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戦車墓場

ヴァルシャーベ回です。メカと山羊、多めですっ!

 槍に乗り飛行するタカヒコとヴァルシャーベの下方に霧に包まれた森が拡がり始めていた。


「ヴァル公、そろそろくるぞ? 気を付けろよ」


「えっ? 遠くないですか?」


「遠距離型は大昔の高度な工学兵器に適応してる。バカみたいな射程で」


 タカヒコが言い終わらぬ内に、3条の熱線が二人を正確に狙って放たれた。


「おっほぉっ?!」


「下手に弾こうとするなよっ?」


 連射される熱線をタカヒコは上手く避けたが、ヴァルシャーベは早くも追い込まれ出した。


「俺が先行して陽動するっ! ちょっと下がるんだっ」


「はひぃ~っ」


 ヴァルシャーベを少し下がらせるタカヒコ。ヴァルシャーベはなんとか態勢を立て直した。


「ふうっ、これならなんとかいけそうです! このまま近接に持ち込んじゃいましょうっ」


「いや、男爵級竜だ。こんなもんじゃ済まないっ。高度を落とすぞっ?!」


「そこまで慎重にならなくても・・っ?!」


 熱線に加え、電撃属性の極太のエネルギー波が二人を襲った。

 回避するタカヒコ。片袖を焼かれながらもなんとか避けるヴァルシャーベ。二人は左右に大きく引き離された。


「森に入る! 竜の所で合流しよう!!」


「ええ~っ?! すぐ落ち合いましょうよっ? その方が私が安全・・んだぁっ?!」


 また熱線と極太エネルギー波のコンボを撃たれ、必死で避けながらヴァルシャーベは一人、森へと突入していった。


イーストブロウの西には湿った、しかし痩せた木ばかりが目立つ森林地帯があった。

冬季以外の昼間は殆んど霧に閉ざされている。湿度は近くの谷の向こうにある湿地から供給されていたが、元々土地は痩せているので大きな木は育たなかった。

霧のせいで草の育ちも悪かったが、野生化した山羊が群生しており生えたそばから喰われてしまっていた。

木々もトゲや毒を持つ物以外は山羊の食害によって枯らされ、残った木々は容易に人を寄せ付けない森を形成していた。

その一角に『戦車墓場』はある。まだ一帯が森林化する前、70年以上前の地域紛争で使われた戦車が大量に廃棄された区域。

湿度の原因になった『谷』もこの紛争で投入された伯爵級竜の被害による物であったらしいが、今となっては争った両国も地形を変える程の被害を出した竜も滅び、西部域全体の文明後退の影響もあって詳細は伝わっていない。

