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第8話 洞窟での野営

 パチパチと音を鳴らし、焚き火から火の粉が飛ぶ。夜も深まった時分、グリッチ達は洞窟の中で休息をとっていた。


「疲れた……危険な森の中だけじゃなくて、谷も川も飛び越えて、魔物の巣の近くを通って…………休憩らしい休憩が数えるほどって……」


 死んだ目で焚き火を眺めているレオがこれまでの道のりを思い返し、何やらずっとブツブツ言っている。


 一行は魔族の国からフランドール王国までのんびり歩くだけでも一ヶ月近くかかる道のりを、ハリーの体力とグリッチの支援魔法で強行し、数日で目的地まであと少しというところまで来ていた。

 当然、そんな行程で突き進んでいれば、ハリーの背に乗っているだけでもものすごい疲労度となる。


 今まで経験してきたどの遠征よりも過酷なんじゃないかとレオが遠い目をしていると、洞窟の周辺の様子を確認しに行ったグリッチが戻ってきた。


「今のところ人間の兵士に勘づかれた様子はありません。道のりも最短距離を通って順調ですから、今夜はこのままここで過ごしましょう」


 旅装のフードを外しながらグリッチは焚き火の近くに座りこんだ。そして、そのままの流れで荷物を広げ、食事の準備を始める。

 ちなみにハリーは、道中でグリッチがしとめた魔物が洞窟の近くで死んでおり、それを食べて今は洞窟の奥の方で眠っている。


 しばらくは焚き火の音とグリッチが調理する音だけが辺りを包んでいた。


「……いい匂い」


 放心していたレオが料理の匂いに反応してお腹を鳴らす。


「ふふ、もうすぐできますよ。まだ注意は抜けませんが、だいぶ無理をした行程でしたから、休める時にしっかり休んでください」


 ハリーさんみたいにね、とグリッチは洞窟の奥の方を見やる。ハリーはいびきをかいて眠っていた。

 無理した自覚あるんだ、と思いながらつられてレオもそちらを見た。


「……って、グリッチさんだけに任せちゃった。食事の準備俺も手伝うよ」


「おや、ありがとうございます。では干し肉をちぎってもらえますか」


 レオは自分が何もしていなかったことに気づき、慌てて手伝いを申し出ると、グリッチはほとんど調理が終わりかけているところに快く申し出を受け取る。

 レオはその事にもすぐに気がついたが、相手を突っぱねた物言いをしないグリッチの優しさはこういうところにあるのだと思い、内心嬉しくなる。


 少しの間、緩やかに時間が流れた。

 出来上がった食事をレオは勢いよくかきこみ、あっという間に平らげて一息つく。

 思えば、遠いところまで来たものだ、と洞窟の外、木々の隙間から覗く星の明かりを見て、レオは思った。


「……人間の国って、どんなとこなんだろ」


 何気なく呟いた一言。そこに深い意味はなく、あえて言うなら言葉の通りではある。

 しかしレオの呟きに気づいたグリッチは、少し考える素振りを見せるとおもむろに口を開いた。


「人間の国にも色々ありますが、大方都市部に城と城壁があり、その周りに農村があるという形を取ってる国が多いですね。国同士で戦争があったり、国内外で貧富の差が激しかったりと、歴史があります」


「人間同士でも戦争するの?」


「違う思想を持つ者たちが集団で行動するのです、そこは魔族も人間も変わりませんね。魔族は今のところ結束が強いですが、先の未来までは分かりません。魔族の中にだって小競り合いがある。戦争との違いなんて、規模が大きいか小さいかだけですよ」


「……幹部なのに、そんなこと言っていいの?」


「幹部だからこそ、ですよ。視野は広く持たねば」


 レオは驚きに目を白黒させる。

 魔族と人間が同じだなんて、レオは考えたことすらなかった。むしろ、共通点など考えたくもない、というのが正しい。だって──。


「レオさんは、人間のことをどう思っていますか」


「俺の大切な人達を、奪ったやつらだ」


 レオはグリッチに真っ直ぐ向き直り、よどみなく答える。言葉尻に若干熱がこもった。


「そうですね、多くの魔族にとって、そういう存在だ。僕達の今回の任務の目的は、大まかに言うと勇者達を見極めることです」


「見極める……?諜報部隊の調査だと、勇者達は初めから俺達を殺すつもりで来るんだろ?何を見極めるんだよ」


 話の脈絡を変に感じながら、思った疑問を口に出す。グリッチはにこりと笑った。


「どうすれば、人間との戦争を避けられるか、ですかね」


 レオはますます分からなくなる。

 人間達はなんの前触れもなく襲ってくる。それはいつの時代も同じで、人間達にとっては戦争をしに来るのではなく、侵略をしに来るのだ。

 理由が色々あるとしても。


「僕達の今の王はアギルマール様です。あの方は、魔族がこれ以上死なないようにするためには、そもそも人間と戦わなければいいと考えた。そこで、何年も前から人間との和平のために動いてきたんです。……結果は散々ですがね」


「それはまあ、有名な話だし、知ってるよ」


 レオの言う有名な話とは、アギルマールが初めて魔族の王に着任したとき、彼は民衆に向かって人間と和平を結ぶと宣言し、そこから反対する人々の中でも過激派の連中が日夜襲撃を行い、アギルマールはその尽くを返り討ちにしている、という話である。


「ふふっ、そうですね。ですから、僕達はアギルマール様の最終的な目的のために勇者達と友好的である必要があります。あわよくば、そうした過程の中であなたにも人間を見極めてほしいんですよ。魔族の未来を担う、若者の一人として」


 あなたを連れてきたのはそういう意味もあるんですよ、とグリッチは付け加える。


 じじいかよ、とレオがふざけて言うが、軽く笑って流されてしまった。

 レオは人間と仲良くなりたいなど微塵も思っていないが、その人間のことを何も知らないんだなと、ふと思う。


 釈然としない気持ちを残したまま、夜は更けていった。

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