針ヶ原
今回は特にバトル回です。魔槍師増員です!
タカヒコ達はエッジムーンの西にあるサボテンの繁る平原『針ヶ原』で野営をしていた。
外側に認識され難い秘匿障壁を張り、内側には魔除けの障壁を張り、野営地を保護している。
粉雪の魔槍でサボテンの水分を吸い出して雪を作り、乾燥した燃焼材と水を確保していた。
焚き火を前にしているタカヒコ、ヴァルシャーベ、アマガミ、そして・・
「ぶはははっ!!! やっぱシュールだなっ!」
褐色の肌の、タカヒコと同年代の槍の柄を肩に掛けた男がいた。槍は竜巻と蝶の装飾が施されていた。
「・・別に面白くない」
ムッとしている大人形態のアマガミ。
「久し振りだと思ったらめちゃデカくなってるしっ、へへっ!『大人』つってもなんで全部デカくするんだよっ、グラマーな女子レスラーかと思ったぜっ? ぶははっ」
「笑い過ぎたグラっ! 私はタカヒコと結婚するんだっ!!」
グラと呼ばれた男に笑われ過ぎて半泣きになってしまうアマガミ。
「グラ、泣いちまうぞ?」
見かねたタカヒコ。
「まぁ私もどうかと思いますけど」
「ヴァッシャは黙ってろっ!」
ヴァルシャーベには厳しいアマガミ。
「はいはい・・」
グラはサボテン水を1口飲むと、今度は閉口していたヴァルシャーベの方を向き直った。
「で? ヴァル公。お前はシレっといるけど、ミキ達のパーティーからハブられたんだって? へへっ」
「もうなんですかぁっ?! 私達のことほっといて下さいっ」
「へへへっ、タカヒコ。2人も御守りは大変だなっ」
「いや、別に。針ヶ原のシェルターの竜憑きを始末したらファイアスープのルートを取ろうと思ってるから、氷属性が2人いるならちょうどいいよ」
「手段で目的決めてんなー」
「・・・」
返す言葉が無いタカヒコ。
「ま、いいや。だったら俺もそのルートで行くっ!」
「えーっ?!!」
声を揃えるアマガミとヴァルシャーベ。
「どの道、西部のターミナルに向けてどんどん魔槍師が集まってんだ。そろそろパーティー組まないと余り物同士になって、選べなくなっちまう」
「我々を選らばなくていいだろう?!」
「そうです。グラ先輩はミキ達のパーティーに入ったらどうです?!」
「なんで俺が女子ルーキー組に入らなきゃならねーんだよ? アイツら後方支援だろ? ヴァル公はどうでもいいが、タカヒコとアマガミは腕利きで俺の槍とも相性がいい。アマガミはその『スーツ』を着てても戦えるんだろ?」
「スーツって言うなっ!」
「ぶはははっ!!」
「ぐぅ~っっっ」
こんな調子で、その夜の野営はグラの独壇場となっていた。
翌朝、タカヒコ達が針ヶ原のシェルター付近まで来ると、シェルターの障壁の内側のあちこちで煙が上がり、時折爆発も起こっていた。
「もう交戦してるなっ! 急ぐぞっ」
タカヒコは乗っている魔槍の速度を上げた。
「隔離に失敗したのかっ?」
「先制されたのかもしれませんねっ」
「先に到着してハズレを引いたヤツらがいるんだろうっ。俺も夜通し飛ばずにお前らに絡んでよかったぜっ!」
「グラっ、あの様子だと被害が大きい。現地での軽口は程々になっ!」
「まともに口を聞けるヤツらが残ってりゃいいけどなっ! へへへっ」
「グラっ!」
グラを嗜めつつ、魔槍を駆るタカヒコ達は針ヶ原のシェルターへと急行した。
シェルター内では魔物と騎士級竜達が暴れていた。
地元の警備局員達や魔物の退治屋や武装した一般市民達が応戦していたが、騎士級竜には苦戦し、為す術無く叩き潰される者達もいた。