いずれにせよ、無数の戦車や兵器群の残骸が霧深いトゲと毒の木々の中に打ち捨てられた忘却の森。それが戦車墓場であったのだが、


「せんぱーいっ! お~いっ!! タカヒコせんぱーいっ! 可愛くて賢い後輩が絶賛迷子中ですよぉーっ?! レスキューチャーンスっ!! 好感度上がりますよぉっ?!」


およそこの場に似つかわしくないダボダボの旅装束を着たヴァルシャーベが、粉雪の魔槍を手にウロついていた。


「あ~、完全にはぐれましたねこれは。あるいは先輩『が』私からはぐれましたねっ。・・飛びたいところですけど」


周囲を警戒して見回すヴァルシャーベ。木々や鉄屑の中に山羊が多数いるだけだった。


「『撃墜』されそうになりましたしねぇ・・」


焦げた右の袖を気にしていると、山羊の1頭と目が合うヴァルシャーベ。

なんの感情も無い目でヴァルシャーベを見る山羊。


「誰かの悪夢みたいな環境です・・。取り敢えず」


ヴァルシャーベは浮かせた粉雪の魔槍に乗ると、地面から少し浮かせた程度の高さで低速飛行を始めた。

暫くは霧の中、木々と山羊と錆果てた戦車等の残骸を避けて飛んでいたが、


「っ!」


木々や、鉄屑の中をヴァルシャーベを追う者達の影が現れだし、その影はどんどん増えていった。

それらはガシャガシャと金属音を立てていた。


「『野良』もそりゃいますよねっ!」


撃墜リスクがあり、高度は上げられず、視界が悪く障害物がある中の低空高速飛行も危うい。相手の『程度』も不明だった。

ヴァルシャーベは槍から飛び降り、槍を引き寄せて構え、粉雪を纏いながら駆けだした。

ヴァルシャーベの戦闘態勢に呼応し、追っていた者達が物陰から姿を現した。

いずれも体長2メートル程度の錆びたデタラメに結合した機械の身体を持つ概ね人型を持つ魔物『廃機人』達であった。

形態のバラつきは激しいが全て砲門を持ち、大半は戦車のような頭部をしていた。『戦車型廃機人』とでも言うべきか?


「ギギギッ!!」


「ガガッ!」


「ピポポポッ!!!」


奇妙な言語? を話しながら、廃機人達は山羊にはまるで無関心だったがヴァルシャーベには容赦無く砲撃してきた。

駆けながらそれらを躱し、穂先からだす雪塊の刃で切断しつつ相殺してゆくヴァルシャーベ。


「山羊はよくて、私はダメっ! というジャッジに不満がありますっ」


危険なトゲや毒の木々を避けつつ、跳び跳ね回る山羊達も避け、砲撃を捌いてゆくヴァルシャーベは徐々に穂先の『凍気』を増していった。


「ひゃっこいですよっ?!」


ヴァルシャーベは四方八方に穂先で高速斬撃を放った。凍気が刃となり山羊達を避けて全弾、廃機人達に命中した。

凍結し、内部から霜柱が噴き出して破裂させられ、廃機人達は全滅した。


「ふんっ! 確かな実力っ。おっ? これはレア素材っ!『金の歯車』じゃないですかっ?! こっちは『銀の歯車』もどっさり・・思わぬ収入ですっ。ぐっふっふっ。あ、山羊さんどいてください」


死んだ廃機人達から散らばった素材を山羊を退けながら嬉々として拾い集めるヴァルシャーベ。と、


「っ?!」


ガシャガシャガシャガシャガシャッ!!!!


周囲の木々と錆果てた残骸の陰から先程の3倍以上の廃機人達が現れた。一斉に砲撃してくる。


「ちょーーっ?!! 多い多い多いぃーっ!!!! 無理でしょうがぁーっ?!!!」


砲撃を捌ききれず、煤だらけにされて慌てて転がって砲撃が集中した場所から離れ、浮かせ槍に飛び乗って逃げてゆく山羊達を追い越して低空高速飛行で遁走を計るヴァルシャーベ。

