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勇者召喚の生贄〜転生聖女は幼馴染を救いたい  作者: 春日千夜
最終章 愛し愛される者
61/66

61:祝勝パーティー

 想いを通わせたシュリスとゼルエダは、エルメリーゼを始めとする魔王城に突入した精鋭の仲間たちが帰ってくるのを迎えるべく神殿へ戻った。

 出迎えにあたり、シュリスはいつものように神使のローブを着ようと思っていたのだが、残念ながらそれは叶わなかった。


「まさかローブが消えてたなんて……」

「僕の剣も消えたんだ。魔王を倒したからなのかと思ってたけれど、あれに前の勇者と聖女が宿ってたなら彼らの魂が去ったからなのかもしれないね」


 魔王の成れの果てを倒すと同時、勇者の剣と神使のローブは消えてしまっていた。ローブで底上げされていたシュリスの魔力量も素の状態に戻ってしまっている。

 もちろん長い戦いの中でレベルも上がっているから無力になったわけではないが、魔王と戦った時と比べたらシュリスはずいぶん弱くなってしまった。


「これじゃ、もう一度魔大陸に行ってもあまり活躍出来ないわね」


 魔王城に溜まっていた濃密な瘴気は消え去り、魔大陸の空からも禍々しさはなくなったが、まだ魔大陸全体が安全になったわけではない。

 シュリスが眠っていた間、エルメリーゼたちや混成軍の手で魔族の残党こそ滅ぼされたものの、まだまだ魔大陸は瘴気に侵されていて魔物が大量発生を続けている。


 彼の地が再び人の住める土地になるには一度隅々まで浄化する必要があるが、今のシュリスは浄化魔法陣の代わりとなる神聖魔法も使えなくなってしまった。消費魔力が大きいため、最大魔力が減ってしまえば使う事すら出来ないのだ。

 あの魔法が使えれば、魔大陸全体の浄化も速やかに終わったのにと悔しさが込み上げた。


「そんなに落ち込まないで、シュリス。向こうは軍のみんなに任せておけばいいよ。僕たちは先に、報告に戻らないと。そのためにエル様たちも帰ってくるんだから」

「……そうね。私たちが直接みんなに、平和になったんだって言わないとね」


 エルメリーゼたちと合流出来次第、シュリスたちはセルバ王国へ向かう事になっている。

 国境地帯で大規模な防衛戦を行って以降、混成軍の本部はセルバ王国に置かれていて、魔王討伐の知らせを受けた各国首脳陣も集まってきているのだ。

 シュリスたちの帰還に合わせて凱旋パレードや勝利を祝うパーティーが予定されており、世界に平和が戻ったと宣言する事になったのだった。


 慰めるように微笑んだゼルエダに、シュリスも笑みを返す。程なくしてエルメリーゼたちも戻ってきて、一人も欠ける事なく戦いを終えられた喜びを、シュリスは改めて噛み締めた。




 約一年かけて進んできた道のりも、転移魔法があればあっという間だ。

 バスティアン王国からセルバ王国まではさすがに長距離すぎるし、シュリスたちと共に帰還を果たす精鋭たち――シュリスのアルレクの知識で集まった勇者の仲間たちと、ゼルエダと同じ黒髪黒目のサビルと博士だ――は総勢百名近い。

 一度の転移では済まなかったが、ゼルエダやエルメリーゼを始めとして魔力量の多い仲間もたくさんいる。彼らが順番に魔法を使う事で魔力回復も最低限にしつつ、数日かけてセルバ王国に辿り着く事が出来た。


 凱旋パレードには多くの人々が詰めかけ、屋根無しの馬車に乗るシュリスたちに嬉しげに手を振った。

 ゼルエダの黒髪を見ても、もはや誰も驚かない。黒髪黒目の勇者が世界を救ったという話は広まっていて、むしろ拝まれる勢いだ。

 戦いの最中も混成軍の兵士たちからは期待の眼差しを向けられたものだが、一般市民からのそれはまた違った熱量がある。ゼルエダは照れくさそうに微笑んで、手を振っていた。


 そうして城で行われたパーティーは、それは豪奢なものだった。城の大広間でゼルエダが魔王討伐を果たしたと報告すると、世界各国を代表してセルバ王国国王がその偉業を讃え、パーティーは始まった。