「目に付く限りはフォローするが、分散はするなっ。まず状況を把握するっ!」
「わかった!」
「わかりましたっ」
「なんだタカヒコがリーダーかよ?」
「そこはどうでもいいっ!」
タカヒコは業火の槍で騎士級竜達を撃ち抜き、グラは『旋風の魔槍』を振るって竜巻を起こして飛行する竜以外の魔物達を擂り潰していった。
アマガミとヴァルシャーベは笛形態にした氷河と粉雪の魔槍を同調させて奏で、無数の霜柱を発生させ、地上の竜以外の魔物達を掃討した。
「入口付近はこれで・・っ!」
タカヒコが手近な範囲で最後の騎士級竜の首を跳ねて炎上させたところで、近くの区画で激しい爆発と震動が起こり、建物から吹き出すようにして巨体の、亀型の男爵級竜が出現した。
1人の魔槍師と交戦している。
「スモモだっ! 行ってみようぜっ」
グラは言いつつ、既にそちらへ向かいだした。
「皆さんは、体制立て直して下さいねっ」
「警備局だけで固まってどうにかできる段階じゃないっ」
「小型の魔物も多い、逃げ場の無い所に隠れるのは反って危険だっ!」
タカヒコ達は忠告してグラの後に続いた。
「どぉおおりゃっ!!」
勇ましい掛け声でグラがスモモと言っていた短髪の娘は、穂先に斧の刃と鎚が付いたハルベルト型の魔槍を振り下ろし、亀型竜の背の甲羅を叩き割った。
スモモの魔槍は『打撃』の力を持つ『黒金の魔槍』であった。
「ゲェエエーーッッッ?!!!」
吐血して苦しむ亀型竜にその口に、
「あらよっとっ!」
グラは旋風の魔槍を投げ付けた。
「っ?!」
1拍置き、亀型竜の腹が竜巻で破裂し、竜を絶命させた。
旋風で血や脂を払いながら、手元に呼び戻した魔槍を回収するグラ。タカヒコ達もここで合流した。
「亀は一丁上りっと。スモモっ! 今、どうなってんだよっ?」
「最悪だよっ! というか、誰? アマガミちゃんと服被ってない?」
スモモは大人形態に困惑した。
「そのアマガミだっ! 久し振りだなっ、スモモっ!!」
腰に手を当てて胸を張るアマガミ。
「???」
益々ワケがわからないスモモ。
「細かい説明は後で聞いてくれっ。今のアマガミはこの姿だ。状況は?」
タカヒコが聞き直すと、スモモは困惑しながらも一先ず了解し、話し出した。
「数日前から急に針ヶ原のシェルターの竜憑きに関するがダダ漏れになってさ。この辺りに来ていた魔槍師が14人っ! 集まったんだ」
「あからさまじゃないか?」
アマガミは飛来した8体程の鷲型の魔物『兜砕き』に槍を振るい凍気を放って倒しながら言った。
「後からはなんとでも言えるっ! とにかくっ、ついさっきシェルター内の竜憑きの根城を攻めようとしたら逆に襲われて、あっという間にシェルター中に魔物や下位竜が溢れたんだ。ちくしょうっ」
「言っても魔槍師が14人もいたんですよね?」
適当に雪だるま怪人を十数体造って、地上から散発的に攻めてくる魔物達の相手をさせるヴァルシャーベ。
「いやっ、首魁の子爵級竜に竜使いが付いていたんだよっ!」
竜使いと聞き、タカヒコ達の表情が変わった。
「竜も強化されたが、その竜使い、魔槍の力を封じる力をいきなり使ってきて・・っっ」
スモモは悔し泣きしだした。
「鎖に槍を拘束されると力を封じられるっ! 初見じゃそれがわからなくてっ、3人殺られて、魔槍自体も1本砕かれたっ!」
「っ!」
息を飲むタカヒコ達。
「魔槍師の代わりはいるが、魔槍の換えは利かねぇ。マズいことになったな」
「グラ、言い過ぎだ」
「事実だろ?」
グラは突進してきた手負いの騎士級竜を風の鎌で仕止めながらタカヒコに譲らなかった。
