意外な再会!の巻!
夜の闇に佇む影は、妖艶な女の姿だ。
「し、師匠、その姿は……」
シンは刮目して人影を見据えた。
かつて師事した東方無敗が今、目の前に――
眠らない町・帝都の人気もないビルの間の路地裏に現れるとは。
「久しいな、シン」
その美しい顔と声は、正しく東方無敗であった。
しかし東方無敗の艶姿には、シンも面食らった。
一言で現すならばそれはサキュバスだ。
淫らな魔であるサキュバスの肉体を得て東方無敗は復活したのだ。
去勢と引き換えに強大なる力を得る秘術を、己に施した東方無敗。
男でも女でもなくなった東方無敗は、秘術の反動なのか、女性も嫉妬する美しさを得るに到った。
それがまさか、数百年を経て帝都の夜に出没するとは。
「お前と戦うためだ、シン」
東方無敗の静かな瞳――
長く滑らかな黒髪に、透き通るような白い肌。
身にまとう扇情的な艶姿に、すでにシンはめまいを感じている……
「ま、まいった! 隙がない!」
シンは疾風の速さで土下座した。すでに鼻血が流れ落ちている。
死した後に海母神――生命を司る女神の一柱――によって魂を拾い上げられ、世を乱す「悪」を討つための武神の一人としてよみがえったシン。
過去数百年の死闘の中で、シンが早々と降伏したのは、これが初めてであった。
「お、お前な……」
東方無敗はため息をついた。背の翼も、臀部から生えた尾も、力なくうなだれた。
しかし、それならば別の手段がある。
「まあいい―― シンよ、朝まで楽しもう……」
東方無敗は一瞬でシンとの間合いを詰め、土下座している彼の耳元へ熱い吐息を吹きかけた。
ひょっとしたら東方無敗の真の目的は、弟子と熱い一夜を過ごす事だったかもしれない。
「うわあお……」
シンは耳まで真っ赤にして、顔を持ち上げた。
下から東方無敗の艶かしい肢体を見上げる姿勢になったシン。彼はサキュバス東方無敗の誘惑に早々と屈しようとしていた。
が、
「シン!」
そこへ現れたのは黒衣の精悍なる美男子だ。白銀の鎖を手にしたこの男は、シンと同じく海母神に仕えるランバーだ。
「助けに来たわよ!」
ランバーと共にやってきたのは、ペネロープだ。
真紅のバッスルドレスに身を包んだ彼女は、吸血鬼と人間のハーフであるダンピールだ。
ペネロープは帝都でメイド喫茶を経営しているが、人知を越えた超越の者を察知する力を持つ。
「あらあ、まあ」
そんなペネロープはサキュバス東方無敗を見つめて、頬を赤らめた。
彼女は百合属性だ。女の子が大好きだ。
ピンチの時でもペネロープのガールハント魂は健在だ。
「話がややこしくなったな……」
東方無敗は再度ため息をついた。
帝都の夜の中で、秩序と混沌の戦いが始まろうとしていた。




