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第5話 勇者※

※は別視点の話です。

レオがグリッチの爆弾発言に絶叫している頃。


かたや人間が治める国、フランドール王国では、ここ一週間ほどお祭り騒ぎが続いていた。街を見渡せばどこもかしこも浮き足立ったような人でいっぱいである。


「はあ〜〜〜〜〜〜〜…………」


しかしそんな空気の中、ある酒場で、賑やかなその場にはふさわしくない空気を醸し出し、一人の青年が机に突っ伏していた。いや、青年と言うにはまだ顔に幼さが残っている。


周りは昼間から飲んだくれている野郎共が騒いでいるが、青年のいる場所だけ明らかに空気が落ち込んでいた。


「おーい、ライト。そんないじけてんなって。さっきから溜め息ばっかだぞ」


「シルト……俺はいじけてなんかない。…………ただ、ちょっと気分が落ち込んでるだけだ」


群衆を掻き分けてそんなライトに近付いてきたのは、背中に大盾を背負っているシルトだ。シルトは大盾を下ろしながら、相変わらず言い訳が下手だな、と苦笑してライトの向かいの席に座った。


「ほら、これでも飲めよ。さっき貰ってきたから」


そう言ってシルトは、ミルクがなみなみ入ったジョッキをライトに押し付ける。ライトは浮かない顔のままだが、お礼を言ってそれを受け取った。


「にしても、勇者パーティの面子にはたまげたよな。第二王子と王女、第二王子派閥の筆頭騎士に聖女と来たもんだ」


「ああ。聖女と言えば、今の教会の回復魔法の使い手の中で二番手の実力なんだろ?まだかなり若かったよな」


「若いって、筆頭騎士以外の三人ともまだ十代だろ?今回のパーティは権力闘争が思いっきり裏にあるだろ」


「ちょ、声でかいって!」


「あ、悪ぃ悪ぃ」


近くで話していた今回のお祭り騒ぎの原因についてが耳に入り、ライトは口をつけようとしてたジョッキを持ったまま固まってしまう。


そしてゆっくりとジョッキを置いた瞬間、またもや盛大に溜め息を吐いた。


「はあ〜〜〜〜、まさかダイアナが……聖女として勇者パーティに参加することになるなんて…………しかも、王族の権力争いに巻き込まれるなんて……」


ライトは、今は王城で勇者パーティの一員として盛大に奉り上げられているであろう聖女、彼の幼なじみであるダイアナの顔を頭に思い浮かべ、泣きごとを言った。


ライト達が今いるフランドール王国は、人間の国家の中では一二を争う豊かな国である。ライト達の生まれ育った国であり、冒険者の拠点にもしている親しみのある国だ。


そんなフランドール王国でなぜ勇者が奉り上げられ、お祭り騒ぎになっているのかというと、フランドール王国の王族、第二王子が、魔族を打ち倒すために先陣を切って戦う勇者が必要だと提唱し、自らその勇者に名乗り出たからだ。


そして第二王子に協力すると王女が名乗り出て、第二王子の指名により筆頭騎士と聖女が選ばれた。極めつけは現国王による勇者パーティ結成と戦の許可である。


第一王子派閥との権力闘争にしてはいささか命がかかりすぎているようだが、実際の真意までは読み解けない。


それから数日、勇者パーティを盛り立てるための激励会が連日連夜行われているというわけだ。


「まあ、あちらさんに何かの思惑があるのは間違いないとして、打倒魔族は別に悪いことじゃねぇからな。むしろ王族自らが進んで戦場に行くから、それだけ現場の士気も上がるだろうし」


シルトがジョッキの中身を一口飲んでから、勇者パーティ結成についての考えを言った。

それに対し、ライトは不服そうな顔をしながらも納得して頷く。


今回、勇者パーティと銘打ってはいるものの、実際に魔族と戦うともなればそれは国家間規模の戦争に繋がるものだ。シルトは、勇者パーティとはあくまで兵士たちを鼓舞するためのものでしかないと予想している。


「……ダイアナがパーティに選ばれたのは、下心もあると思うがな」


シルトがジョッキを傾けながら呟いた言葉に反応して、ライトが勢いよく立ち上がった。反動でライトが座っていた椅子が倒れる。


「…………シルト……やっぱり第二王子は、ダイアナのこと…………!」


突然立ち上がったライトに驚き、周りにいた人々が変なものを見るような目で見てくるが、ライトは俯いて歯を食いしばり、一層負のオーラを増していた。


「ライト、悪かった。とりあえず座れって、な?」


シルトがライトに目配せし、ライトはようやっと自分が周りの注目を浴びていることに気づき、少し顔を赤くしながら謝って席に着く。


「じゃあ第二王子は、ダイアナに近づくために勇者パーティの一員に指名したのか」


一旦落ち着きを取り戻したライトが小声でシルトに問う。


「そうだと思うぜ。学院にいた頃から第二王子はダイアナを意識してたし、なんなら勇者パーティとしての遠征中に既成事実を作るつもりなのかもな」


淡々としたシルトの応答に、ライトはさらにショックを受け、拳を強く握りしめる。

しばらく沈黙が続いたが、ライトはおもむろに口を開けた。


「俺は……ダイアナを誰にも渡したくない」


そうして出てきた言葉にシルトは目を丸くするが、ライトは自身の恥ずかしいセリフに気づいていないようだった。シルトはニヤッと笑い、ライトと勢いよく肩を組む。


「はっはっは!よく言ったライト!それじゃあ勇者から聖女を奪いに行くとしようぜ!」


「え?え?」


突然のシルトの言うことに理解が追いついてないライト。そんなライトにシルトは一枚の紙を見せる。


「これ何か分かるか。勇者様御一行の護衛依頼だ。俺らはBランク冒険者だが、あと何個か依頼を達成すればAランク昇級確実ってことで、優先して依頼を受けられる。どうする?」


シルトが挑戦的な笑みをライトに向ける。少しの間驚いていたライトだったが、事態を理解し、にやりと笑い返した。


「決まりきってるな。その依頼、俺らで受けよう!」


「決まりだな。勇者パーティが出立するのは二週間後だ。……ったく、王族の挨拶回りは時間かけすぎだぜ」


ライトとシルトが同時に席を立ち、それぞれ剣と大盾を装備し直して酒場を後にする。


「それだけこちらの準備に時間ができたって考えよう。魔族は強敵だからな」


ライトは王城を見上げ、つられてシルトも同じ方向を見る。

ライトはこれから始まるであろう苦しい戦いに気を引き締め、シルトと共に街中を歩いていった。



かくして、人間と魔族の戦いの火蓋は切って落とされることとなった。

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