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竜骨門

竜骨門攻略戦です!!

ターミナルシェルターに隣接する形で竜族側の魔力障壁を展開することに特化した拠点『竜骨門りゅうこつもん』はあった。

元はターミナル用のフードプラント特化シェルターであった物を竜とその眷属達によって転用されてしまっていた。

西部ターミナルシェルター攻略にはまずこの竜骨門を落とさなければターミナルに入ることすらできなかった。



ファイアスープの戦いの後、タカヒコ達は他の魔槍師10名と合流し、竜骨門近くの枯れたバオバブの森に潜伏していた。

時刻は昼前であった。


「・・因みに今回攻略に失敗したら次、攻める でどれくらい掛かりますかね?」


枯れた木の陰でヴァルシャーベが聞いた。


「自分が死んだ後のことなんて聞くなよ、ヴァル公」


合成干しナツメを噛んでいるグラ。


「敗北イコール人類終了。って考えるより、『まだワンチャンあるよ?』って考えた方が気が楽じゃないですか」


「くだらねっ」


グラは乾燥させ過ぎて石のようになったナツメのカスの部分をペッと吐き捨てた。


「まぁ、どれくらい生き残るかによるけどな。魔槍の使い手の発掘や育成を考えると2~3年は掛かるな。竜達も攻勢に出るだろうし、西部域の半分は放棄することになるだろう」


タカヒコは枯れたバオバブの森の先を監視していた。竜骨門まで延々と、いずれも待機耐性の強い岩のような魔物達や騎士級以下の竜達が無数に配置されていた。


「ヴァルシャーベ、廃棄エリアの攻略はすんごい大変だからさ。全域廃棄された東北部の解放に十何年も掛かったしっ! 最後の方、新人だったあたしも行ったけど、マジ酷かったよっ?『餌用』の『合成人間プラント』造られちゃってっ」


『上等品』は人格付きで製造されていたことを思い出して吐き気を催すスモモ。


「最悪じゃないですか・・うっ、胃が痛い」


ほそいヤツだな、ヴァッシャ」


大人形態のアマガミはメモ帳にタカヒコのスケッチを描いていた。中々上手い。実際の本人より柔らかい表情をしていた。

それをチラリ、と覗き込むヴァルシャーベ。


「アマガミ先輩、タカヒコ先輩とそんな昔からの知り合いでもないワケですよね?」


ヴァルシャーベはついこの間まで知らなかったが、魔槍師としてはわずか半年しかキャリアに差がなかった。


「急に話を変えたな。ふんっ」


アマガミは得意気な顔をして描く手を止め、代わりに『氷河の魔槍』を取り出した。


「私は里親に、この氷河の魔槍を信仰する教団に売られ生け贄にされそうになった所を、タカヒコに助けられたのだ。運命的だっ!」


「ええっ」


狼狽えるヴァルシャーベ。


「槍を回収に行ったついでだ。生け贄になりかけた子供が魔槍に適合するとは思わなかったがな」


「愛の力だっ!!」


「元々素手で岩を割るくらい力があったから、槍がお前を『極めて強い個体』と認めただけだろ?」


「愛の強さっ!!」


「・・・」


閉口するタカヒコ。


「ま、まぁ魔槍に関するエピですから。大なり小なりドラマチックな展開はありますよね? それにっ!」


アマガミに挑戦的な眼差しを向けるヴァルシャーベ。


「それは『愛』ではなく『すりこみ』ですねっ!」


「ふっ。『愛の決勝戦』への参加資格すら持たない、『予選負け子(よせんまけこ)』など相手にならん」


「予選負け子??」


「誰も見てない所で壁打ちでもやっていろっ!」


「球技なんですか??」


困惑しつつも悔しいヴァルシャーベ。根拠不明気味であったが勝ち誇るアマガミ。不用意に入るべきではない、とスルーを決め込むタカヒコ。と、


「おいっ、商会の連中の準備が済んだようだぞ!」


別パーティーの『豪雷ごうらいの魔槍師』が呼び掛けてきた。


「やっとか。西部は輸送機が少ねーからすっトロくて敵わねーよっ」


「さー、お仕事お仕事っ!」


グラとスモモが自分の魔槍を取り出し、


「2~3年後の後輩に迷惑掛けずに済むよう、頑張ろうぜ?」


タカヒコも業火と古時計、2本の魔槍を笛形態から槍形態に変化させた。



最初に竜狩り商会の構成員達が、現在の人類の技術レベルでは一定以上の物は量産が難しい、大量のミサイルを竜骨門前の待機型の魔物と下位竜達に撃ち込み、その大半を掃討した。

