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49:魔王の秘密

 ゼルエダが勇者の剣を手に入れてから、混成軍は一気に進んだ。

 魔王軍の中で上位だったハロスを倒したのも大きかったのだろう。魔族に操られる魔物たちも数を減らしているようで敵の統率が乱れるようになった分、補給部隊の移動も楽になった。

 余裕の出てきた混成軍は、合間を見てはシュリスの作った安全地帯以外にも直接浄化魔法陣を設置し始めている。


 そうして魔大陸制圧は順調そのもののといった状態が続いているが、前線で動き続けながらもシュリスとゼルエダはハロスが残した最後の一言が気になっていた。

 魔族がいう「次代を任せるに相応しい力」とは何の事なのか。いくら破壊と破滅を望む魔族とはいえ、「終わりを見れなくて残念だ」というのは魔王軍自体の終わりというわけではないだろう。


 どう考えても、圧倒的な力を手にしたゼルエダに対して言う言葉とは思えないけれど、何か意味があるのかも分からない。

 意味深な言葉を残す事で不安にさせる目的だったのなら、成功していると言えるほどにシュリスたちは気になっていた。


 そしてゼルエダはともかく、シュリスにはもう一つ気がかりな事がある。神使のローブを手に入れた際、前の持ち主が警告めいた言葉を残していた事だ。

 アルレクで、何か大切な情報を忘れている気がするというのもある。やはり無視は出来ないと、あと数日で魔王城に着くとなった夜、シュリスはエルメリーゼのテントを訪ねた。


「エル様、少しお時間頂いてもいいですか?」

「シュリス? 構わないけれど、ゼルエダも一緒でいいかしら?」


 エルメリーゼは夫のラルクスと二人でテントを使っている。エルメリーゼが開けてくれた垂れ布の隙間から中を覗けば、二人で使える程度の小さなテーブルがあり、ラルクスとゼルエダが向かい合って座っていた。


「シュリスももしかして、ハロスから言われたことを相談しに来たの?」


 シュリスに気付いたゼルエダが立ち上がり、入り口まで歩いてきた。


「ええと……うん、そうなの」

「それなら一緒に聞こうよ。ちょうど今、ラルクス様に話した所だったんだ」


 シュリスは少し迷ったが、ゼルエダに手を引かれたので大人しくテントへ入った。

 すぐにエルメリーゼが追加のテーブルと椅子を魔法で出してくれたから、そこにシュリスはエルメリーゼと向かい合う形で腰を下ろす。

 ついでに温かなお茶も用意されたので、シュリスは有り難く頂いた。


 ゼルエダの話を聞いて考え込んでいた様子のラルクスが、シュリスに目を向けた。


「シュリスもゼルエダと同じ言葉を聞いたのか? ゼルエダに対してハロスが言ってたというのは間違いないんだな?」

「はい、そうです。でも実は、私はもう一つ気になってることがあって……」


 ローブを手に入れた時の詳しい内容を、シュリスはまだゼルエダに話していない。ゼルエダからアドバイスは得られないと思っての事だが、結果的に秘密にしていたようなものだ。その上、今回もゼルエダには何も言わずに一人で相談に訪れている。

 それなのにゼルエダに会ってしまい、同席しているこの場で言うのは少し気が引けたが、取り立てて隠すような事でもないかと思い話し出す。


 案の定、ゼルエダからは不満げな目を向けられたが、ゼルエダは無言で茶を飲むだけだったので、シュリスは内心でホッとした。


「ハロスが言ったことに意味があるのかは分かりませんが、何となくこのまま魔王城へ攻め込むのも怖いんです。ローブの持ち主が気をつけるよう言うぐらいなので」

「なるほどな……。ハロスの話は置いておいて、とりあえずそのローブの前の持ち主は、三千年前に魔王と戦った者たちなんじゃないか」

「魔王と?」

「昔も今と同じように、様々な種族が協力して魔王を倒そうとしたんだ。ローブを着た少女の周りにそれだけの種族が集まっていたのなら、そうと考えるべきだ」


 魔王や魔族は魔大陸ごと三千年前に封印されている。その際に起きた戦いに前の持ち主も参加していたのなら、少女が取り囲まれていたあの光景にも納得出来る。


「そうすると、やっぱり魔王との戦いで何かを気をつけるよう言われていたということですよね?」

「そうなるな。それに、ハロスの言葉にも思い当たることはあるんだ。良い機会だからお前たちにも話しておくべきだろうな」


 深刻そうに言ったラルクスに、シュリスとゼルエダは顔を見合わせた。エルメリーゼが一つ頷いて、テントに防音結界を張った。


「これからラルクが話すことは、他言無用よ。いい?」

「……はい」


 結界を張るほど内密な話とは、一体何なのだろうか。緊張を感じる二人に、ラルクスは静かに話し出した。


「三千年前、どんな戦いがあって封印に至ったのかは俺も知らない。代々エルフ族の族長に口伝で伝えられているらしいが、俺とエルは特別にその一部を教えられているだけなんだ。だから、ローブの少女が実際何を嘆いて救いを求めていたのかまでは分からない。だが一つだけ俺たちにも分かっていて、なおかつ神託があったからこそ言えなかったことがある」


 ラルクスは一度話を切ると、ゼルエダをじっと見つめた。


「ゼルエダ、お前は純血の人族だな。そして俺はエルフ族。レグルスやソラは獣人だ。人族は神が作り、俺たちエルフは精霊から生まれた。獣人は、元を正せば神が作ったともいえる。世界と共に神が作り出した獣が人型に進化した者たちだから。じゃあ、魔族は何だと思う?」

「……魔物の上位種じゃないんですか? 竜人族のように、人型を取るようになった魔物なのでは?」

「いいや、違う。どちらかといえば、ある意味混血(ハーフ)に近しい存在だ」

「ハーフって、まさか……!」


 息を飲んだゼルエダに、ラルクスは頷いた。


「魔族は、元々は人族だった者たちだ。かつて、魔物の力を取り込もうとして融合した人族の王がいた。それが魔王の始まりだ」

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