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49話 私たちの宿命(ハイレット視点)


 オースティン伯爵の屋敷へ来て、私は皇太子の立場を利用しロザリアとの関係は一歩近づいた。


 あれだけ国のためと考えろと諭したのだから、私を受け入れた方がよいとロザリアもそろそろ理解するはずだ。セラフィーナもアレスと距離を縮めているようだった。


 ところが夕食を終えてオースティン伯爵とロザリアの契約がまとまった途端、アレスと連れ立って部屋へ戻ってしまったのだ。


 私とセラフィーナも部屋に戻り今後の作戦会議をした後、それぞれ未来の伴侶の部屋へと向かった。


 ところが、セラフィーナが私の元へやってきてアレスの部屋には誰もいないと言う。嫌な予感がしてロザリアの部屋をノックしたら、アレスがだらしない格好で姿を現した。


 つい今しがたロザリアを貪っていたと堂々と宣言して、私の神経を激しく逆撫でる。

 自分の言いたいことだけ吐き出して、私の問いかけを無視して締め出された。


 いったいなんなんだ、あの男は!? 竜人だからなんだというのだ!!

 アレスひとりであれば、いくら超人的な種族だといっても帝国軍の精鋭にかかれば簡単に始末できるはず……そうか、そうすればよかったのか。


 確か三つ目の素材は獣人の国で採掘されていると言っていた。それなら帝国にとって、これから皇帝となる私にとって邪魔になる奴らもまとめて駆除できる。


 妙案が浮かびセラフィーナに視線を向けると、醜く顔を歪めて怒り狂っていた。これではアレスに嫁げといっても、もう無理だろう。


「お兄様! わたくしが娼婦呼ばわりされるなんて、こんな屈辱は初めてよ!! そもそもわたくしの魅力に靡かない男なんて、男じゃないわ!!」

「セラフィーナ、気持ちはわかった。お前は帝都に戻れ。そして父上にこの経緯を説明して、秘密裏に精鋭を派遣するように伝えろ。私がアレスを始末し、お前は別の竜人へ嫁げばいいのだ」


 私の計画がうまくいけば獣人の国も潰し、ラクテウスはセラフィーナを通じて操作し、大陸一の大帝国へと導くことができる。


 そうすれば私は父さえなしえなかった、大帝国の初代皇帝となるのだ。

 そのためにも、セラフィーナはラクテウスに嫁がせなければならない。


「別の竜人なんて……どんな相手かもわからないのに嫌よ」

「ふん、竜王がいるではないか」

「竜王ね……でもすでに王妃がいるのにどうやって?」


 ここまでの話の流れで察することができない残念な頭の妹に、わかりやすく説明してやる。この様子では、実行部隊も合わせてつけてやらないといけないようだ。


「そんなもの、アレスと同じように始末してしまえば簡単だろう?」

「ふうん……そうね。そうすればわたくしが王妃になって、世界一の男を伴侶にできる……」


 セラフィーナは新しい未来を想像して、ニヤニヤと笑みを浮かべた。あのアレスの父になるのだから、見目がいいのは想像できる。自分にとってプラスになると理解したようだ。

 最後のダメ押しで、優しく囁いた。


「お前はラクテウスの王妃にこそふさわしい」


 こう言えば、セラフィーナがどうなるのか手に取るようにわかる。


「わかったわ。明日にでも皇城に戻るから、アレスの始末は頼んだわよ。あの男、絶対に許さないから!」

「それは私に任せろ」


 新たな計画に沿って、私は慎重に行動を始めた。




 翌朝になって、セラフィーナは早朝に転移の魔道具を使って皇城へと戻っていった。セラフィーナのことは朝食の席でロザリアたちに切り出した。


「ロザリア様、セラフィーナについてお話があります。実は新たに縁談が舞い込みまして、皇城へ戻ることになりました」

「え? ですが昨日は……」


 ロザリアが怪訝な様子で私に視線を向ける。あくまでも予定ではあるが、嘘ではない。

 しかしロザリアが疑うのも無理はない。昨日はロザリアを私の妻にして、セラフィーナをアレスに嫁がせたらいいと話したばかりなのだ。なにか裏があると思うのが普通だろう。


「はい、こちらにも事情がありまして、より帝国が発展する相手に嫁ぐよう父から知らせが届いたのです。まあ、皇族ですから結婚相手は自由になるわけではありませんので」

「そうですね……セラフィーナ様のことお察しいたします。どうかお幸せになりますよう心から祈っています」


 ロザリアは突然姿を消したセラフィーナに同情しているようだ。アステル王国では不遇だったと聞いているから、自分に重ねたのかもしれない。


 だが、アレスはジッとこちらを凝視して、なにかを読み取ろうとしているようだった。


「アレス様、どうかなさいましたか?」

「いえ、突然のことで驚いているだけです」

「そうですか、しばらくは三人の旅になりますがよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 上面だけは平穏を装って、アレスとの会話をこなす。王太子なのに執事服を着て、あれこれ妻の世話をする奴の考えていることはよくわからないし、理解したくもない。


