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勇者召喚の生贄〜転生聖女は幼馴染を救いたい  作者: 春日千夜
最終章 愛し愛される者
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最終話:それから

 魔王を倒してから二ヶ月後、シュリスたちは再び魔大陸へ戻ってきた。


 まだ短い時間しか経っていないから、新たに浄化魔法陣を敷けた場所はほとんどない。その代わりこれからの浄化を円滑に進めるべく、シュリスたちと混成軍が通った魔王城への道のりにはいくつか拠点が整備されている。撤退する部隊が残していった物資を利用して、残留する兵士たちが集落のように整えたのだ。

 冒険者ギルドも魔大陸支部を新設しており、冒険者の姿も多い。魔王軍と共に戦った者だけでなく新たに魔大陸へ来た者たちも、シュリスたちの帰還を大いに喜んだ。


 そんな中、シュリスとゼルエダは勇者の剣を手に入れた神殿跡地へ向かった。

 神殿跡地も派遣された神官たちが中心となって復旧を進めており、未だ本殿はボロボロだが付近に数軒の小屋が建てられ生活出来るだけの環境は整っている。二人はここを活動拠点とするつもりだった。


「聖女様、勇者様! 神官一同お待ちしておりました!」

「ありがとう、これからよろしくね」


 神官たちから熱烈な歓迎を受け、シュリスとゼルエダは気恥ずかしく思いながらも堂々と受け応える。

 シュリスたちはガルニ村を出た後、大神殿にも立ち寄ったのだが、魔大陸へ行くのなら現地の神官たちをまとめて欲しいと大神官クラール直々に頼まれていた。聖女シュリスは魔大陸の神殿長として。勇者ゼルエダは神殿騎士長として、浄化と復興を担う事になる。


 そもそも神殿としては、神と直接対話を果たしたシュリスを神聖視している。後ろ盾どころか神殿全体のトップに立って欲しいとまで言われてしまい、パガーノス神国に残るようにも頼まれたが丁重に辞退した。

 神託を授かる大神官以上に尊崇される存在になってしまったから、無理強いされる事がなかったのは幸いだろう。


 事前に連絡を受けた神官たちは、二人のためにと家も用意してくれた。ガルニ村にあった丸太小屋を彷彿とさせる小さな家に、二人の頬は緩む。

 ここが拠点であり、新居にもなるのだ。シュリスとゼルエダはクラール立ち合いの元、大神殿で婚姻の誓いを立てていた。


「ねえ、ゼルエダ。祭壇の方も見に行ってみない?」

「うん、そうだね」


 ゼルエダが収納魔法で仕舞い込んでいた家具や雑貨を並べれば、あっという間に住み心地の良い家の出来上がりだ。

 この旅路では二人で宿に泊まったりもしたけれど、これからは二人で暮らすのだと思うと照れてしまう。ソワソワした気持ちを落ち着けたくて、シュリスはゼルエダを外へ誘った。

 家へ案内してくれた神官から、到着した今日一日ぐらいはのんびり過ごしてほしいと言われていた事もあり、シュリスたちは手を繋いで歩き出した。


 神殿跡地を囲む森には今も植物型の魔物がいるけれど、浄化された範囲内にその姿はない。この森全体をまず最初に浄化したいねと言葉を交わしながら、二人は崩れかけている本殿へ入り込む。

 たどり着いた祭壇の間には魔族ハロスと戦った名残があるが、その戦いでシュリスがきっちり浄化した事もあり、数ヶ月前のような禍々しさは感じられない。

 元々この地にあったのだろう神聖な気配すら感じられて、シュリスはゼルエダと繋ぐ手に力を込めた。


「ゼルエダ、もう願い事は決まった?」

「うん、ちゃんと決めてきたよ」


 神から何でもひとつだけ叶えると言われた事を、シュリスは伝えていた。けれど何を頼むかゼルエダは悩んでいたから、大神殿でもまだ願っていなかった。

 ゼルエダは以前勇者の剣が刺さっていた祭壇を見つめると、シュリスに向き直った。


「色々考えたんだ。世界の平和とか、シュリスの安全とか。でもそれは、僕が頑張ればいいことだと思う。だから頼むのは、僕の力じゃ絶対叶わないことにするよ」

「それってどんな願いなの?」

「死んだ後のことだよ。僕は、これから先ずっとシュリスと一緒にいたいんだ。生まれ変わりがあるのなら、その時もまたシュリスと一緒にいたい。そう願おうと思うんだけど、ダメかな?」