「殺された魔槍師の槍は2本回収できた。内、1本はあたしが持ってるけど」
スモモは笛形態の槍を1本取り出し、グラに投げ渡しながら路面を槍で撃ち、衝撃波で流動体の魔物『針山スライム』の群れを粉砕した。
「・・『砂塵の魔槍』か。メーナの槍、じゃねぇか」
「あたしじゃ相性悪いっ! グラっ、あんたが使ってっ。魔槍師の代わりはいるんだろっ?!」
「・・・上等だぜ」
グラは砂塵の魔槍の笛を見詰め、呟いた。
「スモモっ、首魁竜と竜使いの所に案内してくれ。途中、相手の詳しい力も」
「わかったよっ。『音』がするから、まだ中央音楽堂にいると思うっ。こっちっ!」
スモモは槍に飛び乗って先導し始めた。タカヒコ達も魔物や下位竜の相手は程々に、後に続いた。
「首魁竜は衝撃波を使う。凄い出力なんだ。 無理矢理竜使いに強化されたから頭はバカになっちまってるみたいだけど、まともに喰らうとあたしらみたいに吹っ飛ばされる。避けるより反らすか撃つ前に潰さないとっ」
と、前方から黒い雲のような蝗型の魔物『城食み』の大群が迫ってきた。
グラは笛形態から槍形態に砂塵の魔槍を変え、乗っている旋風の魔槍の力と合わせ、砂の大竜巻を起こして全ての城食みの大群を飲み込み、纏めてミンチにして倒した。
「凄っ」
若干引くヴァルシャーベ。
「代えは利いても借りは借りだ。きっちり返さないとなっ!!」
タカヒコは言い放ったグラの据わった目を見てから、他のメンバーの様子を素早く確認した。
「俺とスモモっ! アマガミとグラで組もうっ! ヴァッシャは支援に回ってくれっ」
「了解ですっ!」
「わかった」
「別にいいけど」
「メーナの槍は慣れてない。大味になるからよろしくなっ、アマガミっ!」
「わかった。私も慣れてないのを1本持ってるから」
「お互い出し惜しみは止そうぜっ?!」
「わかった」
グラが殺気立っているせいか、アマガミの方は淡々と応えていた。
「スモモっ、竜使いの詳細は?」
「30代くらいの痩せた男で、ニヤニヤしてる。鎖はバカみたいに大量に出すんだ。でも鎖自体の耐久性は無いから、わかってたらどうってことないっ!」
「他には?」
奇襲で初見殺しの類いとはいえ、それだけで14人もの魔槍師がいいようにあしらわれたとは考え難かった。
「 闇に紛れて移動する力が強いっ。周囲の影からも鎖を出すから影の多い場所や、守勢に回るのはヤバい」
「・・手口を知ってるスモモと炎を使う俺が相性よさそうだな。グラっ! 首魁竜の方を頼めるかっ?!」
「・・・」
グラはすぐには答えなかった。
「グラ!」
「・・わかったよ。役割分担な」
グラも了解し、タカヒコ達はスモモの案内で魔物や下位竜達を退けながら混乱の針ヶ原のシェルターの街を飛び抜けていった。
タカヒコ達が中央音楽堂近くまで来ると、管楽器のような奇妙な音が響き始めた。
「来るよっ! 躱し切れないっ」
スモモが警告した次の瞬間、辺りの建物を全て吹き飛ばす音の衝撃波がタカヒコ達を襲った。
タカヒコは業火の爆炎で、アマガミは氷塊の盾で、グラは砂と烈風の剣で、スモモは『空気』に打撃を伝えてこれを凌いだ。
ヴァルシャーベもタカヒコ達の背後に付いて勢いを殺ぎ、真鋼『しんこう』の籠手の円形障壁でどうにか防いでいた。
「とにかく近接に持ち込まないとっ! 合わせてそろそろ竜使いの間合いにも入るからっ」
「了解っ! 二手に別れようっ。ヴァッシャはグラの方にっ」
「えっ? あ、わっかりましたっ」
当然のようにタカヒコに付いてゆこうとしたヴァルシャーベは慌ててグラ達に続いた。
