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48:神殿跡地の戦い

 シュリスたちの目指す神殿跡地は、植物型の魔物が多く蔓延る森の中にある。まだ魔大陸に人が住み、この地が別な名で呼ばれていた頃には立派な街中にあったのだろうが、三千年以上が経った今その面影はどこにもない。


 足や翼のある魔物は魔王軍として駆り出されており生き物の気配など森には何一つないが、そこから動く事の出来ないタイプの魔物たちは声もなくワサワサと葉を揺らしている。

 触手のように蔓を伸ばし、獲物を溶かす酸を噴き出してくるのが鬱陶しいが、あまり派手にやり合うと本隊と別行動している事が魔王軍にバレてしまう。

 シュリスたちはひたすらに攻撃を流しつつ、魔物を無視して足を進めた。


 そうしてやがて、半ば森に飲み込まれているかのような遺跡がシュリスたちの前に現れた。パガーノスの大神殿と同じ建築様式ではあるけれど、荘厳な柱は折れて崩れているし床の大部分は土に埋もれている。

 入り口を覆うように蔓や草が伸びているが、それらが魔物ではなくただの植物なのは不幸中の幸いだろう。


「エル様たちはここまででお願いします」

「分かってるわ。気をつけてね」


 エルメリーゼとラルクス、リーバルの三人を残して、シュリスたちは内部へ足を踏み入れる。


 世界各地にある神殿と同じく、一歩入った所で空気感はガラリと変わった。どの神殿も魔力を貯めやすい性質を持つ場所に作られている。それがいつもは心地良く感じられるが、ここは魔大陸だ。辺りに漂う濃厚な瘴気はいつ魔物を生み出してもおかしくないぐらいで、それが魔力と混ざっているから尚のこと質が悪い。

 ゲームでは何度も全滅しては挑戦した場所だから、当然そういう場だとシュリスも分かってはいたけれど、疑似体験していたものと現実とではやはり違う。酷い息苦しさを感じて、一刻も早くこの場を浄化したくて堪らない。


 とはいえ、目的の祭壇はまだ先だ。森では全くといっていいほど動物型の魔物はいなかったのに、神殿内部では時折出て来るからそれを倒しながら進む。

 魔王軍の意図など知る由もないが、やはり何かを目的としてハロスもここに来ているのだろうか。だから普通の魔物も出てくるのかと、ゲームでは分からなかった裏事情をついシュリスは考えてしまう。


「シュリス、この先でいいんだな?」

「はい、そのはずです」


 最後の曲がり角を前に、先頭を行くトリスタンに尋ねられ、シュリスは頷いた。

 祭壇の間にハロスがいるのかここからは分からないが、いるとするならば通路へ出た瞬間から全速で走る必要がある。そこから先は、僅かな失敗も許されない。

 密かに緊張するシュリスの手が微かに震えているのに気付いたのか、ゼルエダがその手をそっと握った。


「大丈夫。きっと上手くやってみせるから」

「……うん、そうね。行きましょう」


 ゲームでの事とはいえ全滅の記憶を持つシュリスとしてはどうしたって恐怖を感じてしまうが、いつまでも様子を窺っているわけにもいかない。

 ゼルエダに励まされ覚悟を決めると、シュリスは仲間たちと息を合わせて一気に駆け出した。


「来たか。さて、どこまで楽しませてくれる?」


 元は祈りを捧げる神聖な場だったはずの部屋は、四方の壁が崩れ去って今は円形の広場のようになっている。その中心に、変貌を遂げたハロスの姿があった。

 走るシュリスたちを見てニィと口元を歪めたハロスは、両腕を突き出して猛毒の風を巻き起こす。作戦会議でシュリスが注意を促していた通りのそれに、素早くトリスタンが反応した。


「相棒、出番だ」


 皆より一歩前へ出たトリスタンが鞘から剣を抜くと、漆黒の刀身に赤い紋様が浮かび上がり猛毒を吸い込んだ。

 トリスタンが持つ凶禍の怨剣は、毒や幻惑など状態異常を引き起こす作用を吸収する事が出来る。当然これも、シュリスの指示で事前にトリスタンが入手していたものだ。


 そのままトリスタンが斬りかかると、さすがに予想外だったのかハロスは笑みを消して飛び退る。そこへレグルスが突っ込んでいき、ハロスと激しく打ち合った。


「大人しく沈め、オラァ!」

「初撃を躱したぐらいでいい気になるなよ、人間如きが」


 ギラギラと瞳を光らせて、王子とは到底思えない荒い言葉を放ちながらレグルスは拳を繰り出していくが、ハロスも簡単にはやられない。

 かといってハロスが打ち出す攻撃もレグルスの致命傷にはならない。レグルスの纏う玄嶺の衣は、素早さと防御力が格段に上がる防具だからだ。


 最強装備を手にした二人がハロスの注意を引く間に、祭壇の間に仕掛けられた他の罠をソラが隠密スキルを活用して解除していく。

 それでもハロスは一筋縄ではいかず、最も防御の薄く足も遅いシュリスに向けて遠隔攻撃も放って来るから、それはゼルエダが打ち払う。

 どうにか部屋の中央にシュリスはたどり着くと、荒い息を必死に整え、印を組んで呪文を唱えた。


「全ての祖偉大なる神よ。我は御身の下、円環を正す者。嘆きの時に終焉を告げるべく、穢れたこの地に慈愛の証を与えん。始まりは地に終わりは天に、湧き出ずる水の如く清き流れを――神降聖結界テレオスグランプロミセル!」


 神使のローブがフワリと浮かび上がり、金色の粒子が四方へ飛び散っていく。

 ハロスの動きが僅かに鈍った瞬間を狙い、ソラがハロスの影を縫い付ける。祭壇へ駆け出したゼルエダに向けて、体が動かないままにハロスが瘴気を放ったが、それはトリスタンが切り裂いた。

 シュリスの詠唱に合わせて移動していたレグルスが、ゼルエダの腕を引き勢い良く押し出した。


「行け、ゼルエダ!」

「……っ、届いた!」


 祭壇の上に刺さっていた剣の柄にゼルエダの手がかかる。シュリスの思った通り、ゼルエダは無事に勇者の剣を引き抜いた。

 同時に、辺りに神々しいまでの青白い光が溢れ出す。


 拘束を振り解いたハロスがトリスタンを弾き飛ばしたが、ゼルエダではなくシュリスに攻撃の矛先を向ける。

 レグルスが咄嗟に駆けつけようとしたが間に合わない。ゼルエダは剣を抜いた勢いそのままに、全力でハロスのいる方向へ青白い刀身を振り抜いた。


「させるかぁぁ!」

「グァァァ!」


 光の一閃が真っ直ぐに走ってハロスの腕を切り落とす。間髪入れずにゼルエダは剣を構えて突っ込み、ハロスの胸を突き刺した。


 絶叫したハロスの胸元から一気に崩壊が始まり、大穴の空いた体が膝をつく。

 そのまま倒れ伏す直前、けれどハロスはニヤリと笑った。


「これはいい、次代を任せるに相応しい力だ。終わりを見れないのが残念だな……」

「何?」


 眉を顰めたゼルエダに、ハロスはそれ以上何も語らないまま砕けて消えていった。

 今度こそ確実に倒せたと皆はホッと息を吐いたが、最期の言葉を聞いたゼルエダとシュリスだけは無言で口を引き結んだ。

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