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勇者召喚の生贄〜転生聖女は幼馴染を救いたい  作者: 春日千夜
最終章 愛し愛される者
62/66

62:朝食の席で

 翌朝。シュリスとゼルエダが揃って朝食を食べに向かうと、先に食事を始めていたラルクスとエルメリーゼに揶揄われた。


「よう、ゼルエダ。昨日は見直したぞ。男を上げたな」

「本当ね。まさかゼルエダがあんなにハッキリ言うとは思わなかったわ」


 昨夜のパーティーでの一件は、皆にしっかり見られていたらしい。同じく席に着いていた仲間たちも温い視線を送ってくるから、シュリスは恥ずかしさに頬を染めた。

 けれどゼルエダは晴れてシュリスと恋仲になった事で、より一層自信がついたらしい。全く臆する事なく、ニコリと笑みを返した。


「僕が勇者になったのは、このためですから」

「言うようになったな」

「愛されてるわね、シュリス」

「そ、それより! みんなはどうだったんですか⁉︎」


 シュリスが居た堪れなくなってトリスタンたちに目を向けると、トリスタンとレグルスは肩をすくめた。


「私は騎士団長だ。他国の姫を勝手に娶るわけにはいかない。婚姻相手は国内の情勢を鑑みて、国王陛下から許可を頂いて選ぶことになるだろう」

「俺も同じだ。うちは特に今、復興の最中だからな。他国から嫁をもらってもいいが、国に旨みがないと困る。兄者と相談してからになるから、誰ともそういう約束はしてないぞ」


 トリスタンは元々、ここセルバ王国の騎士団長だった男だ。魔王との戦いが終わった今、再びその職務に復帰する事になっており、すでにセルバ国王が何人か国内の貴族令嬢を見繕っているらしい。


 レグルスはゲーベルン獣王国の王子で、国は一度魔王軍に滅ぼされている。その際、国王や王太子を含む王族も多く亡くなったが、幸いにもレグルスの一つ上の兄は無事だった。

 国を取り戻したレグルスの兄は今、国王となって復興に励んでいる。魔王討伐の報告とパーティーが終わり次第、レグルスも国に帰って兄を助けるつもりだ。


 二人とも、自分の気持ちではなく所謂政略結婚をするつもりなのだと聞いて、シュリスは何ともやるせない気持ちになった。


「好きな人と一緒にはならないのね」

「私には元々そういう相手はいなかったからな。それに、妻として迎えたならそれなりに良い関係を築く努力はするつもりだ。気にするな」

「俺も婚約者はとっくに死んだ。他を娶るなら、国の助けになる相手がいい。あいつもそれなら許してくれるさ」


 アルレクには恋愛要素もあったけれど、勇者と結ばれない仲間のその後は特に言及されなかった。決して悲観はしていない二人の様子に少しホッとしたけれど、穏やかで幸せな結婚相手が選ばれる事をシュリスは願う。

 するとゼルエダが、ふと思い出したようにソラに目を向けた。


「そういえば昨日、ソラはどこにいたの? ソラも大変だった?」


 狐獣人のソラは十二歳になったが、身長は一向に伸びる気配がなく未だ小さな子どもの見た目だ。そんな彼女にも言い寄る相手はいたのだろうかと皆の視線が集まると、ソラはフルフルと頭を振った。


「ソラは平気。昨日はお散歩してた」

「お散歩?」

「ん。長い話が終わったから、もういいかと思って」


 何とソラは、パーティー最初にしか会場にいなかった。面倒事を早々と察して、外へ逃げ出していたという。

 小さなソラが厄介な相手に絡まれたり目を付けられずに済んだ事に安心したが、誰にも気付かれずに姿を消してしまった事はさすがとしか言いようがない。


「他のみんなはどうだったんでしょうか」

「良い相手を見つけた者もいるが、興味がないとさっさと帰った者や魔大陸が気になって戻った者もいる。誰も無理強いはされてないから安心しろ」


 シュリスたちがいる客人用の食堂には、顔を見せてない仲間たちもいる。

 彼らがどうしているのかをラルクスから聞いて、シュリスは安堵の息を漏らしたが、リーバルがムッとした様子で唇を尖らせた。


「ラルク、僕のことまでまとめて言わないでよ。シュリスちゃんが聞いてくれるのを待ってたのに」

「聞かなくたってお前は分かるだろうが。あれだけデレデレしてたんだから」

「残念でした。あの中には、僕の運命の相手はいなかったんだよね」


 意外にもリーバルは、昨夜集まった女性を誰も選ばなかったらしい。どうしてと問いかければ、リーバルは疲れたようにため息を漏らした。


「だってあの子たちはさ、僕じゃなくてもエルフなら誰だって良かったんだよ。興味があるのは里のことだけで、僕を見てくれなかったんだ」


 それでも一応、何人かの令嬢とは別個で会う約束を取り付けているそうだ。ただそれもエルフの里との折衝に関わる事で、要は仕事だった。


「シュリスちゃんみたいな子がいたら良かったのに」

「シュリスはダメですよ、リーバルさん。渡しませんから」

「分かってるよ。ゼルエダもずいぶん強くなっちゃったよね。僕が好きになる子はみんな違う人を選ぶんだもんなぁ」


 ガックリと肩を落とすリーバルに、シュリスは思わず苦笑した。

 そこへ、少し遅れてサビルがやって来た。


「ゼルエダ。良かった、まだいたな」

「師匠、おはようございます。昨日は大変でしたね」

「まあね」


 サビルも散々言い寄られたが、誰にも良い返事はしなかった。そんな彼はゼルエダに話したい事があったのだと、口を開いた。


「ゼルエダ。もし君さえ良かったら、私の養子にならないか」

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