タカヒコ達が2方向から曲線を描いて中央音楽堂へ向かい出すと、首魁竜の音の衝撃波はグラ、アマガミ、ヴァルシャーベの方に撃たれた。
一方で、タカヒコとスモモの方には地上の瓦礫や残存する建物の『影』から無数の、先端に矢尻状の刃の付いた細鎖が飛び出し襲い掛かってきた。
「槍、気を付けてっ」
「スモモっ、俺が下に付くっ!」
タカヒコはスモモの下方に位置取り、古時計の魔槍も槍形態に変え、鎖を斬り払い、飛行用以外の槍は持っていないスモモをサポートした。
「ごめんっ、タカヒコっ!」
「まずは接近っ」
中央音楽堂に近付く程、鎖の攻撃の頻度と精度は増したが、タカヒコとスモモの鎖に対する対処力も上がっていった。
スモモも槍に乗ったまま、『拳』に打撃の力を上乗せして放ちタカヒコの打ち漏らしを払ってゆく。
「同じ手を何度も食うかっ! うらぁっ!!」
そうして崩壊した中央音楽堂にまでたどり着くと、管楽器のような形状をした奇妙な巨竜と、その背に乗る竜使いらしいニヤけ顔の男がいた。
一足早く、グラ達も中央音楽堂まで着き、ヴァルシャーベは竜の足元に数百体の雪だるま怪人達を放ち、アマガミは氷塊で衝撃波を放つ竜の口を塞ぎに掛かり、グラは砂嵐を巻き起こし始めていた。
「危ない危ない」
竜使いはアマガミの氷塊に巻き込まれそうになり、影に潜り、竜から離れるがタカヒコ達には近い別の影から現れた。
「うらっ!!!」
スモモは『出現』を見切り、黒金の魔槍で打ち掛かった。
それを鎖を編んだ盾を受ける竜使い。しかし打撃を相殺仕切れず後方へ吹き飛ばされる。辺りの瓦礫もめちゃくちゃに破壊された。
スモモは追い打ちを掛けようとしたが、周りの残った瓦礫の陰から多数の鎖が飛び出ようとした。が、
ゴォオオオオォォッッ!!!!
緑色の業火が鎖の矢尻が顔を出した全ての影を焼き払い、竜のカウンターを封じた。
双手に2つの魔槍を持つタカヒコが、竜使いと首魁竜の様子を伺いながらフォローしていた。
スモモは妨害を受けずに竜使いにラッシュを掛ける。
「メーナのっ! 皆の借りだよっ!!」
「勝手だなぁ勝手だなぁ。君達だって竜や我々竜使いを殺すだろう? 竜未満の魔物達に至っては害虫駆除か何かくらいの認識だろう?」
「立ち位置の違いだ」
タカヒコは古時計の魔槍の『加速』で竜使いの背後を取り、業火の槍を打ち込んだ。緑色の炎が周囲の影を打ち消す。
攻撃は鎖の盾で防がれたが、すかさずスモモが黒金の魔槍を振り下ろした。
炸裂に吹き飛ぶ路面。
「そうだな。そうだな。立ち位置が違うっ!」
影に逃れられなかった竜使いは鎖の濁流に乗ってその場を逃れ、合わせて追おうとしたスモモとタカヒコに鎖の濁流の中から騎士級竜を4体放って牽制した。
竜使いは、瓦礫の1つに降り立つと芝居掛かって姿勢を正した。
「名乗ってなかった。私は、私は第2曜日。ジオッド。手駒は一通り出してしまったが、せっかくだから槍をもう2、3本砕いておきたいんだ。私の『立ち位置』としては」
騎士級竜と交戦するタカヒコとスモモにニヤけ顔を保ったまま、ジオッドと名乗った竜使いは無数の鎖を放った。
「第2曜日っ?」
タカヒコは古時計の魔槍で騎士級竜4体の下半身を『減速』させて飛び越え、業火の魔槍でジオッドの鎖を両断した。
「曜日で当番制ってか?」
スモモは身動きできなくなった騎士級竜4体の頭部を纏めて黒金の魔槍で薙ぎ払って粉砕し、タカヒコが斬った鎖の隙間からジオッドに空気に打撃を与えて蹴り、突進した。
ジオッドは『鎖に塗れた剣』を取り出し、スモモの攻撃を受けた。途端、力を失う黒金の魔槍。