その後、低い位置への榴弾砲による援護射撃を受けながらタカヒコ達15名の魔槍師が上空から突撃する。

残った魔物と下位竜達の内、対空能力のある者達も援護射撃の激しさとタカヒコ達の速さと高さに殆んど対応はできない。

タカヒコ達は無傷で竜骨門に接近した。


「開門と場均ばならしは任せとけっ!!!」


豪雷の魔槍と他2人の魔槍師が宙でフルパワーを解放し、魔槍を振るい、猛烈な力の奔流を竜骨門の障壁にぶつけ、一時的に大穴を開けた。

即座に控えて他2人の魔槍師が空いた穴に向かって魔槍を振るい、それぞれ角張って蛇行する熱線と捻れる熱線を放ち、穴が空くと同時に放たれた竜側の迎撃の遠距離攻撃を打ち消し、竜骨門内全域を2種の熱線で爆撃した。


「後は任せろっ!! 押し通るっ!!!」


力をほぼ使い切った5人の魔槍師達を残し、タカヒコ達は早くも大穴が閉じつつある竜骨門へと侵入していった。

内部に入るとすぐに、あちこち炎上する竜骨門の中央に工学機器と融合した、1つの殻を共有しする蝸牛のような2体の超巨大子爵級竜がいるのが見えた。

この2体の竜自体がターミナルシェルターの障壁発生装置であった。


「デカぁっ?!」


「ヴァル公っ、ボサっとすんなっ!」


「はいぃっ!」


的にされるのを避ける為にタカヒコ達は遅れて始まった対空遠距離攻撃を避けながら、すぐに高度を下げていった。

竜骨門内の炎上は最初の攻撃によるものだったが、多くの建物の崩壊は元々であった。防衛と食料生産及び動力用の発電以外の活動に竜や魔物達は関心は無かった。

地表近くに降りると早速、爆撃を切り抜けた魔物と騎士級竜達が現れた。2体の蝸牛型子爵級竜の影響か、どちらも身体を半ば機械化された個体が目立っていた。


「盾役はウチらに任せなっ!!」


3人魔槍師が前衛に出た。『岩壁がんぺきの魔槍師』『激流げきりゅうの魔槍師』『鉄雨てつうの魔槍師』の3人であった。

それぞれ岩生成能力、大量の水生成能力、無尽蔵の弾丸掃射能力を持っており、立ち塞がる魔物と騎士級竜達からタカヒコ達を守り、あるいは敵を押し流し、あるいは蜂の巣にしていった。