障害物への激突リスクはあるが言ってる場合ではなかった。

大半の廃機人達は置き去りにできたが、中には下半身をキャタピラ形態に『変型』させて高速走行で追ってくる者達もいた。

追いながら砲撃してくる。ヴァルシャーベは槍に乗っているので槍での迎撃はできない。後方からの砲撃を『察して』避けてゆくしかなかった。


「くっそぉ~っ、こうなったらっ」


ヴァルシャーベが乗っている槍の穂先に凍気溜めだすと、


「君ッ、コッチダッ! オット」


追ってきている廃機人より小柄で身体に砲門が見当たらない廃機人3体、キャタピラ形態で山羊等を避けながら並走してきた。


「はぁ? なんですか?! 騙されませんよっ?! なんの罠ですかっ?!」


断固拒否の構えのヴァルシャーベ。


「君ヲ倒スダケナラ横カラ撃テバ倒セタッ、わたし達ヲ信ジテッ!!」


「う~っっっ・・・」


「信ジテッ! 助ケタイッ!!」


小柄な廃機人のカメラやセンサーの目を見るヴァルシャーベ。


「・・わかりました」


ヴァルシャーベは凍気を緩め、乗っている槍を小柄な廃機人達の方に寄せた。


「足止メヲッ!」


仲間の1体に指示を出し、リーダー格らしい小柄な廃機人はヴァルシャーベを先導し始めた。


「山羊二気ヲ付ケテッ! コッチッ」


「嘘だったらすんごい反撃しますよっ?!」


「ソレデイイヨッ」


ヴァルシャーベ達が霧の中に消えだすと、足止めを託された小柄な廃機人はバック走行に切り替えた。

すぐに曲げた右の肘間接から砲門を出し、背中の弾倉から取り出したロケット弾を装填し、砲撃しながら追ってくるキャタピラ廃機人達に放った。

ロケット弾は木の1本に着弾するとチャフスモークを噴出させ、周囲の山羊を仰天させると共に、キャタピラ廃機人達を敵失状態にした。

足止めを託された小柄な廃棄人はバック走行をやめ、ヴァルシャーベ達が消えた方の霧の中へと走り去っていった。



リーダー格の小柄は廃機人達は移動しながら数ヶ所、魔除けの障壁を越えていった。


「魔物なのになんともないんですか?!」


槍に乗ってついてゆきながら困惑するヴァルシャーベ。


「わたし達ハ『魔』ジャナイヨ? 長イ年月ノ中デ、『心ノ回路』ヲ造ルコトニ成功シタンダッ!」


「え~っ?!」


まともな自我を持つ廃機人等、ヴァルシャーベは会ったことがなかった。


「デモ、ソウジャナイやつラニハ襲ワレテシマウ。ダカラぼく達ハわたし達ノしぇるたーヲ造ルコトニシタンダ」


痩せた土地のはずが、木が異常発達したエリアに入り段差が激しくなると、小柄な廃機人達はキャタピラ形態から2足歩行形態に切り替えて進みだした。

そのまま進み続け、最後の障壁を越えると、霧も無く気温も安定した、木々とガラクタで囲まれた居住区にたどり着いた。やはり山羊も多く、木とガラクタでできた小屋が多数ある。