 そうして二つ目の素材を手に入れるべく、グラシア領へ旅立った。




 移動中はロザリアとアレスの会話に入りつつ、時折、馬車の窓から外の景色を眺めていた。

 もし援軍が来ればなにかしらサインがあるはずだ。それまではなるべく時間を稼いて進むしかない。


「ロザリア様、ここから先は道が悪くなるので少し進行がゆっくりになります」

「ええ、かまいませんわ。事故が起きてはいけませんから」

「ご理解いただき助かります。安全な進行をお約束いたします」


 本来なら四日でつく道のりを六日かけてゆっくりと進んだ。あまりに遅くなりすぎては、逸らした疑惑が再浮上してしまう。だけど、それでも父からの援軍の知らせは私に届かなかった。


 セラフィーナはいったいなにをやっているんだ。転移の魔道具で帰ったのだから、すでに父上の耳には入っているはずだ。それなのにいまだ援軍が来ないとなると……まさか、私の計画に反対なのか?

 いや、そんなはずはない。父上だって竜人の後ろ盾を強固にしたいはずだ。


 そうこうしているうちに、オークションを仕切っているグラシア侯爵の屋敷へついてしまった。


「皇太子殿下、このような僻地まで来訪いただき心より感謝申し上げます」

「堅苦しい挨拶はいい。こちらがオークションに参加されるラクテウス王国のアレス王太子殿下とロザリア妃殿下だ。くれぐれも粗相のないように頼む」

「承知いたしました。実は先日の建国記念パーティーで、おふたりの神がかったダンスを遠くから拝見しておりました。遠路はるばるお越しくださいまして誠に恐悦至極にございます。私がグラシア侯爵家の当主、ヘンドリーと申します」


 そうして互いに挨拶を済ませオークションが開催されるまで、グラシア侯爵の屋敷に逗留することとなった。

 その日の夜遅くに、グラシア侯爵が私の部屋を訪ねてきた。


「ハイレット殿下、こちらが皇帝陛下より届いております。殿下がこちらにいらっしゃってからお渡しするよう申しつかっておりました」

「そうだったのか、父上からだな!」


 胸ポケットから取り出した手紙は、真紅の蝋封がされており間違いなく父上からのものだ。急いで封を開けて手紙を読み込んでいく。


 父の手紙には、すでに皇族の影がファステリアに入っており、邪魔者を消す準備を整えているそうだ。手練れを集めるのに時間を要したと書かれていた。


 さらにもうひとつ罠を張ったと記されており、そのおかげでスムーズにファステリアへ進めることになる。


「なるほど、そういう手筈か……ならばオークションの開催を待つまでもない。グラシア侯爵」

「はい、なにかお役に立てることがございますか?」


 グラシア侯爵は狡賢く強欲な男だ。私たちから恩恵があると思えば、間違いなく味方として動くはずだ。


「ああ、お前のところで採掘されるイーグルアイを、特別に私個人へ用意してくれ」

「それはかまいませんが、それなりに見返りがございませんと……」

「わかっている。これは父上からの伝言だ。近々オースティン伯爵が失脚するだろう。その際に運輸業の利権が宙に浮くそうだ。ここまで言えばわかるな?」


 オースティン伯爵が契約を交わしたのは、あくまでもロザリア個人の話だ。ではそのオースティン伯爵が失脚したら、どうなるか?


 考えるまでもなく、また契約の結び直しが必要になる。より私たちに協力的な貴族をその後釜に据えれば、ロザリアはますます私に従うしかなくなるのだ。


「そうですな……帝国中の販路が手に入るのでしたら、この身を削ってでも尽力いたしましょう」

「明日の午前中に用意できるか?」

「ええ、実はすでにこちらに持ちしております」

「話が早くて助かる」


 グラシア侯爵が持ってきたイーグルアイは、採掘された中でも特に魔石の価値が高いものだそうだ。

 こんな石ころの価値はどうでもいいが、これでロザリアが私のものになるまであとわずかだと思うと気分がよかった。


「ククク……やはりロザリアは私の妻になる女だったのだ。そう宿命づけられていたのだな」


 その夜は久しぶりに満ち足りた気持ちで、深い眠りについた。




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