その勢いのままタカヒコ達は蝸牛型子爵級竜までのルートを3分の1まで進んでゆくと、前方に闇が逆巻き出した。


「来るぞっ!」


「しっつこいなぁっ!」


闇の中から奇妙な帽子を被った小太りの中年男と、機械化マスクを付けた男がうきあがってきた。

帽子の男は『黄金に塗れた剣こがねにまみれたつるぎ』を持ち、『マスクの男は『鉄屑に塗れた剣てつくずにまみれたつるぎ』を持っていた。


「2体かよっ!!」


「なんか曜日ごとに交代、みたいな設定じゃなかったんですか??」


「ふんっ。大方、各個撃破を嫌ったんだろう」


竜使い2人は剣を振るった。黄金に塗れた剣からは金粉のようなガスが放たれ、鉄屑に塗れた剣からは無数の機械片が放たれた


「確認するよっ!」


岩壁の魔槍師が地から岩を発生させて、鉄片と金粉らしきガスを受けた。


「っ!」


金粉らしきガスを受けた部位は黄金のように変質し、鉄片を受けた部位は機械に侵食されていった。


「汚染するのかっ!!」


「面倒っ!!」


激流の魔槍師は2人の竜使いを渦巻き状の水で周囲な闇ごと巻き込んで囲い込み、鉄雨の魔槍師は渦の中の竜使い達に弾丸を掃射した。


「曜日が違う上に身体を分けると具合が悪いですね」


「そもそもお前と組むのも相性が悪いっ!」


「貴方は誰と組んでも一緒でしょう?」


マスクの男は鉄片で掃射を相殺し、帽子の男は黄金ごときガスで障壁を張って掃射を防いでいた。


「対処法は共有してるからっ。ここはウチらがっ!」


「悪いっ! 油断はしないでくれっ」


「分体の残数注意なっ!」


タカヒコ達は岩壁の魔槍師達3人に2人の竜使い達を任せ、その場を飛び越えに掛かった。


「・・・」


「・・・」


2人の竜使い達はそれどころではなかったのか? 案外構わない様子で、タカヒコ達は難なくその場を離れることができた。


「あの帽子のが、最初に出会したヤツだ」


「能力は厄介だが戦闘型には見えないな?」


タカヒコとアマガミが話しているとすぐに前方に魔物と騎士級竜達が群がり始めた。


「こっからの露払いは私がっ!」


ヴァルシャーベは『雪だるま怪人・凶』を7体造り出し、先行させた。


「タカヒコ」


タカヒコ達以外で同行している残り2人の魔槍師の1人『酔い茸(よいだけ)の魔槍師』が話し掛けてきた。


「2人別れてあんな前衛に現れたということは、残る4人もおそらく別々に分かれているだろう。お前達と多少は因縁もあるようだし、ここで連戦になる可能性は高い。さっきは勢いだったが班分けは経験のあるお前達が判断してくれ」