「ヨウコソッ!『戦車墓場のシェルター』ヘッ!!」


「ふぁ~っ」


大口を開けてしまうヴァルシャーベ。

住人は様々な廃機人達であったが、大半は砲門を持たず小柄であったが、中には極端に小柄な者や大柄な者、人型ではない者もいた。

さらに、


「人間?!」


住人の中にはいずれも年老いた男達も十数名混ざっていた。


「え? 待って下さいっ。情報が1個多いですよっ?!」


混乱するヴァルシャーベ。


「40年クライ前ニコノ森デれあ素材ヲ集メタリ、外デハ貴重ラシイ山羊ヲ狩ッタリスルノガ流行ッタコトガアッタンダ。来タ人達ハ殆ンド全滅シテシマッタケド・・」


老人達は複雑な表情でヴァルシャーベを見ていた。


「連レテ森カラハ出ラレナカッタカラ、ズット保護シテルンダヨ」


「『ずっと』、ですか・・」


時間感覚が人間と違う自覚があるのか不安になるヴァルシャーベ。


「君ハ魔槍師ナンダロウ? 竜ヲ倒シニ来タナラチョウドイイ。ズット待ッテタンダ。竜ダケデモ倒シテクレタラ、わたし達ダケデ連レ出セルカモシレナイ」


「う~ん・・」


老人達はよく見れば元は屈強で一癖ありそうな者達ばかりだったが、いまではすっかり年老いている。意識が朦朧としている者もいた。

ヴァルシャーベは溜め息を吐いた。


「仕方無いですね。貴方達のことはあまり大っぴらにしない方がいいでしょうし、狩り終わったらサクっと私が纏めて運んであげましょうっ!」


「本当カイ?」


どよめく老人達。


「任せて下さいっ! 私の『アシスタント』も、この森のどっかにいるはずですしねっ」


小柄な廃機人のリーダー格が改めて進み出てきて、ヴァルシャーベに立派な籠手を付けた右手を差し伸べた。


「アリガトウ。わたしハまつゆき3号。勿論、竜退治ハわたしモ協力スルカラネッ!」


ヴァルシャーベはその金属の手を取って握手した。


「ヴァルシャーベです。私は御守りはしませんよぉっ?!」


早々に先輩風を吹かせるヴァルシャーベだった。



「取り敢えず、か」


 タカヒコは向かってきた廃機人を一通り片付け、槍に乗り直して竜の気配に向けて進もうとしたが、また別の気配を霧と木々と山羊と戦車の鉄屑の向こうに感じた。


「敵・・ではないな」


 気配の方に進んでゆくと、1体の廃機人が、毒とトゲの、2本の木が寄り合わさった大木と同化した状態で沈黙していた。

 敵意は感じないが生命の気配はあった。


「君、どんな状態だい?」


「・・魔槍師カ。竜ヲ倒シニ来タノダナ」


「そういう生業だからさ。口が聞けるんだな」


「・・私ハコノ森デ、最初ニ心ノ回路ヲ見付ケタ者ダ」


「心の回路、ね」


 タカヒコは廃機人が自我を持つケースを幾度か見ていたが、『それ』に対する呼称は様々だった。


「・・竜ガ滅ビレバ、コノ時ノ止マッタ森モ、動キダスダロウ」


「まぁ人の手は入るだろうな。山羊や素材類は貴重だ」


「・・魔槍師ヨ、私モ滅ボシテクレ。私ガさんぷるトシテ利用サレルノハ危ウイ。ソレニ、私ニハ罪ガアル。私ハ」


「いいよ」


 タカヒコは遮り、槍の穂先に業火を灯した。


「俺は殺す者で、牧師の類いじゃない。仕事はしよう」


「・・アリガトウ」


 一度大きく息を吐き、タカヒコは燃える槍を構え、木と同化した廃機人のコアに打ち込んだ。

 廃機人と2本の木は緑色の炎で燃え上がった。


「まぁ、いい仕事とは思ってないよ」


 タカヒコは燃える木を背に、浮かせた魔槍に乗り、竜を目指して去っていった。



シェルターで小一時間程休憩した後、魔除けの障壁を組み合わせた抜け道を通り、霧深い『戦車墓場の竜』の住み処のギリギリまで接近したヴァルシャーベ達。


「ココガ知ラレズニ道ヲ作レル限界。マァやつハ大体寝テルケドネ」


「寝込みを襲えそうですか? ふふふっ」


悪い顔をするヴァルシャーベ。


「竜二関シテハ先手ヲ取レルト思ウケド・・」


マツユキ3号が合図すると、ここまで同伴していた外野味方の廃機人10体が5体ずつ合体して、『大廃機人』に変型した。


「おおっ?!」


ビビるヴァルシャーベ。


「コノ辺リカラハ竜ノ影響デ変質シタ廃機人達ガ多ク出没スルンダ。山羊モイナイ。露払イハ任セヨウ」


マッスルポーズを取ってみせる大廃機人2体。


「カッコいいっ! じゃ、ゆきましょうかっ? マツユキ3号っ!」


「了解ダッ! ばぁるしゃーべっ!!」


ヴァルシャーベは粉雪の魔槍に乗り、マツユキ3号達はキャタピラ形態に変型し、戦車墓場深部を爆進し始めた。

件の『竜型廃機人』はすぐに現れた。砲に加え、ドリルの腕やミサイルポッド、放電鞭等を使い、襲い掛かってきた。


「ガガッ!!」


「ポポポボッ!!」


独自言語は低音であった。


「結構強いですけど、素材いいの落としまくりですよっ?!」


ドリルを避けつつ、槍乗ったまま、手刀を振るって雪塊の刃で竜型廃機人を粉砕し、落とす希少素材に目の色を変えるヴァルシャーベ。


「構ワナイデ!! 凄ク数ガ多インダッ! 仲間二任セテッ」


マツユキ3号は『ヒートチェーンソー』と『グレネードガン』を組み合わせた武器を装備していたが、無駄撃ちや刃の消耗を避け、ほぼ回避に専念していた。


「ギーガーッ!!!」


「ムーチョーッ!!!」


仲間の大廃機人達は放電鞭はものともせず、ドリルを叩き払い、ミサイルは『目ビーム』で撃ち落とし、『特大ロケットパンチ』と口から放つ『溶ける竜巻』で竜型廃機人達を撃破していった。


