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第13話 勇者の旅立ち※

「勇者様ーー! 勇者パーティバンザーイ!!」


「きゃーー! ヒースクリフ殿下〜〜〜!!」


「ローザ王女様ーー! 聖女様ーー! アレックス様ーー!」


 街の真ん中を通る一番広い街道を勇者パーティの面々が黄色い歓声を受けながら歩いている。

 喜色一面のフランドール王国の人々に見送られ、まさに今、歴史に刻まれるであろう勇者達の旅立ちが盛大に祝われていた。

 王族の二人は優雅に手を振り返し、ダイアナはしり込みしながらも小さく微笑んで手を振り返す。そんな三人の後ろを筆頭騎士が慇懃な態度で着いてくる、という状況で民衆は浮かれた者たちばかりであった。

 そんな中で。


「ライト、勇者様達は門までたどり着いたぞ。俺達は兵士が使う勝手口から出ろとよ」


「シルト! こっちは特に異常はなさそうだよ。このまま安全な旅立ちになればいいけど」


 騒ぐ民衆の後方で動き回るライト達の影があった。

 よく見ると、他にもあちこちで他の冒険者や兵士達が街中を駆け回る様子が伺える。


「でもまさか、勇者の警備に冒険者まで駆り出されるとはな。出発前から気を張って働き詰めになるとは思わなかったぜ」


 シルトがため息混じりに愚痴をこぼす。

 ライトはそんないつもの様子のシルトに苦笑いを向けた。


「確かに少し横暴な感じはしたけど、これも勇者パーティを守るってことに繋がるならちゃんと任務の一部だよ。仕事なら、やるしかないだろ?」


 ライトの煽るような言葉に少しムッとした顔をし、分かってるよ! とふざけたように言うシルト。


「そりゃ、お前は愛しの聖女様を守るためだから気合いの入り方も違うだろうがよ」


「な、ちょ、シルト!」


「ははっ! 本当のことだろ?」


 してやったという顔で今度はシルトが攻勢に立つ。

 そうしてふざけ合いながら二人は街を囲う壁の門へと歩いていった。



 ○○○



「いいか! 先に言っておくが、あくまでも君達冒険者の仕事はサポートであり、私達の介護ではない! あくまでも勇者である私が戦うんだ、私の指示があるまでは間違っても戦いに横槍を入れたりするなよ!」


 これは旅立つ前にヒースクリフ王子に言われた言葉である。


「そう、はっきり言われてたんだけど、これは…………」


 どうすればいいんだ?と隣のシルトに目で聞きながら、臨戦態勢を固くする。


 そう、現在ライトとシルトの二人は臨戦態勢を取っている。

 周りを盗賊らしき者達に囲まれた状況で。



 状況を少し遡ってみよう。

 ライト達は勇者パーティを先頭に順調に旅路を歩んでいた。


 道中何度か魔物と接敵もしたが、まだ街にほど近いということもあり、弱い魔物だけで安全に見守れる戦いばかりであった。

 異変が起きたのは王国を旅立ったその日、森の近くで小休憩と昼食をとった後からである。


「勇者と聖女がいない?」


「そうなんだ、気づいたのはついさっきなんだが、近くを探しても見当たらないんだ」


 焦った顔で助けを求めに来たのは勇者パーティの護衛依頼を受けた数少ない冒険者パーティの内のリーダー格の一人で、既に他の冒険者達にも呼びかけて総出で探し回っているらしい。

 どうやら一番最後に聞いたであろうライトとシルトはお互いの顔を見合わせ、示したかのように同時にため息を吐いた。


「とにかく、君らも依頼を受けたからには探すのを手伝ってくれよ! 俺は自分のパーティのとこに戻ってるから、じゃ」


 二人の様子を気に留めていないのか、言うだけ言ってその冒険者は去っていった。


また(・・)、だな」


「ああ……また(・・)、あの王子の悪い癖だ。あの考えついたら突っ走るところ……まさか命の危険が伴う遠征中にまで発揮されるとは思わなかったけどね」


 シルトのつぶやきにライトが皮肉を込めて答える。そして次の瞬間には顔つきを真剣なものに変え、自身の装備を素早く手にした。


「ダイアナが危険に晒されているかもしれない。行こう」


「おう、危なくなってたら守るから、いつも通りライトは安心して動いてくれよ」


 そう言ってライト達は森へと足を踏み入れた。



 これがわずか数十分前の出来事である。

 ライト達はどうやら他の冒険者達よりも早く目的の二人を探し当てられていたようだが、見つけたのは盗賊と攻防を広げている勇者とその邪魔にならないよう少し離れた場所で様子を見守っている聖女、ダイアナの姿であった。

 ライト達の存在にも盗賊共はいち早く気づき、先手を取られて囲まれたというのが今の状況である。


「……どうするもこうするも、やるっきゃねぇだろ!」


「だな!ダイアナ、待ってろ!すぐそっちに行くからな!」


「ライト!シルト!」


「……ちっ!」


 シルト、ライトの順に声を張り上げ、盗賊達に切りかかる。

 それに気づいたダイアナが声を上げ、ヒースクリフが舌打ちをした。


 ヒースクリフはダイアナの支援魔法を受けてやっとの思いで盗賊数人を相手にギリギリの立ち回りをしており、既に小さな切り傷がいくつも出来て血を滲ませているようだ。


 一方ライト達は、連携を取り多人数の盗賊相手に一進一退の攻防が続いている。


 (──遠くからも武器同士がぶつかる音が聞こえる……この盗賊達はわざわざ分断を狙って現れた。統率が取れている。標的は誰だ?)


 ライトが目まぐるしく動く戦況の中で思考を巡らす。そんな思考を一旦止め、次の行動に集中した。


「……シルトっ!」


「! ああ、いいぜ!」


 ライトが近くにいた盗賊を突き放し、鍔迫り合いをしていたシルトに近づいた敵の一人に切りかかりながら叫ぶ。

 シルトは得心した顔をしてライトに応え、鍔迫り合いをしていた相手の重心をずれさせみぞおちを蹴る。


 次の瞬間、ライトの体が淡く光った。


「『氷結(アイシクル)・ロック』!!」


「ぐあっ、つめてぇ!」


「シルト! そっち逃がした!」


「あいよ!」


 魔法が放たれ、ライト達が相手をしていたほとんどの盗賊が大地をものすごい速さで這ってきた氷に捕らえられる。

 氷が逃した者もシルトにより迅速に捕らえられた。


「ふぅ、一先ずこっちは片付い──」


「ぐぅっ!」


「ヒースクリフ殿下っ!!」


 シルトが一瞬気を抜きかけた時に声が割って入る。

 ライト達が声のした方を見ると、ヒースクリフが傷を負って倒れ、そこに盗賊が攻撃を畳みかけようとしているところであった。


 理解する前にライトの体が動き、数瞬遅れてシルトも駆け出す。

 ダイアナが守りの結界を展開しようとするが、あまりにも遅く感じる。


 ヒースクリフの喉元に盗賊の獲物が突き刺さろうとする。


「間に、合──」


 ライトが、思わず言葉をもらした瞬間。


「ぐあぁっ!?」


『!?』


 盗賊が腕を振り下ろしきったかに見えたその瞬間、盗賊は驚きの悲鳴を発し、くの字に体を曲げて吹っ飛んでいった。


「どうやら、間に合ったようですね」



 目の前で起きたことに思考が追いつかず、その場にいた全員が呆けた顔をしている中。

 盗賊が吹っ飛んでいった反対の方向、森の木陰からゆっくりとした足取りで、その燕尾服をまとったその人物は現れた。

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