「わかった」


タカヒコ達は雪だるま怪人・凶に露払いさせながら炎上する竜骨門を飛び抜けていった。



ルートを3分の2程進み、ヴァルシャーベの雪だるま怪人・凶が残り3体になった所で、先程より濃い闇が前方で逆巻き、3人の竜使い達が現れた。


「んはぁっ! ちゃんと3人減らしてるじゃん?!」


魔女のような格好をした女、『ルルチルチ』。ルルチルチは『薔薇に塗れた剣(ばらにまみれたつるぎ)』を持っていた。


「7人取り逃がしてるけどね」


子供の姿をした竜使い、『ディマシュ』。ディマシュは『書物に塗れた剣しょもつにまみれたつるぎ』を持っていた。


「事務的な『ヨッズ』と、あてにならない『ヌバタムア』じゃそんなもの、そんなもの」


ニヤけ顔の男、『ジオッド』。ジオッドは剣の代わりに骨を組み合わせ大鎌を持っていた。


「いるじゃねーかっ!!!」


グラは烈風と共に雪だるま怪人・凶達を飛び越え、『旋風つむじかぜの魔槍』と『砂塵さじんの魔槍』でジオッドに打ち掛かった。


「グラっ!」


タカヒコは仕方なく、『古時計ふるとけいの魔槍』で減速化の力をディマシュに放った。スモモも打撃の力をルルチルチに放った。が、

イメージの古時計は書物に塗れた剣で切断されて打ち消され、空気を伝った打撃は宙に繁った薔薇の盾で受け切られてしまった。


「くっ、ここは俺達3人で対応するっ!! 他の皆は先へっ!」


「それでいいのか?!」


「ああっ、倒せるっ!」


「タカヒコ・・」


「いいからっ!」


タカヒコは加速して直接、ディマシュに古時計の魔槍で打ち掛かり、スモモは着地してジリジリとルルチルチと間合いを取り始めた。

グラは激しくジオッドと斬り結んでいた。


「場当たりじゃないかっ、・・やむを得ないか。行こうっ! アマガミっ」


「う~、わかった」


「大丈夫かなぁ先輩」


アマガミとヴァルシャーベ、雪だるま怪人・凶3体、酔い茸の魔槍師ともう1人の魔槍師は先へと進んでいった。


「倒せるって言っちゃうんだ」


「倒せそうにない、とは言わないだろ?!」


古時計の魔槍でディマシュと交戦するタカヒコだったが、加速は見透かされているようだった。


「そう言えば名乗ってなかったっけ? もう曜日はめちゃくちゃになっちゃったから言わないけど、僕はディマシュ。よろしくね」


ディマシュは書物に塗れた剣から3項を破き出すと、そこから炎と雷と吹雪を立て続けに放ってきた。

加速でなんとか避けきるタカヒコ。


「俺はタカヒコっ! あっちの魔女っ娘じゃなくてお前が『魔術の技』を使うんだなっ」


「そこはほら、『理想と現実』ってヤツだよ?」


ディマシュはもう1項破き出し、多数の追尾魔力弾を発生させた。


タカヒコの方で爆発音が立て続けに響く中、スモモはルルチルチと斬り結んでいた。

しかしスモモの『黒金くろがねの魔槍』の打撃の力は薔薇の盾で防がれ、まだ持っていた『弧月こげつの魔槍』の空間を削る攻撃も大振りの攻撃を見切られ、ルルチルチ本体を捉えることができなかった。


「かぁーっ! 相性悪っ。範囲攻撃できるアマガミ向きだよコイツっ。グラのせいでワリ喰ったっ!!」


「イライラしてるねぇっ。名前なんだっけ? 殺す前に教えてくれる? 私はルルチルチっ!」


「あーんっ?」


スモモは全く当たらない弧月の魔槍を笛形態に戻し、腰の後ろの鞘に戻して黒金の魔槍を力強く構え直した。


「あたしはスモモっ! 殺される前に覚えときなっ」


スモモはルルチルチではなく地面を激しく黒金の魔槍で打ち据え、打撃の力で大爆発を引き起こした。


「っ!」


爆煙を突き抜け、黒金の魔槍が打ち込まれたが、これを薔薇に塗れた剣で払うルルチルチ。

払った瞬間、黒金の魔槍は力を失ったが、ルルチルチは受けた衝撃で体勢を崩された。

次の瞬間、土煙を抜け真上のから現れたスモモが槍化していた弧月の魔槍で、薔薇に塗れた剣とそれを持つルルチルチの右腕のある空間を剣に触れることなく抉り取った。


「いっ?!」


抉られた右腕の部位と剣の刀身はルルチルチの背後に現れ、地に落ちた。切断された右腕の柄持つ部位も地に落ちる。


「痛っっ!!!」


「いよね?」


スモモは弧月の魔槍をルルチルチの腹に打ち込んだ。


「げぇええっっっ??!!!」


魔槍に貫かれ部分を中心に空間が歪み、渦を巻き、ルルチルチと地に落ちた抉られた右腕と剣を吸い込み出した。


「あんたらが自分で言った通りなら、残り12割る6で分体は1人2体ずつ、か? ちょっと死ぬまで時間掛かるだろうけど、ごめんね!」


「ぐぅうううっっ、無駄だからっ!! こんなの全然無駄っ! あんた達のやってることなんてなんにもならないからっっ!! 最後に勝つのは、私っっ、達っ!! いっ、い、痛ぁあああーーーいっ!!!!」


