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虚無戦史  作者: MIROKU
守護者(ガーディアン)編
6/143

全て愛のために!の巻!

 ライブハウスの地下室に熱気が満ちた。


 世間から見れば無名に等しい女性ボーカルの歌に、集まった客は聞き惚れる。


 力強い歌詞、洗練されたメロディー、そして女性ボーカルから滲み出る生命力……


 彼女は誰かに恋しているのだ。


 だからこそ輝いていた。その輝きは歌に乗り、多くの人々の心を救う……


 そして天機星「知多星」ゴヨウは、出口にほど近い最後列からライブを眺めていた。


「いい歌じゃないか」


 天機星「知多星」ゴヨウは、傍らの青年に話しかけたが、聞こえるとも思えない。


 青年は女性ボーカルの歌を聴きながら泣いていた。その感動は何を意味しているのか。


 純朴な青年に思えるが、彼からは強い混沌カオスの波動を感じる。ゴヨウが討たねばならぬ相手だ。


「外に出よう」


 青年はそう言ってライブハウスの外へゴヨウを誘った。


 青年には、己の人生の終焉を覚悟している、そんな潔さがある。


 討つべき者だが、ゴヨウはその点には感心した。


「――ここで」


 青年はライブハウス近くの、夜の公園へゴヨウを連れてきた。


「何か言い残す事は?」


 ゴヨウは青年に言った。頼りない、どこかオタク臭すら漂わせたゴヨウ。


 だが彼は「百八の魔星」の一人だ。筆頭軍師の天機星「知多星」ゴヨウだ。


 情けなく見えても、それは虚であり、真実の彼は冷酷な暗殺者でもある。


「早くやってくれ……」


 青年は上着の前を開いた。ゴヨウは目をみはった。青年の胸から腹へは、異界に通ずる暗黒洞が生じていた。


 今も異界の――これは餓鬼道畜生道の飢えた化物だ――怪物が、この1999年の東京に溢れ出ようとしていた。


 それを抑えているのは青年だ。彼は憧れの女性のライブに参加できた事で満足し、一時的ながら混沌カオスの波動をはね退けているのだ。


「は、早く俺を殺せ!」


 青年の悲痛な叫びと共に、ゴヨウも右手を高く掲げた。


「速き風よ!」


 ゴヨウの右手に風と光が収束していく。


「光と共に解放されよー!」


 ゴヨウは右手を突き出した。


 吹き荒れる聖なる風が、青年の体を分子レベルにまで粉砕し、東京の町中をも揺らした。


「――眠らない街か」


 ゴヨウは静かにつぶやいた。彼には青年の気持ちがわかった。


 青年の魂は混沌カオスに浸食されてしまったが、彼の絶望と憎悪は女性ボーカルの歌に払拭された。


 青年が守ろうとしていたのは、この世界ではなく、あの女性ボーカルの「未来」だった。


「――ゴヨウよ」


 いつの間にか夜の公園には、百八の魔星の守護神「托塔天王」チョウガイが現れていた。


「我々にできる事は…… 愛する者がいるのなら、せめてそのためだけにでも戦わなくてはならんという事だ」


「うん、わかってるよ……」


 ゴヨウはチョウガイの言に父親のような厳しさを感じつつ、夜空を見上げた。


 未来を守るために戦う。


 そのために彼らは1999年の東京へ来たのだ。

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