 優雅な音楽が流れる中、着飾った男女が次々に挨拶に訪れ、ゼルエダとシュリスだけでなくエルメリーゼたちにも感謝を告げていく。

 まるで物語のように煌びやかな光景だと感心してしまったが、アルレクそっくりな世界なのだから当然かとも思う。ゲームでも城の中には入れたとはいえ、こんな目の眩むようなパーティーはなかったけれど。


 とはいえ、ただ楽しい時間を過ごせるというわけでもない。ゲームでは、エンドロールが流れてめでたしめでたし、で終わった魔王討伐後だけれど、現実は世界を救った勇者一行には少々面倒だった。


「聖女様! この度は救っていただきありがとうございました。よろしければ今度、我が国にもいらして頂けませんか。あなたのようなお美しい方にピッタリな場所があるんです。色々ご案内させていただきます」

「ありがとうございます。でも今はまだ忙しいので、そのうち機会があれば」

「聖女様、あなたと出会うのを夢に見ておりました。こうしてご挨拶出来て嬉しいです。よければ私と踊っていただけませんか」

「ごめんなさい、ダンスは苦手なんです」


 各国からは使者だけでなく王子や王女、貴族など国の地位ある人々が、このパーティーに参加するためにわざわざやって来ていた。彼らは誰もが独身で若く美しい。

 英雄である勇者一行を自国へ招きたい、あわよくばその中の誰かと婚姻などで深い縁を結びたいと考えているようで、シュリスやゼルエダはもちろん他の仲間たちも声をかけられている。


 彼らに煩わされる事なく純粋に楽しめているのは、賢者夫妻ぐらいだ。

 セルバ王国騎士団長のトリスタンやゲーベルン獣王国王子のレグルスには、嫁入り希望の者たちが殺到している。黒髪黒目で以前は勇者の一人だったが片腕を失くしてしまったサビルや、浄化魔法陣を作り上げた功労者とはいえ普段は研究ばかりで偏屈な博士にさえ、言い寄る者たちはいる。

 ソラだけは姿が見えないから、うまく隠れたのだろう。リーバルに至っては女性に囲まれて嬉しそうで、形の良い顔が台無しになりそうな勢いでデレデレとしている。


 シュリスはどうにか頑張って断りつつも、ゼルエダの様子が気になって仕方がない。気を移す心配はしていないが、人との付き合いが少ないゼルエダが断れなくて困っていないかと心配だった。

 けれどどうやら、それも杞憂だったようで。


「シュリス」

「ゼルエダ? ……ひゃっ!」


 急に後ろから抱き寄せられて驚いて目を向けると、ゼルエダはシュリスの頬にキスを落とした。

 唖然とするシュリスに蕩けるように微笑むと、ゼルエダはシュリスを抱きしめたまま背後に振り向いた。


「すみません。僕はこの通り、聖女シュリスが好きなんです。だからあなたたちの気持ちは受け取れない。分かってもらえましたか?」


 どうやらゼルエダは、迫ってきた女性たちを躱すためにシュリスの元へ来たらしい。集まっていた令嬢たちに向けたゼルエダの笑顔は、シュリスに向けたそれと違って完全に外向けのものだ。

 有無を言わせぬゼルエダの態度に、令嬢たちは気まずげに頷くと「聖女様とお幸せに」と言って去っていった。


 でもそれでゼルエダがシュリスを離す事もなくて。


「そういうわけなので、みなさんも僕の聖女に手を出さないでくださいね」


 シュリスに言い寄っていた男性陣に、ゼルエダは凍りつくような鋭い眼差しを向けた。勇者の本気の威嚇に、男たちは震え上がって退散していく。

 助かりはしたものの、やり過ぎではないだろうか。そう思ってゼルエダを見つめれば、ゼルエダは苦笑してシュリスの正面に回った。


「ごめん。色々耐えられなくて」

「気持ちは分かるけれど、あの人たちもあれが仕事なんだから。無闇にケンカを売っちゃダメだと思うよ」

「仕事……そうだね。そうかもしれない」


 ゼルエダとしては、シュリスにそんな風に思われてしまった彼らに同じ男として同情しないでもなかったが、わざわざそれを口にする必要もないだろう。

 ゼルエダはクスリと笑うとシュリスの手を取った。


「挨拶は大体終わったし、仕事にも息抜きは必要だよね? 少し抜け出して休憩しようよ。城の庭も綺麗だって聞いたよ」

「……そうね。そうしましょうか」


 仲良く寄り添ってバルコニーへ抜け出す二人に、声をかける無粋な者はもう出てこなかった。主役の二人が抜け出しても、世界が救われた喜びの宴は夜遅くまで続いた。

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