渦巻く空間の歪みの中で、ルルチルチの全ての分体と薔薇に塗れた剣は擂り潰され砕け散っていった。


「エグいな、この槍。しっかしこの間のヤツもだけど、具体的に言ってくんないとさっぱりだわ」


スモモは弾かれていた黒金の魔槍を手元に引き寄せながら、一息吐くのだった。


「粘るなよっ!」


グラは引き続きジオッドと斬り結んでいた。

ジオッドが使う骨の大鎌は魔剣と違い、特別な力は持たないようだったが、ジオッドは慎重に立ち回り隙がなかった。

また以前程ではないが力を奪う鎖の召喚自体は可能らしく、時折自身や周囲の陰から鎖を放ってきていた。


「そう言われてもな、言われてもな」


ジオッドは鎖でグラを牽制した後、肉塊にされたルルチルチと、タカヒコとグラ、どちらに加勢すべきか迷ってる風のスモモをチラリと見た。

グラはすぐに鎖を斬り払い突進してきたが、ジオッドは陰に逆巻く鎖の中から男爵級竜を1体召喚しグラにけし掛けた。

スモモもジオッドに槍を投擲する構えを見せたので飛行種の騎士級竜を5体召喚してけし掛けた。


「ディマシュっ! 十分だろうっ、十分だろうっ」


「えーっ?! タカヒコのヤツ、業火の魔槍温存してるよ!!」


「ならお前が燃されればいいんじゃないか? いいんじゃないか?」


ジオッドはニヤついた顔のまま皮肉に言って、鎖の影の中に消えていった。


「野郎っ! クソっ」


男爵級竜は外骨格を持つ頑強な個体で、グラの槍と相性が悪く、手こずっている内にジオッドに逃げられてしまった。


「ジオッドのヤツ、勝手だなぁ。ねぇ? タカヒコ」


2項から魔力の斧と霧の爪を放つディマシュ。


「・・分断して、削るつもり、か?」


「いやぁ、だってさぁ15人も魔槍師が残ってたらウエストターミナル落とされちゃうかもしれないよね? 8人くらいに減らないかなぁって」


「妥当だよ、ディマシュ」


タカヒコは笛形態にしていた『業火ごうかの魔槍』を引き抜き、魔力の斧と霧の爪を両断して打ち消した。

猛烈な炎を宿している業火の魔槍。


「やっぱりファイアスープ火山で炎を吸って来たんだ」


ディマシュは1項から凍結属性の男爵級竜を1体召喚し、タカヒコにけし掛け、古びた書物の項が漂う自身の影の中に潜り込み始めた。


「一応言っておくけど、仮にタカヒコ達が僕達を全滅させても、この世界の死は避けられないよ? もう神が死んでしまっているから。事実、君達は『死体』を振り回して僕らと戦ってるワケだし」


ディマシュは書の闇の中に消えていった。


「死体ね」


タカヒコは古時計の槍で強く加速を掛け、一瞬で業火の魔槍で吹雪を吐く男爵級竜を両断して焼き尽くした。



グラとスモモにけし掛けられた竜を倒し、タカヒコ達がアマガミ達に追い付くと既に機械化された2体の蝸牛のごとき子爵級竜と交戦を始めていた。

そのあまりの巨体に1つの山と戦っているようだった。

竜は全身から様々な火器を放ちつつ、向かって右側の竜は酸のブレスを吐き、向かって左側の竜は触覚から触れた物を白い結晶に変える怪光線を放っていた。

護衛として、半ば機械化された飛行種の騎士級竜達も多数飛び回っている。

蝸牛のごとき2体の子爵級竜は障壁発生装置に固定されていたが、その火力と攻撃範囲は圧倒的で、護衛の騎士級竜への誤射もお構い無しに乱射していた。


「酷いな・・アマガミっ! 途中、竜使いと遭遇しなかったか?! 同じ『括り』が、もう1人いるはずだがっ」


「いた! コドォーと名乗っていた年寄りだ。手裏剣を操るヤツで、ベルナとエイビアの槍が損傷させられたっ。ヴァッシャもそろそろ限界だっ!!」


酔い茸の魔槍師ベルナと、もう1人の魔槍師エイビアは損傷で出力が出ないらしい魔槍での空中戦に大いに苦戦していた。

ヴァルシャーベに至っては、『粉雪こなゆきの魔槍』を振るう力が残っていないらしく、フックワイヤーで逃げ回りながら籠手の円形障壁で身を守るのが精一杯であるようだった。


「グラっ! 雑魚対策をっ!! ベルナとエイビアはヴァッシャと一旦下がって体勢を立て直してくれっ! アマガミは結晶化能力ある方を封じてくれっ。スモモは俺と酸を吐いてる方を片付けようっ!!」


「了解っ!!!」


「了解ですぅ~っ」


グラが刃を含んだ砂嵐を起こして飛行種達の制圧を始め、ヴァルシャーベ達が下がり、アマガミが凍気とうきで結晶化光線を撃つ方の竜を氷漬けにして動きを封じた。

アマガミはさらに笛形態にした魔槍で、砲撃を躱しながら勇ましくも孤独な曲を奏で、竜に張り付かせた氷へ凍気の上乗せを始めた。


「加速を共有するっ、スモモっ!!」


「おおっ? 来いよっ!」


スモモ的な反応に思わず苦笑しながら、タカヒコは古時計の魔槍を発動させ、自分とスモモを加速させた。

加速で砲撃を避けながら接近すると酸のガスで弾幕を張られたが、スモモが黒金の魔槍を振るって打撃の衝撃を空気に伝えてガスを払い、道を作り、衝撃を竜の顔面に当てて怯ませた。

