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第4話 フリューゲル孤児院

「レオにグリッチさん、いらっしゃい。フリューゲル孤児院へようこそ」


 建物から出てきたのは、頭に二本ある角のうちの片方が折れてしまっている壮年の女性だった。右足が悪いためか、杖を突きつつグリッチ達の元へ向かってくる。


「ご無沙汰しております、カルラ殿。近頃調子はどうですか」


「カルラ!ただいま!」


 それに対しグリッチは軽く会釈してからカルラの元に歩き出し、レオは嬉しそうに満面の笑みを見せて駆けていった。


「おかえり、レオ。二人とも相変わらずみたいだね。私はこの通りピンピンしてますよ。足の方も最近は気にならなくなったしね」


 そう言いながら、カルラは自身の右足を杖を持っていない方の手で軽く叩いてみせる。

 一行はカルラを筆頭に孤児院の中へ入っていった。



「ああそうだ、カルラ殿。これは街で買ったりもらったりしたものですが、全部消費するのは僕一人では時間がかかってしまうので、孤児院の皆さんで分けてください」


 孤児院に入って開口一番、グリッチはずっと抱えていた荷物を指しながら言った。その言葉にカルラは少し間を空けてからふう、と一つ息を出すと眉毛を若干困らせる。


「子供達の食費が浮くからありがたいんだけど、グリッチさんが来るときいつも何かもらってるから、申し訳なく思ってるんですよ?まあ、断っても上手く(たしな)められるだろうから、ありがたくもらっときますよ」


「はい、そうしてください」


 グリッチは相変わらずの笑顔を見せ、カルラは苦笑をもらすが、これもいつもの事なのですぐに切り替えると、カルラは今度はレオに向き直った。


「レオ、あんた何かとグリッチさんに世話になってるんだから、あんまり困らせるようなことするんじゃないよ。……というか、また訓練を抜け出してここまで来たんじゃないだろうね?」


 カルラの圧がかかり、レオはびくっと体を揺らすが、何故か得意げな顔をして言い返した。


「へ、へへーん、今日はちゃんと非番だもんね!それにグリッチさんなら大丈夫だよ、俺の上司は心が広いからな!大丈夫だよな、グリッチさん!」


「敬語!」


「いだっ!?」


 カルラがレオの頭をゲンコツで殴った。

 漫才のように繰り広げられる目の前の状況に、グリッチは苦笑するしかなかった。襲撃に関しては少し物申したい気持ちもあったが。


「それで、グリッチさんは今日は何をしにここに?」


 頭を手で覆って呻いてるレオを尻目に、パンパンと手を払ったカルラがグリッチに向き直る。

 今孤児院は、子供達は学校に行っていて数人の職員と赤ん坊しかいない状況なので、カルラにはグリッチが何の用事で訪れたのか見当がつかなかった。


「ああ、いつも通り様子を見に来たのと、軽く挨拶をしに来たんです。実は、少し遠出の任務が入りまして」


 世間話をするように軽く言ったグリッチの言葉に、カルラは眉間に皺を寄せる。

 今は負傷し、戦いから退いている身のカルラではあるが、元は前線で武器を振るって暴れ回っていた魔族の兵士だ。足に深手を負っていなければ、今でも戦いに身を投じていたことが容易に想像がつくような人物である。

 そのような者が、幹部が請け負う任務がどのようなものであるかくらい察せないわけがなかった。


「そうですか……それなら、ここの心配はしなくて大丈夫ですよ!私は子供達に振り回されているくらいで、みんな元気があり余っているし、アギルマール様のおかげで孤児院で苦労してることなんてないんですから。……孤児院には、大切な人を失った子供たちが戦争が起こる度にたくさん来ます。その子たちは決まって軍に志願したがり、そこで命を落としてしまう子もいます」


 カルラの声のトーンがひとつ落ち、目線は自然とレオの方へ向く。レオは未だに頭を擦りながら、若干気まずそうにしてカルラから目を逸らした。

 カルラは苦笑するが、次の瞬間には明るい笑顔になる。


「──でも、そんな子達にグリッチさん達は、アギルマール様は平和な未来を示そうとしてくれています。そしてそれは、あなた方だからこそできることです。だからどうか、無事に帰ってきてくださいね」


 歯を見せて笑うカルラに、グリッチが笑顔で頷く。グリッチはさらに、戦争を起こすわけにはいかないと、気を引き締めた。

 その様子を傍から見ていたレオがこの人たち付き合ってんの?と小さい声でもらし、レオはまたもやゲンコツを食らうことになった。





 そんなこんなで帰り道。

 グリッチは行きとは違う道で街の視察を続けていて、レオも後をついてきていた。


「カルラ殿とは数十年来の付き合いなんですよ」


「えっ、数十年!?」


 どこかで聞いたような会話を繰り広げているグリッチとレオ。レオはあからさまにグリッチに疑いの目をかける。


「じーー…………どう見ても嘘でしょ!皺の一つも見当たらないもん」


「ノーコメントです。ご想像にお任せしますよ」


「えーー」


 ほのぼのとした空気で会話をしながら、街中を歩いていく。そんなとき、ふと思い出したかのようにレオが声を出した。


「あ、遠出の任務ってさ、どのくらいかかるの?一ヶ月とか?カルラになんかもらってたし、長旅になるんでしょ。少しの間寂しくなるな〜」


 足取りは変わらぬまま、グリッチがレオに振り返った。


「予定ではそのくらいですね。街の視察などは他の方にお任せする予定ですから、寂しくなることはないですよ。というか──」


 どこかずれているグリッチの言葉を聞きながら歩いていたレオは、唐突に立ち止まりこちらに向き直ったグリッチに思わず身構える。


「今回の任務はあなたにもついてきてもらいますからね」


「……………………え、え゛ーーーーーー!?」



 たっぷりの間の後、レオの絶叫が街中に響いた。

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