「っ?!」
怯んだ隙に、ジオッドはスモモの腹に蹴りを打ち込んだ。
「がっはっ!」
吹っ飛ばされたスモモを片手で受け、業火を放って牽制し、一旦距離を取るタカヒコ。
「実際な、実際な。当番制なんだよ? これが不便でなぁ」
ニヤけたまま器用に不満げな顔をするジオッド。
「あの『剣』、厄介だ」
「ゲホゲホっ・・さっきは使ってなかった! くそっ、けど離れればすぐ力は戻るっ。やれるよっ? タカヒコっ!」
「ああっ!」
タカヒコとスモモはそれぞれの魔槍を構え直した。
グラ達は、管楽器のごとき首魁竜を中央音楽堂から引き摺り出して交戦していた。
既に管楽器で言うところの『ベル』にあたる口は破壊され、身体を支える4本の脚と尾はヴァルシャーベの雪だるま怪人の自爆で半ば凍結していた。
「身体がデカ過ぎるなコイツっ!」
体内に槍を打ち込んでも一撃で倒せる見込みがなく、最悪槍自体を捕らえられてしまう為、グラは攻めあぐねていた。不慣れな砂塵の魔槍の負担も大きい。
「ンパァアアアァッッッ!!!!」
口は破壊されたが、全身にもある口に比べれば小さなの管楽器のような器官から一斉に衝撃波を放ってくる首魁竜。
アマガミとグラは問題なく回避したが、疲労困憊のヴァルシャーベは無駄に籠手の障壁で受けてさらに消耗していた。
「ヴァッシャっ! 十分だっ。一旦下がれっ!!」
「脚1本くらいは落としますっ! 行けっ」
アマガミの忠告に従わず、雪だるま怪人9体を合体させ『雪だるま怪巨人』を造り出し、けし掛けるヴァルシャーベ。
雪だるま怪巨人は衝撃波の迎撃で片腕と頭部を失いながら首魁竜の右前肢に取り付き、自爆、猛烈な凍気を放って凍り付かせ、その膝を粉砕した。
「パァアアッッッ?!!」
首魁竜は体勢を崩し、巨体でゆっくりと転倒しだしたが、同時に全身からデタラメに衝撃波を放ちだした。
グラとアマガミは躱して追い打ちの構えを見せたが、
「どぉおおおっ?! 後、よろしくですぅううーーーっ!!!!」
ヴァルシャーベは遥か後方に吹っ飛ばされていった。
「任されたぜっ? アマガミっ!」
「一時、弾幕を止めるっ。仕止めてくれっ」
「いい役回りだっ」
アマガミは宙で槍から飛び降りて柄を掴み、フルパワーで転倒した首魁竜に向かって凍気を放った。
頭部以外の体表を氷塊に覆われる首魁竜。頭部周辺以外からの衝撃波は止まった。
「おっしゃあっ!! 頼むぜメーナっ!」
旋風の魔槍に乗るグラは砂塵の魔槍を構え、竜巻を纏って衝撃波を躱し、弾きながら、口の崩壊した首魁竜の『喉』に突入していった。
「ンバァウボヴヴヴゥッッ??!!!!」
倒れたまま全身を震わせる管楽器のごとき首魁竜。氷河の魔槍に乗るアマガミは『弧月の魔槍』を笛形態から槍形態に変えつつ、様子を伺った。
「っ!!!」
首魁竜が一際大きく身体を震わせた次の瞬間、竜の横腹を突き破って、グラが砂嵐を纏って飛び出してきた。
首魁竜はみるみると渇き砂となり、骨と体表の氷のみ残して風に散っていった。
「はぁはぁ・・コアが硬ぇんだよっ」
グラは青い顔で、吐き捨てるように言った。アマガミは乗っている槍をグラの方に少し寄せた。
「グラ、少し休んでいろ。私はタカヒコ達のフォローにゆく。あまり話したことはないが、メーナ達の仇は私が」
「『子供』に頼ってられねーなっ!」
グラはアマガミに構わず、もうかなり離れていたが、激しい爆発で連発しているタカヒコ達の方へと飛び出していった。
「グラっ! もうっ」
アマガミも慌てて後に続いた。