「めちゃくちゃ強いじゃないですか?! 竜本体はともかく、シェルターの人達はマツユキ3号達だけで逃がせるんじゃないですか?」


「しぇるたーカラ戦車墓場ヲ抜ケルマデ凄ク遠イ。木ヨリ高ク飛ブト竜ガ反応シテ撃墜シヨウトシテルクシ、しぇるたーニハ戦エナイ仲間モ大勢イル。戦力ガ足リナインダ」


「保護対象がキャパ越えちゃってるんですね・・」


ヴァルシャーベは積極的に戦うのはやめ、相手の足やキャタピラを凍結させて足止めする程度に留めていなす対応に切り替えた。


「竜ニ呼応シテ狂暴ナ竜型ノ個体ガ増エテイル。コノママデハ脱出ドコロカしぇるたーモ守レナクナッテシマウ。わたし達ハばぁるしゃーべニ賭ケルヨ?」


追尾や初速の甘いミサイルを避けながらマツユキ3号は言った。


「賭けられちゃいましたねぇっ! よ~しっ!!」


ヴァルシャーベは乗っている槍の穂先に凍気を溜め、一気に解放した。

輝く雪結晶吹き出し、周囲と、遥か前方までを多い尽くした。それは攻撃の為の力ではなかった。


「ばぁるしゃーべ?!」


戸惑うマツユキ3号。


「私の槍の力は『粉雪』。氷と幻惑の力なのですっ!!!」


輝く結晶の効果範囲の竜型廃機人達は酔って惚けたような状態になり、戦意を喪失していた。


「今の内に距離を稼ぎましょうっ!」


「了解デスッ! 凄イ力デスネッ!!」


「ふふふっ! そういうのっ、もっと下さいっ!!」


ヴァルシャーベが図に乗りながらも、一行は戦闘をパスしてより深部へと進んでいった。



一方その頃、タカヒコは、


「ふぁ~あっ」


深部の森の少し高台になった位置にさらに山積みした撃破済みの竜型廃機人の山の頂点にしゃがみ、欠伸をしていた。

森の木々の一番高い位置とほぼ同じ高さの視点になっている。この森の『男爵級竜』による『オート迎撃』の対象にはならないが、見通しは利いた。

常人では遠くにそれらしいモノが見える程度だが、タカヒコの視界の中では怠惰に眠り続ける『金属』と『鹿』が合わさったような巨体を持つ竜がハッキリと見える。

頭上の木々より高い位置には『分体』らしい、簡略化された竜の頭部が3つ浮いていた。


「・・遅いな。ヴァル公のヤツ、いつになったら合流するんだ? まったく」


ボヤきつつ、棒状糧食を噛りだすと、森の奥から竜型廃機人の増援が、20体程現れたが、タカヒコはしゃがんだまま業火の魔槍を振るって緑色の炎を放ち、纏めで爆破させた。

並の廃機人は業火ですぐに誘爆させられるのでタカヒコに取っては対処しやすい相手だった。


「あと30分っ! いや、あと45分、いやっ、55分は待ってやろう。ほんとすっとろいなぁ・・」


棒状糧食をわしわし食べるタカヒコだった。



当のヴァルシャーベとマツユキ3号達は他の竜型廃機人よりも一回り大きく、より竜に近い姿をした『竜型廃機人・激情体』3体と交戦していた。


「幻が効かないようですっ!」


「竜マデモウスグダッ、仲間ニ任セテ先ヘユコウッ!」


激情体の『電光のブレス』を避けつつ、一瞬考えるヴァルシャーベ。


「メインカメラだけでも潰しておきますっ! 1体は任せましたっ」


「・・ワカッタ」


