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勇者召喚の生贄〜転生聖女は幼馴染を救いたい  作者: 春日千夜
最終章 愛し愛される者
63/66

63:これからのこと

「私の国は人族が多いから、この髪と目の色でも虐げられることはない。むしろ憧れの目で見られ頼られるから、私も魔導士長などという役目を頂いている。だからゼルエダも、心安く過ごせると思うんだ」


 サビルは東大陸にあるアルターレ王国という、二百年前まで鎖国していたため純血の人族が人口の多数を占める珍しい国の出身だった。

 その国でも黒髪黒目は珍しいものの圧倒的な魔力量への憧憬の方が強く、サビルは魔導士長という責任ある立場についており、ゼルエダと違って穏やかに半生を過ごしてきた。


 そんなサビルだったから、ゼルエダが悲惨な目に遭ってきたと知って、親身になって何かと気にかけていたのだ。特にこの戦いが終わった後、ゼルエダがどう身を振るつもりなのかを心配していた。

 養子の誘いはゼルエダがシュリスと恋仲になる前から考えていた事で、もう必要ないかもしれないが一応伝えたかったのだとサビルは話した。


「もちろん、無理に受ける必要はない。ただ、後ろ盾についても考慮して、今後を考えた方が良い。シュリスと恋仲だと知られたわけだし、これからどこの国も君たちの勧誘に躍起になるぞ」


 世界はシュリスたちが思うよりずっと複雑だ。魔王復活までの間、表立っての戦争こそなかったものの、どこの国も水面下では自国の利を求めて暗躍している。まだ幼いうちから、ソラが暗殺者という稼業をしていたのもその一つだ。

 この数年は魔王という分かりやすい敵がいたため一時的に手を取り合っていただけで、平和が戻ったこれからはまた不穏な動きも出てくるだろう。


 そうなった時、自国に大きな力を欲するのは誰でも分かる道理だった。昨夜のパーティーで、若い男女がゼルエダやシュリスに言い寄ってきたが、あれはほんの序の口だとサビルは断言する。

 各国が集まったあの場では互いに牽制し合っていたからそれ以上の動きはなかったが、これからはそうはいかない。勇者か聖女、どちらかを手中に収めればもう片方も付いてくる。そう思う輩が、どんな手を使ってくるのかは分からない。


「そういった意味でも私は君たちを守れるだろう。養子になれば私の後任にも推しやすい。しっかりした地位があれば、シュリスのことも守りやすいだろう」


 サビルは四十代だが、これまで一度も結婚していない。黒髪黒目という珍しい見目や地位や力が災いして、女性運がとことんなかったために結婚する気が失せてしまったのだ。だから昨夜も誰も選ばなかった。

 けれどアルターレでは役付きの者の多くは世襲制を取るため、サビルは早く結婚し子を成すようにと言われ続けていた。その点、ゼルエダが養子になってくれれば全て丸く収まる。

 もしゼルエダがアルターレ王国の次期魔導士長となれば、アルターレが全面的に後ろ盾になるし、魔法使いの精鋭たちを束ねる立場になるのだから、そう簡単に手を出す者は出てこないだろう。


 そんな風にサビルは自分の利点とゼルエダたちの利点とを話したが、勧誘ではないともハッキリ言った。


「返事は急がないから、ゆっくり考えればいい。シュリスがいるんだから大神殿に後ろ盾を頼むのも一つだ」

「そうだな。何なら、俺たちと一緒にアルケーの森に住んだっていいんだ」

「そうね。あなたたちなら大歓迎だわ」


 サビルの話に、ラルクスとエルメリーゼが声を挟む。それを見て、トリスタンとレグルスも声を上げた。


「このままセルバに留まってくれてもいい。その時は私が騎士団長として、責任を持ってお前たちを守ろう」

「ゲーベルンに来てもいいぞ。ソラも来るしな」


 ソラはかつて、とある国お抱えの暗殺者組織に所属していたが、その国も魔王軍の手で滅ぼされてしまった。ソラは生き残った組織の者たちと共に混成軍に籍を移して戦いを続けてきたが、戦いが終わった今もう一度組織に戻るつもりはない。孤児だったソラは刷り込みのように暗殺者として育てられたけれど、シュリスたちと出会って他の生き方も知ったからだ。

 そんなソラに、レグルスは同じ獣人として国へ来ないかと声をかけた。快諾したソラは、これから先はレグルスの兄の妻、つまり王妃の護衛を兼ねたメイドとなる予定だった。


「そうなんだ。ソラは獣王国に行くんだね」

「ん。シュリスたちも一緒なら、ソラは嬉しい」

「ありがとう。考えさせてもらうね」


 シュリスとゼルエダは初耳だと驚いたが、リーバルも初めて知ったらしい。羨ましげにため息を漏らした。


「いいなぁ。そんなに何人も受け入れられるなら、僕も獣王国に行きたい」

「ああ、構わないぞ。ただ獣人族の女性は一途だからな。遊びで手を出すなよ」

「酷いなぁ。僕を何だと思ってるのさ。そこまで軽い男じゃないってば」

「それならいいがな」


 レグルスの忠告にリーバルはムッとした様子で顔を歪めたが、レグルスは肩をすくめて流すだけだ。

 臍を曲げてしまったリーバルに、ラルクスが呆れたような目を向けた。


「リーバル、お前は里へ報告に戻る必要があるだろうが」

「ラルクが変わってくれれば良いじゃないか。おじさんたちもまた会いたいって言ってたよ」

「俺もエルと色々顔を出さなきゃならない所があるんだよ。だから俺たちが里へ帰るにしても、まだ先の話だ。お前が獣王国に行くのは自由だが、やる事はやってからにしろ」

「はいはい、分かったよ」


 この分だと、リーバルもそう遠くないうちにゲーベルン獣王国に行くのだろう。復興の最中だから、魔法を使えるリーバルはきっと歓迎されるはずだ。


 これから先、皆それぞれの道を歩んでいく。けれど誰もがシュリスとゼルエダの事を気にかけてくれている。平和になった世の中で、二人が幸せになる事を心から願ってくれているとつくづく感じられた。

 それが有り難くて嬉しくて、シュリスたちはしっかり考えて決めようと頷き合った。

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