タカヒコはその道を抜け、巨大な竜の口に業火の魔槍を打ち込み、業火を炸裂させた。

竜の口は吹き飛び、炎上して仰け反ったが、がそれ以上のダメージは通っていない様子だった。


「ダメだっ! 身体がデカ過ぎるっ!!」


「だったら『分割』しちゃおうぜっ?!」


いつの間にか回り込んでいたスモモは、弧月の魔槍で竜の首の根元を大きく斬り付けた。

三日月状に抉り取られる竜の首。抉られた部位は首からズレた前方に出現し、首と共に地に落下していった。


「おっしゃっ! んっ?!」


抉って切断した傷口けら体液と共に酸を含んだ触手が多数湧き出し、スモモに襲い掛かった。


「うわっ! キモッ!! くっさっ!!」


慌てて退避するスモモと入れ替わりにタカヒコが触手を焼き払いながら突進し、血とガスが溢れる食道と見られる大穴に業火の魔槍を投げ込み、素早く離脱した。


「射貫けっ!!」


遠隔操作で体内で竜のコアを撃ち抜かせるタカヒコ。


「・・・」


「どうなったんだよ?」


身体が大き過ぎて間が空き、スモモを戸惑わせたが、やがて爆発的に巨体の首無し竜は内部から緑色業火で焼かれ、絶命した。

巨体が倒れ込むと地が揺れ、発電設備がそこら中で破損し、激しく放電し誘爆し始めた。

竜骨門を要としてターミナルシェルターを覆う魔力障壁が揺らめく。


「やったじゃんかっ、タカヒコ!」


「ああっ」


タカヒコはスモモとハイタッチをし、燃える竜の体内から呼び戻した業火の魔槍を回収した。ここで、


ビキビキビキビキビキッッッ!!!!


雷のような音を立てて、結晶化能力を持つ方の巨竜はその身体の芯まで氷り付かされ、砕け散っていった。

笛を奏でることを止めたアマガミも大人の姿が氷となって砕け散る。


「身体が大き過ぎるにも程があるわっ!!」


子供の姿で冷や汗をかくアマガミだったが、すぐに障壁装置の凍結破損と凍った竜の部位の落下で、やはり放電と誘爆が起こり、慌てて笛から槍に戻して飛び乗り竜の近くから離脱していった。

ターミナルの魔力障壁は完全に消えた。


「雑魚は片したが、殻が残ってんな? なんか、気配が・・っ?!」


飛行種達を片付けたグラが砲撃は止んだものの、竜の死の影響を受けない様子の蝸牛のごとき2体の竜の殻を不審に感じていると、突然殻全体が凄まじい出力で帯電し、その頂点を突き破って1体の竜が飛び出してきた。

体長は5メートル程度ながら人型の、帯電する機械と融合した尾と翼を持つ子爵級竜だった。


「3体だったのかよっ!」


旋風の魔槍に乗るグラは砂塵の魔槍で攻撃する構えを見せたが、視線が合うと同時に人型の竜は加速し、グラに蹴りを放ってきた。


「くっ!」


グラはなんとか砂塵の魔槍で受けたが、そのまま蹴りと拳打と尾による超高速のラッシュ攻撃を放ってくる人型の竜。押されるグラ。


「グラっ!」


そこへ古時計の魔槍の力で加速したタカヒコが突進し、両者加速したまま宙で激しい打ち合いとなった。

速度は互角でパワーと手数は人型の竜が勝ったが、技量と立ち回りの自在さではタカヒコが勝り、数撃、竜を斬り付けたが竜は硬く、金属の身体は燃え難く、浅い傷もたちどころに再生を始めた。

