すると、
「その通りだ!」
窓を開けて、突然、侵入する闖入者はアーサーだった。
「お前、不法侵入だぞ!」
康治は正論を吐く。
「この一大事に犯罪もへったくりもあるかっ!」
アーサーはぐいっとアリエルの手を引っ張った。
「・・・アーサー」
アリエルは思わず戸惑い顔をする。
「アリエル、君は私の妻となる人だ・・・何故」
「だって世界が・・・」
「そんなのは関係ない」
「よっ、痴話喧嘩」
と、康治。
「茶化すな」
アーサーは真顔で叱る。
「だったら、私が行く~」
もう一人の女アーサーが右手を高々とあげる。
「お前は、私の分身っ!それは絶対に駄目だ。私の沽券にかかわる」
アーサーは大きく首をぶんぶんと振った。
「だって、私、康治、好きなんだもん」
女アーサーは、康治の右腕にしがみつく。
「カオスだな」
シャロットは呟いた。
「これはだな。違うのだ。お姉たま」
アーサーは額に汗をかき弁明しようとする。
「まあまあ」
康治が宥める。
「オデも康治さの妻になるど」
突如マリーまでも現れた。
まさに混沌とした空気が、康治邸に漂っている。
「・・・ふむ」
イシュタルは少しの思案のあと、ぽんと手を叩き、続けて、
「もう、魔王を倒しちゃいましょう」
と、堂々宣言する。
「え?」
みんなの視線が女神に注がれる。
「だって、康治はチートでしょ・・・それにポラン・・・」
イシュタルは片目を伏せた。
「?」康治。
「?」ポラン。
「では、行ってこーい!」
2人は彼方へと飛ばされた。
康治とポランの前には、禍々しく巨大な魔王がいた。
(それが極天魔王です)
2人の脳内にイシュタルの声が響く。
「なんですと!」
同時に叫ぶ。
(さ、夫婦の絆と力で倒しちゃいなさい)
「なんですと!」
思わず二度重複する。
「さ、みなさん」
イシュタルは集結したみんなへ声をかける。
「2人は、魔王との最終決戦に挑んでいます。祈りを、そして力を捧げましょう」
女神は両手を天にかざした。
「唐突な」と、アーサー。
「ま、2話で仕上げるなら、こんなもんね」と、エマ。
「ふふふ、時すでに・・・」と、シャロット。
「ん、まあ・・・そうね」と、莉子。
「アタクシには、まだお姉様がいますわ」と、エリザ。
「がんばって!」と、ライヤ。
「ふむ、行けっ!康治、ポラン」と、ケイ。
「康治様、ポランさん」と、メイヤ。
「康治、ポラン、汝らの真なる力を!」と、デュランダル。
「心ひとつに」と、エスメラルダ。
「はい」と、アリエル。
「ふふふ、大人になったのね」と、ヒルダ。
「祈って、力を捧げます」投稿、ララ。
「私、もっと出番が欲しい~」と、女アーサー。
「オデもいいんかいね?」と、マリー。
「分かった。届けっ!」と、アリス。
「思いひとつに!届け!康治とポランへ!」
天めがけ光が上昇する。
康治は全身に炎を宿す。
ポランは白き翼をはためかせ、夫を抱きしめ魔王へと突撃する。
「うおおおおおおおっ!」
その時、みんなが送る光が夫婦を包み、金色そとて虹色に輝く。
激突。
白色。
沈黙。
ビックバン。
・・・・・・。
・・・・・・。
極天魔王は消失した。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
宇宙から緩やかに、異世界へと降りていくふたり。
康治はしっかりとポランを抱きしめている。
「あ」
ポランは思わずお腹を抑えた。
「ん?」
訝しがる康治。
「・・・動いた」
「へ」
破顔する2人は、自然とキスをした。
ゆっくりゆっくりと・・・美しい世界が目の前に広がっている。
それから3日が過ぎた。
「では失礼する」と、アーサー。
「康治様、ポラン、またね」と、アリエル。
「それでは」と、メイヤ。
「また」と、ライヤ。
「康治、また会おう」と、シャロット。
「また来るね」と、莉子。
「また来るですう」と、ヒルダ。
「運命が導けば、いずれから必ず」と、エスメラルダ。
「いずれ必ず」と、ケイ。
「来ますね。絶対」と、ララ。
「来たいと言ったら、来てあげるわよ」と、エマ。
「アタクシ、楽しみです」と、エリザ。
(ともに・・・)と、デュランダル。
「では、康治、ポラン、世界の危機に、また会いましょう。」
康治の嫁たちは挨拶をして、ポランのお腹にそっとタッチをして、各々の帰路へと着いた。
それぞれの思いと紡がれる思い。
この異世界が乱れる時、康治と嫁たちの戦いは続くのかもしれない。
おしまい。
物語はとりあえず結ばれる。