タカヒコとスモモのジオッドの戦闘は続いていた。
ジオッドは影を移動し、時折騎士級竜を召喚しながら鎖を放ち、近接になると『槍』を狙って鎖に塗れた剣を振るうことを繰り返した。
ある種、パターンは決まっていたがまるで消耗する様子のないジオッドに対し、タカヒコとスモモは確実に疲労を蓄積させていた。
「ん~、時間が、時間が掛かってるなぁ。業火の魔槍だけでも砕いとくか」
ジオッドは騎士級竜を7体纏めて召喚し、全てスモモにけし掛け、自分はタカヒコに突進した。
「タカヒコっ!」
「問題無いっ!!」
タカヒコは古時計の槍を使って加速し、自分1人に集中した鎖を捌き始め、ジオッドと距離を取りながら動きを見極めに掛かった。
「またそれか、またそれか。・・もう慣れた」
ジオッドは唐突に鎖に塗れた剣を自分の影に深々と刺した。
「っ?!」
剣の切っ先は、加速するタカヒコの向かった先の崩れたアパートの影から突き出された。
剣は正確に業火の魔槍を持つ右腕を狙っている。タカヒコは咄嗟に左手で持つ古時計の魔槍でこれを払った。
剣に触れた瞬間、加速の力は奪われ、速度を落とし、少し体勢を崩すタカヒコ。
予期していたジオッドは完全にタイミングを合わせて周囲の影から多数の鎖を放ち、タカヒコの2本の魔槍と両腕を鎖で絡め取った。
魔槍の力を奪われ、動きも封じられるタカヒコ。
「くっ!」
スモモも騎士級竜に取り囲まれ苦戦していた。
「『他の曜日』は大袈裟だな、大袈裟だな。無駄なことをせず、処理すればいい・・」
ジオッドは鎖に塗れた剣を手に一度影に潜り、すぐにタカヒコの側の影から薄く笑って現れた。
タカヒコは『蹴り』を打つべく密かに構えた。
「まずは使い手の方を」
その時、
「テメェっ! ごらぁっ!!!」
グラが乗っていた旋風の魔槍でジオッドに突進し、それを剣で受けられ無力化されると、砂塵の魔槍で無力化されながらも剣を大きく弾き、2本の魔槍を『手離し』、拳によるラッシュをジオッドの顔面に打ち込み出した。
「オォォッッ!!! 笑ってんなよっ?!」
ジオッドを殴り飛ばすグラ。手離した2本の魔槍も操って手元に戻した。
「タカヒコぉんっ!!」
アマガミも遅れて現れ、タカヒコの両腕と魔槍を縛る鎖を氷河の魔槍で切断した。
「助かった、2人とも。スモモはっ?」
振り返ると、
「邪魔だぁあああっ!!!!」
スモモは路面を魔槍で打って取り囲む騎士級竜達を怯ませ、最も近い2体を薙ぎ払って仕止めると、そこからは一方的に次々と斬り伏せ、叩き潰して全滅させた。
「・・大丈夫そうだな。さてと」
タカヒコは倒れたままのジオッドに向き直った。
「妙な手応えだったぞ?」
先程まで頭に血が昇っていた様子だったグラだったが、さらなる追い打ちは控えていた。
顔をほぼ潰されたジオッドの身体から煙が立ち上がり、白骨化したが、遺骸と剣と鎖が影に沈むとすぐに『無傷』のジオッドが剣と鎖を持って影からニヤけ顔のまま浮き上がってきた。
「さすがにね、さすがにね、『素手で撲殺』されたのは初めてだった。分体を1つ無駄にしたな」
「コイツも分体を使うのか」
ジオッドはタカヒコの呟きに一言、何か言おうとしたが、ニヤけたまま、面倒そうに溜め息を吐いてやめた様子だった。
「・・ま、潮時か。潮時か。それじゃ」
去る気配のジオッドだったが、ここでアマガミが素早くタカヒコに目配せした。
「っ!」
アマガミはジオッドが再び影に潜ろうとするのと同時にタカヒコのすぐ目の前の空間を弧月の魔槍で斬り裂いた。
ブンッッ!!!!