ヴァルシャーベは槍から飛び降りながら、粉雪の魔槍の力で『雪だるま怪人』を2体造って激情体の1体にけしかけながら、もう1体の『散弾砲』を雪を固めた盾で防いだ。


「雪は万能ですっ!」


足元から雪を吹き出し加速するヴァルシャーベ。激情体の『振動爪』を掻い潜り、頭部に槍を打ち込む。

ガチンッ! 雪塊が弾け、激情体の頭部を吹き飛ばした。

雪だるま怪人2体も自爆して引き受けた激情体の頭部を破壊。マツユキ3号もヒートチェーンソーで残る1体の頭部を切断した。

それでも周囲に散弾や熱線やミサイルを乱射して暴れる激情体達。


「十分でしょうっ! ゆきましょうっ」


「後ハヨロシクネッ!」


2人は大廃機人達に激情体のとどめを託し、先を急いだ。


「・・マツユキ3号。思うんですけど」


移動しながら、ヴァルシャーベは話しだした。


「何?」


「今は竜がいるからこの森は放置されてますけど、私達が退治しちゃったら遠からず人の手が入ると思います。あのお年寄り達からも話は広まると思いますし」


マツユキ3号は暫く沈黙してから、音声を出した。


「・・竜ガイナクナリ、人間達ヲ引キ取ッテクレタラ、わたし達モコノ森ヲ出ルヨ。生マレ育ッタ場所ダケド、ドコカニわたし達ガ暮ラシテユケル場所ガアルト思ウ。山羊達モ少シ連レテユコウカナ?」


「それもいいですねっ!」


ヴァルシャーベが笑い掛けると、


「ソウダロウ?」


表情の無いマツユキ3号も笑っているようだった。



・・それから数分後、2人は眠り続ける戦車墓場の竜のすぐ側の茂みまで来ていた。


「ふぉおお・・想定より倍くらい大きいんですけどっ?!」


「浮イテル3ツノ頭ハスグ反応スル。マズ角ヲ片方ダケデモ破壊シヨウ」


金属の竜は雄鹿のような形態をしており、左右の角がかなり発達していた。


「角ですか? 初手で眉間割っちゃいません?」


「こいつハ身体ニイクツモコアこあガアルカラ。ソレニアノ角ハ強烈ナ電撃ヲ撃ッテクル。片方ダケデモ壊シトコウ」


「なるほど。そういうことなら・・ゆきますよっ?!」


ヴァルシャーベとマツユキ3号は茂みから飛び出した。まず、頭部分体が反応し、着弾点が激しく炸裂し、煮え立つ程の熱線を放ってきた。

素早くこれを避ける2人。マツユキ3号はグレネードガンを連射して3つの頭部分体を威嚇し、ヴァルシャーベは足元から雪のアーチを噴出させて右側の角に迫った。

竜が目を開けだし、角が帯電し始める。


「おはようございますっ!!」


粉雪の魔槍を打ち込み、フルパワーの雪塊を炸裂させて右側の角を粉砕するヴァルシャーベ。


「モォアアァァーーーッッ!!!!」


野太い咆哮を上げ、左側の角から周囲に猛烈な電撃を撒き散らす鹿のごとき金属竜。


「あばばっ??!!!」


躱し切れず結構喰らってしまうヴァルシャーベ。


「ばぁるしゃーべっ!!」


電撃耐性があるらしいマツユキ3号は感電しながらも空中で感電しているヴァルシャーベにワイヤー付きの左手を伸ばして捕獲し、ワイヤーを切り離し、手首の結合部からジェット噴射をして、ヴァルシャーベを茂みの向こうの電撃の範囲外に逃がした。