既に消耗しているタカヒコはすぐに押され始めた。


「タカヒコっ!」


加速した戦いの中に入ろうとするアマガミだったが、スモモに止められた。


「離せっ! スモモっ」


「アマガミちゃん、落ち着きなって」


「動きを止める算段が先だぜ?」


グラも近くに寄り、タカヒコと竜の加速戦を見極めだした。


「・・ッッ!!」


タカヒコへ追い込まれながらも、グラ達が『切っ掛け』を待っているのを視界の端に捉えると、タイミングを見て、古時計の魔槍の出力を上げ、一気に直線的な連撃を人型の竜に打ち込みだした。

後方に押される始める竜。


「っ!」


意図を察したアマガミは氷河の魔槍を振るって竜の後方に氷塊ひょうかいを造り出し、人型の竜を氷塊に激突させた。


「っ?!」


驚いた竜に業火の魔槍を打ち込むタカヒコ。腕を交差して受ける竜。


「オオォッッ!!!!」


タカヒコは穂先の業火の出力を上げ、爆炎を巻き起こし竜の両腕と氷塊を吹き飛ばした。

宙に投げ出された人型の竜が体勢を立て直す前に、グラが砂の竜巻を起こして竜の動きを封じ、


「どぉりゃああぁーーっ!!!」


スモモが竜巻ごと黒金の魔槍で殴り付けた。翼と腕代わりに打撃を受けたらしい尾を損傷し、再び宙に投げ出される人型の竜。

その胴に、パァンッと癇癪玉を鳴らしたような音と共に超高速で飛来した酔い茸の魔槍が撃ち込まれた。


「ゴブゥッ?!」


吐血した直後に全身を菌糸に蝕まれ、コアを砕かれ、茸塗れにされ絶命し、人型の竜は落下していった。


「当たりましたぁっ!!」


「どうにかこうにかだな」


「良かった・・」


後方に下がっていたヴァルシャーベが『雪だるま怪人砲・滅』を造り、ベルナが砲弾として酔い茸の魔槍を装填して力を付与し、音波を操る『鳴り渡り(なりわたり)の魔槍』を使うエイビアがその槍を撃ち出していた。


「一仕事済んだな」


「撤収して休憩だっ! もう身体ガッチガチだわっ」


「タカヒコぉんっ! 大丈夫だったか?!」


「うん」


「すぐに商会の爆撃が始まっちまう。とっとと・・ああ?」


タカヒコ達は地上のヴァルシャーベ達と合流しようとしていたが、タカヒコ達の進行ルートの後方から不可解な者がフラつきながら飛行してきていた。

それは完全に身体が液体化した激流の魔槍師で、液体の手で激流の魔槍を持ち、体内には折られた岩壁の魔槍と鉄雨の魔槍を内包していた。


「コノエっ?!」


「コノエさん??」


戸惑うスモモとヴァルシャーベ。液体の姿になった激流の魔槍師コノエは、タカヒコ達と合流すると、水の身体で落涙した。


「何が、あった?」


グラは既に顔を背けで2本の魔槍の柄を握り締めていたが、タカヒコは問うた。


「最初は善戦したんだが、あの黄金を使う竜使いが仮面の竜使いと合体して、急に力を増して・・なんとか撃退したが、槍を2本砕かれ、私達の身体は殺されてしまった」


「コノエ」


スモモは水になったコノエの身体に触れたが、波紋が拡がったことに怯えたように手を引っ込めた。


「ちくしょう・・っ」


悔し泣きするスモモ。


「私は魔槍の力で水に意識を少し間だけ移して、槍を回収した。折れた魔槍もいつか復元できるはず。私の槍は次の持ち主が決まるまで、誰か、使ってほしい・・ああ・・ダメだ。スモモ、故郷のシェルターに弟がいるんだ。あの子を・・あっ」


コノエは急速に力を失い、ただの清廉な水となって3本の槍と共に地に落ちてしまった。

全員言葉も無かったが、竜骨門の外のバオバブの森側の空に大量の航空機の影が見えた。ターミナル本陣への空中直射爆撃を行う商会の物だった。


「槍を回収して、一度離脱する。無駄にはしないっ!」


タカヒコの言葉に、スモモとヴァルシャーベと、比較的若いエイビアが槍を拾い、ベルナは茸の山から自分の魔槍を引き戻し、グラは迫る爆撃機を見詰めていた。

魔槍師が少な過ぎるので障壁排除後の爆撃ありきです。

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