空間その物が裂け、裂けた空間を埋めるようにジオッドはタカヒコの『目の前の空間』に現れた。
「っな?!」
タカヒコは驚愕するジオッドの、剣を持つ右腕と首を業火の魔槍で跳ね上げ、身体と鎖を焼き尽くした。そこへ、
「どいてぇええーーーーっっ!!!!!」
スモモが飛び込んできて、ジオッドから離れた鎖に塗れた剣を槍本体には触れさせず、空気を打つ打撃の衝撃のみ直撃させる形で路面に叩き付けた。飛び退くタカヒコ達。
路面は陥没し、水道管が破裂し、ジオッドの剣は粉々に砕け散った。
「ざまぁみろっ!!! 直に触らなきゃいいんだろっ?! あたし、あったまいいっ!!!」
肩で息をしながら、スモモは豪語した。
と、周囲全体に闇が逆巻き出した。
「気を付けろっ!」
闇に対抗して周囲に業火を放ちながら、仲間達に警告するタカヒコ。
「・・分体2体と貴重な魔剣を失ったが、失ったが・・魔槍『2本』を砕き、魔槍師『5人』を仕止めた。よしとしよう。後は他の曜日に任せるさ・・・」
闇は猛る業火から逃れるように掻き消えていった。
「5人、2本」
スモモは自分が認識していた以上の数字に茫然としていた。
「スモモ、まだ雑魚掃討が残ってるぜ? 遺体も回収してやんないとな」
グラはスモモの肩に手を置いた。
「うん・・」
「アマガミ、いい判断だった。凄い槍だな、それ」
「ふふっ、もっと積極的に褒めていいぞ?」
「ヴァッシャと同じようなこと言ってるな」
「うっ・・一緒にして欲しくないっ!」
「ははっ、で? ヴァッシャは?」
「どっか飛んでった」
「なんだそりゃ・・」
ヴァッシャは20分後、魔力も体力も尽きたところで下等な魔物に囲まれた為、自ら強く氷漬けになって身を守って眠っているのを発見されたが、非常に頑強な氷で、解凍して中から取り出すのにタカヒコ達はかなり往生するハメになった。
この同日、魔槍師達は他のターミナル寄りのシェルター数ヶ所でも同じような竜使い達の奇襲を受け、針ヶ原のシェルターの被害とと合わせると魔槍師12名が死亡し、魔槍4本が砕かれ、負傷や魔槍の損傷を理由に10名の魔槍師が戦線を離脱せざるを得なかった。
西部ターミナルシェルターを攻略する為に集まってきていた魔槍師の内、戦える者は17名に減らされた。
・・・事態収拾後、タカヒコ、アマガミ、ヴァルシャーベ、グラ、スモモの5人はファイアスープシェルターに向かう小型航空機に乗っていた。
全員グッタリとしており、アマガミも子供形態に戻っている。
「商会がなけなしの航空機を飛ばしてくれて助かった。移動中休める」
「なんか、ちょっと前にどっかでゆっくりする、みたいなこと言ってませんでした?」
「こうなってしまうとな。相手も損害を出してる、時間を与えたくない」
「とにかく眠ろう。変化する力も無い・・」
「力をつけてっ、皆の仇を討とうっ!」
スモモは亡くなった魔槍師メーナとコンビを組んでいた為、流れでタカヒコ達のパーティーに入ることになっていた。
「対象がボヤけると仕止め損なう。俺はあのニヤけ野郎を受け持つぜ?」
「とにかく、皆少し眠ろう。疲れた・・」
日頃、疲れ知らずな魔槍師達であったが、今ばかりは、泥のように、固い座席で眠りに就くのであった。
針ヶ原のシェルターは針ヶ原にあった4つのシェルターが、ターミナル占拠後に自衛の為に1ヶ所に集まった規模の大きなシェルターでした。文化も比較的発達しています。今回の首魁竜も著名な音楽家の皮を被って潜伏しておりました。