電撃が効かないと見た竜は、身を起こしながら電撃を止め、頭部分体の熱線をマツユキ3号1人に集中させた。

逃げ場を押さえられ、右手の武器を熱線で消し飛ばされるマツユキ3号。

頭部分体の1体が体勢を崩したマツユキ3号に狙いを定めた。その時、

緑色に燃える流星のように飛来したタカヒコがマツユキ3号を狙った頭部分体を槍で打ち抜き、その勢いのまま鹿のごとき金属竜の左側角も粉砕した。


「モァアアッ??!!」


仰け反る鹿のごとき金属竜。残る2体の頭部分体は槍に乗り直したタカヒコを熱線で撃墜しようとしたが、空を縫うように飛ぶタカヒコを捉えきれない。


「味方だよなっ?! もう戦えないなら下がるんだっ!」


マツユキ3号に呼び掛けるタカヒコ。


「あしすたんとノ方ダネッ! ドウモアリガトウっ!!」


両足の裏からジェット噴射をして茂みに離脱してゆくマツユキ3号。


「アシスタントぉ~?? うぉっ」


呆れながら頭部分体に気を取られていると、竜本体が激情体とは比べ物にならない出力と太さの『メガ電光ブレス』を吐かれて、慌てて回避するタカヒコ。


「ヴァル公っ!!!! ダウンしてる場合かっ?! 仕事をしろっ!!」


ヴァルシャーベが逃がされた茂みの方に叫ぶタカヒコ。

これに呼応し、茂みが凍り付く程の凍気が吹き出し、次の瞬間茂みから100体以上の雪だるま怪人達が飛び出してきた。


「モァアッッ??!」


雪だるま怪人達は頭部分体の熱線と竜本体のメガ電光ブレスで半数は蒸発させられたが、残りは纏めて竜本体の4本の足に取り付いて次々と自爆して、全ての脚を氷漬けにした。


「モァアアーーッッ!!!」


苦しんで身動ぎする鹿のごとき金属竜。頭部分体も一時統制を失なった。

タカヒコはその隙を逃さず頭部分体の2体立て続けに切断し、爆散させた。


「よくやったっ! ヴァル公っ」


「・・当然ですよ? ふっふっふっ」


茂みの中から粉雪の魔槍を杖にして、焦げ気味で髪もパンチパーマ状態のヴァルシャーベがヨロヨロと現れた。

そのヴァルシャーベに鹿のごとき金属竜はメガ電光ブレスを放とうとしたが、茂みから姿を表したマツユキ3号が、屈んで曲げた右膝から露出させたガトリングガンを連射して阻害した。

竜は両目を光らせて激昂し、マツユキ3号にブレスを放とうとしたが、


「っ?!」


超高温のエネルギーを探知してを右方向を振り向く。槍に乗ったタカヒコが穂先に火力を集中させて加速して突進してくる。


「オオォーーッ!!!!」


咄嗟に不十分な充填のメガ電光ブレスを放つが、タカヒコに回避される竜。

タカヒコは加速する槍から飛び降りながら柄を掴み、足元から炎を炸裂させてさらに加速して鹿のごとき金属竜の横腹を貫通していった。


「モァアアアアアーーーーッッ!!!!」


絶叫し、業火の炸裂で内部から全てのコアを焼き尽くされ誘爆させられる鹿のごとき金属竜。

氷漬けにされた四肢を砕きながら、そのまま横倒しに地面に落下していった。


「完勝ですね」


「あしすたんとノ方、優秀ダネ」


「私の指導の賜物ですっ!」


「ばぁるしゃーべハ指導者トシテモ優秀ッ!」


「ふふふふっ!!!」


ヴァルシャーベとマツユキ3号は他愛なく喜び合った。


「・・言い遺すことはあるか?」


魔槍に乗ったタカヒコは、業火に焼かれ、融解してゆく竜の顔の側に降りてきた。


「我らは、ただ眠っていることも、許されないのか?」


「竜は存在し、育つだけで世界に破綻を招く。容赦はできない。だが、もし」


タカヒコは消えゆく、人より強大な生命の顔を見詰めた。


「生まれ変わりがあるとするならば、『次』はのんびり眠って暮らせ」


「埒もない・・・」


鹿のごとき金属竜の命は緑色の炎の中に消えていった。



一行はヴァルシャーベの手当てをし、大廃機人達と合流し、戦車墓場のシェルターに戻った。

タカヒコとヴァルシャーベはそれぞれ風呂に入り、旅装束を洗濯し、乾燥機で乾燥させ、着替え、『山羊料理』を若干気まずい思いを抱きながら馳走になり、英気を養った。

マツユキ3号の修理はパーツの交換で簡単に済んだ。その後・・・

ヴァルシャーベは縦笛形態に変化させた粉雪の魔槍を吹き、少し寂しい童謡のような楽曲を奏でた。

すると、戦車墓場のシェルターの広場に用意させた複数の金盥から水が凍結しながら広場に置かれた、既に老人達が入っている掘っ立て小屋の底に集まり、集まった凍てつく水は小屋を持ち上げながら雪塊の怪鳥を形造った。


