クリスマスを祝福せよ!の巻!4
本能寺が燃えていた。
炎は天を焼くかのように、激しく燃え盛っている。
すでに寺を囲む兵も、猛火の中にまで踏みこんで首を獲ろうとは思っていない。
ただ炎が本能寺を灰にするまでを見守っていた。
時代が変わるという予感が誰の胸にもあった。
「蘭丸!」
炎の中で男は叫んだ。己が信頼する小姓は、刺客の忍びに斬りこんでいる。
「お覚悟おー!」
美男の――彼が蘭丸だろう――打ちこんだ一刀を避け、忍びの者は踏みこんだ。
蘭丸に組みつくや否や、瞬時に忍びは技をしかけた。
背負われて投げ落とされた蘭丸は、板の間の床に頭部から落ちた。
「う、くう!」
蘭丸は頭部から出血しながらも身を起こす。主を守らんとする決死の覚悟――
だが、すでに忍びの意識は別へ向いている。
「お命ちょうだいする」
忍びは言った。すでに火の手は本能寺全体に回っている。放っておいても命は尽きそうだが。
「……乱破、誰に頼まれたか」
男は堂々たる様子で言った。すでに助からぬ事を覚悟しているのか。
「俺は俺の意思で来たのだ」
忍びは覆面の口元を下ろした。
現れた精悍な顔、ただの忍びではない。
「なんだと?」
「あんたは魔に憑かれているのだ」
忍びは男を見ていない。その背後の壁に浮かび上がった、男の影を見ている。
地獄の業火のごとく燃え盛る炎。
その光によって浮かび上がった男の影は、人ならざる者の姿をしていた。
それは背に羽根を、頭部に触覚を生やした女の姿だ――
「わしと一緒に来い、相手してやろう」
男は刀を抜いた。周囲を炎に囲まれた中で、男は不敵に笑っていた。
「なるほど、地獄めぐりの旅か…… 面白い!」
忍びは「魔王」と呼ばれた男に向かって踏みこんだ。
男と忍びの戦いを見守るは、半死半生の蘭丸ただ一人。
本能寺が燃え尽きるまで、もう僅かな時間しかない――
**
時空を越えた「現代」ではクリスマスを迎えていた。
「プレゼントだー!」
「はじっこぐらしのパッドだー!」
「わたしは滅鬼の大河パッドー!」
と、子ども達の喜びが世に満ちていた。
これも「主」の望みであったろう。
また、昨夜には商人が――
人知を越えた力を有し、世の経済を司る超人達の始祖「完璧商人始祖」が活躍している。
サンタクロースたる白銀マン、暗黒サンタたる黄金マン。
更には彼らを助ける同志らの活躍もあり、聖夜に暗躍する魔物達は打ち払われ、無事に聖夜は祝福された。
「メリークリスマース!」
「お嬢様、飲み過ぎです~」
ローレンとゾフィーの侍従は朝まで飲み明かし、マンションの自室で騒いでいた。
ハロウィンの守護者「レディー・ハロウィーン」のローレンと、侍女の「フランケン・ナース」ゾフィーも、聖夜に暴れる魔物を降伏していた。
もっとも彼女ら商人や守護者らの戦いを、人間の意識は認識できないが。
「月に代わってえ、お仕置きしちゃったわよ~!」
ローレンは気持ちよく酔っていた。一本で十万円以上するワインを飲んだら、機嫌も良くなるものだ。
「きゃー、お嬢様ー!」
トナカイ役に扮したゾフィーのミニスカを、ローレンはさりげなくめくり上げてしまいました。
なんとも艶かしく疑わしい百合ビアンな光景でした、めでたし、めでたし。
**
「めでたかないわー!」
寛永の頃の江戸で一人騒ぐのは、十兵衛三厳だ。彼は町中では「七郎」と名乗っている。
実は七郎は「魔王」と呼ばれた男を討った忍びの転生した姿だ。
「七郎殿、血河童豚を狩りに行きましょう!」
凛々しい少女まどかは、弓と薙刀で武装し、寒風吹き荒ぶ江戸の夜へ繰り出しそうとしていた。
「うむ、では不忍池方面へ行きましょうか!」
七郎は凛々しく鼻息荒く言った。不忍池方面は、後世での言い方ではラ○ホ街である。
船に揺られて二人きりの会話を堪能した後は、池にせり出した宿で朝まで熱い夜を過ごすわけだ。
「んまあー……」
まどかは顔を赤らめた。彼女は七郎の真意を理解した。
「お嫁さんにする気ですねー?」
「ふっふっふ、さあどうでしょうなー」
七郎の顔はひきつる。まどかは「知恵伊豆」と称された松平伊豆守信綱の遠縁に当たる。
悪い虫が寄ろうものなら、市中引き回し・打ち首・獄門……の可能性もあろう。
「――やあっっってやるぜえっー!」
だが七郎の燃える魂は、獣を越え、人を越え、神の領域へ到達しようとしていた!




