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虚無戦史  作者: MIROKU
守護者(ガーディアン)編
2/143

張孔堂奇聞・番外編!の巻!

 ――わふわふ~


 さかりのついた雄犬が遠吠えする。


 江戸も夕暮れ時だ。


「若、あんまり評判よろしくないんじゃね?」


 うどんの屋台引きのげんは、席についた七郎に言った。


「そうかね。こう、笑いというか軽さを押さえてだな、鋭角な切れ味で物語展開しているつもりなんだが」


「笑いと色気がねえと、女性読者つきやせんぜ~」


 商人風の小男、まさは七郎の隣で酒を飲む。


 源も政も江戸城御庭番の忍びだ。


 世をあざむき、浪人の動向を探っているのだ。


「あー、嫁さんが欲しいなー」


「言うんじゃねえよ、寂しくならあ」


 源も政も口が軽い。


 あるいは、それが本性かもしれない。


「……言うんじゃない! 男は…… 男塾を読めばいい!」


 七郎は涙をこらえて叫んだ。


 江戸の男女比は男7:女3。


 七郎でなくとも寂しいのだ。


「「「……夕陽のバッキャロー!」」」


 初冬の風は、男の一人身には寒すぎた。



   **



 ――チュパカ~!


 江戸の夜空に謎の妖魔(※ゆうま=UMAと読む)である「血河童豚ちかっぱぶた」の遠吠えが響いた。


「――というわけで、こちらはまどか嬢だ」


 七郎は源の引くうどん屋の屋台にいた。政も床几しょうぎに腰かけて目を見張っていた。


「はじめまして~」


 少し垂れ目の(だが、それがいい!)美少女まどかが源と政に挨拶した。


「か、かわいい!」


「べ、べっぴんさんじゃねえか!」


 源と政の手放しの賛辞に、まどかは真っ赤になってにやけていた。


「ま、まさか!」


 うどん屋の店主の源は、七郎に尋ねた。


「若の嫁さんですかあ!?」


 政は嫉妬と殺気をこめ、血涙を流した瞳で七郎をにらんだ。


「お、お嫁さんだなんて…… そんなあ……」


 耳まで真っ赤になるまどか。どうやら七郎は、まんざらな相手でもないらしい。


「ち、違うぞ!」


 七郎は源と政の耳元にささやいた。


 まどかは松平伊豆守信綱の――


 いわゆる「知恵伊豆」の遠縁のご令嬢であると。


 才色兼備にして弓の達人、更には妖魔に詳しい。


 そんなまどかは、七郎が妖魔に詳しいと聞いて、彼女自ら赴いてきたのだ。


「きっといます、河童も天狗もツチノコも…… 血河童豚だって!」


 まどかの笑顔が、世に汚れた七郎と源と政にまぶしい。


 彼女に手を出せば、市中引き回しの末にはりつけだろう。


 それでも女っ気のない三人には、天女が舞い降りてきたような感動であった……

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