「おおおっ?!」


おっかなびっくりになる老人達。

怪鳥と小屋は氷によって結合していた。小屋の床にはに筵を多重に敷いてあり、まだ灯していないが固定式の炭ストーブも置かれていた。


「人も乗せれば重量があるぞ? いけるか?」


「問題ありません。私の雪は万能ですっ!」


「まぁ、いいけどさ」


苦笑するタカヒコ。


「それより、ほんとに残るんですか?」


老人達の内、数名は人里には『帰らない』ことを決めていた。


「今さらさ」


「もうコイツらが家族みたいなもんだ」


残ると決めた老人達の決意は固いようだった。と、


「ばぁるしゃーべ、あしすたんとサン。旅立ツ前ニ持ッテイッテホシイ物ガアル」


「ん?」


「なんですか?」


マツユキ3号の案内で2人は戦車墓場のシェルターの中心部にある金属と樹木が一体になった奇妙な木の前に案内された。

マツユキ3号は腕から端子を伸ばし、奇妙な木の一部に挿し、何か操作をした。


「っ!」


木の幹が扉になって開き、中から1本の機械仕掛けの槍が出現した。


「これは・・『古時計の魔槍』だな」


「わたし達ガ心ノ回路ヲ造ル前カラタブンココニアッタ物ダ。アノ竜ハモシカシタラコノ槍ヲ見張ッテイタノカモシレナイ」


タカヒコが手を差し伸べると、古時計の魔槍は浮き上がってその手に収まり、すぐに横笛形態に変化した。


「わたし達ハ近々ココヲ去ル。ソレヲ持ッテユクトオソラク他ノ竜ニ狙ワレテシマウ。貴方達ニ管理ヲ任セタイ」


「わかった。正式な使い手が現れるまで預かろう。ヴァル公、このシェルターと縁を持ったのはお前だ。この槍の管理はお前が」


「い~や~で~すっ! 1本だけでも大変なのにっ。先輩が持ってて下さいっ」


断固拒否の構えのヴァルシャーベ。


「・・しょうがないな。じゃあ、取り敢えず俺が持っとくよ」


「ソレナラばぁるしゃーべニハコレヲ。さいずモチョウドイイ思ウ」


マツユキ3号は右手の立派な籠手を外してヴァルシャーベの右手に付けてやった。


「おお~っ? 軽いですっ」


「『真鋼の籠手』ダ。ぷらちなヨリ硬ク、アルミあるみノヨウニ軽イ。耐電加工モシテアルゾ? 持ッテケ」


「ありがとうマツユキ3号っ!」


「ウンッ。竜退治頑張ッテネッ!」


「マツユキ3号ぉ~っ!!」


「ワァッ?!」


簡単に感動したヴァルシャーベがマツユキ3号に抱き付くと、マツユキ3号は慣れないコミュニケーション法に大いに困惑した。


「じゃあなっ!! 上手くやれよっ?!」


「皆、元気で暮らしてくださぁーいっ!!」


「ばぁるしゃーべっ!! あしすたんとサンッ! サヨウナラッ!!」


タカヒコは自分の槍に乗り、ヴァルシャーベは老人達の小屋を乗せた雪の怪鳥に乗り、戦車墓場のシェルターから上昇していった。

老人達も多くは手を振り別れる廃機人や残る老人達に声を掛けていた。残す人々もそれに応えた。山羊達も何事かと見上げていた。

程無く上昇を終え霧の層を越え、タカヒコ達は近場のシェルターではなく、あまり早くに戦車墓場に人々が来ないよう老人達の体力も考慮し、少し離れたシェルターへと飛行を始めた。


「・・・ところでヴァル公よ」


「ヴァルシャーベですっ!」


「アシスタントってなんだよ?」


冷ややかな目でヴァルシャーベを見るタカヒコ。


「さ、急いでお年寄り達を届けましょうっ! その後はまた西へっ! いざターミナルシェルターへっ!! ゆきましょうっ!」


「ヴァルシャーベっ!!」


タカヒコの追及をスルーし、ヴァルシャーベは雪の怪鳥を急がせるのだった。

廃機人は廃棄された大量工学生成物から発生する魔物です。人間側は文明後退気味とはいえ工学が発達した分、魔法的な力は魔槍師以外は殆んど失ってしまった世界ですが、魔物の類いはわりとそこら中からポコポコ湧いてくる人類的にはハードな摂理の世界です。

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