「……そうね。ダメかも」

「えっ⁉︎」


 まさか否定されると思わず、ゼルエダは目を見開く。驚くゼルエダに、シュリスはクスクスと笑った。


「だって、私と同じなんだもの」

「シュリスと同じ? 願い事が?」

「そうだよ。私もゼルエダと恋人になれたら、来世でも一緒にいられるように頼もうと思ってたの」

「シュリス……」


 龍一とファルテのその後を神から聞いた時から、シュリスは願い事を決めていた。

 それを告げるとゼルエダは感極まった様子でシュリスを抱きしめた。


「僕たち、同じ気持ちなんだね。嬉しいよ」

「うん、私も。でも困ったわね。二人一緒のお願いじゃ、何だかもったいない気がする」

「でも他には思いつかないんだ。シュリスは何かないの?」

「そうね……」


 シュリスは少し考えると、ゼルエダの顔を見つめた。


「こういうのはどうかな。ゼルエダみたいな黒髪黒目の人をもう少し増やしてくださいってお願いするの。そうすれば、変に目立ったり注目されることもなくなると思うから」


 ゼルエダが魔王を倒した事で、もう黒髪黒目を理由に忌避される者は出ないだろう。けれど今は逆の意味で目立ってしまい、結局は普通の人生を送るのは難しくなっている。

 今後もし黒髪黒目の人物が生まれた場合、勇者の再来などと騒がれる可能性もある。生き辛い人が出てしまう事を避けられたらと、シュリスは思った。


「本当はゼルエダを助けられたら良かったんだけど、それは無理だから。せめて、これからの人はと思うの」


 話を聞いたゼルエダは、顔を赤くしてシュリスの肩に顔を埋めた。


「そこまで考えてくれるなんて」

「ダメかな?」

「ダメじゃない、嬉しいよ。シュリス、大好きだ。愛してる」

「私も好きよ、ゼルエダ。ずっと一緒にいてね」


 二人は微笑みあい、唇を重ね合わせる。願いを聞き届けたというように、壊れた天井から柔らかな日差しが入り込み二人を包んだ。




 ――その後、魔大陸の浄化は七年の月日をかけて終わった。清らかになった広々とした大地を多くの国々が手中に収めようとしたが、勇者ゼルエダと聖女シュリスが瘴気の成り立ちを伝え平和の重要性を訴えた事で、戦争には繋がらなかった。

 代わりに聖女シュリスの提案で、魔大陸に住み着いた人々による間接民主制国家レキエムが樹立する。初代大統領には勇者ゼルエダが選ばれ、歴史上最も長い任期を勤める事となる。


 大統領夫妻の元には世界各地に散らばった魔王討伐の英雄たちが度々訪れ、彼らの助力もありレキエムは世界有数の豊かな国家へ発展していく。

 夫妻の仲は睦まじく二男一女に恵まれたが、長男は混血(ハーフ)にも関わらず父親と同じ黒髪黒目だったため、前例がないと世界は騒然となった。

 しかしその直後から種族を問わず多くの黒髪黒目の子どもたちが産まれたため、長男が物心つく頃には注目される事もなくなった。


 世界を平和に導き、多くの家族や友人に囲まれ寄り添って暮らした勇者と聖女の話は、魔王討伐や国家運営の手腕と合わせて後世まで語り継がれていく事になる。

 彼らの死後については誰も分からないけれど、穏やかな日々を過ごす人々を見て喜んだ神は、必ずやもう一つの願いも叶えただろう。



 《完》



これにて完結となります。

最後までお読み頂きありがとうございました!


次回作は、中華風異世界での転移恋愛モノを考えています。

連載中の現実恋愛作品に完結の目処が付いたら、投稿を始める予定です。

またお目にかかる事がありましたら、どうぞよろしくお願い致します。

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