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46:魔大陸へ

 魔大陸への上陸作戦にあたり、シュリスたちは再び混成軍本隊とは別行動を取る事になった。本隊は船で上陸を目指すが、シュリスはゼルエダやエルメリーゼたち精鋭と共に別ルートで先行して上陸する。

 その方法は大神官クラールが神託で受けた通り、エルフ族の導きで成せるものだった。


「この穴が魔大陸まで繋がってるんですか?」

「ああ、そう聞いてる。ただ、俺たちは実際に行ったわけじゃないから、今も通れるかは分からないがな」


 人一人がギリギリ通れる大きさの、底の見えない暗い穴を覗いてゼルエダが問いかけると、ラルクスが頷き答えた。


 シュリスたちがいるのは、バスティアン王国の西端にある岩窟だった。入り口は下半分が海に浸かっているため、底の浅い船でギリギリ内部へ進入出来るかという所だ。

 だから魔王軍も気付かなかったのだろう。中には祭壇のような物があったが壊れずに残されており、その裏側に地中へ繋がる穴があった。


 二人を横目に、虎獣人のレグルスが興味深げに辺りを見回した。


「しかし何だってこんな場所を作ったんだ? 穴を隠すためにしちゃ、ずいぶん手が混んでるが」

「それはここが魔大陸封印の要だったからだよ。僕たちの先祖は、ドワーフと人魚と協力して封印を施したんだけどさ。その起点であり、結界維持のための場所がここだったんだ」


 レグルスの問いに答えたのはリーバルだ。リーバルは祭壇の上に置かれている、ひび割れてしまった巨大な宝珠を指し示した。


「あれに封印の魔法陣が刻まれていてね。これと同じ珠が魔大陸を囲むように五つ沈められている。それぞれから魔大陸に向けて魔力の流れのあった名残がこの穴なんだよ。だからあと四箇所にこれと同じ穴はあるけれど、ここ以外は全て水の中だ。僕たちが入れるのはここだけってわけ」

「へえ、なるほどな」

「でもリーバル。この穴って、ただの穴じゃないわよね?」


 リーバルとレグルスの会話に、エルメリーゼが割って入った。とはいえエルメリーゼは穴のすぐそばにいる。ゼルエダの横から穴を覗き込もうとする狐族の少女ソラが落ちないよう、その襟首を掴んでいるからだ。

 その様子を、シュリスと一緒に少し離れた場所から眺めていたセルバ王国騎士団長トリスタンも、エルメリーゼの言に同意を示した。


「確かに妙な気配を感じるな。お前たちの転移と似たような揺らぎがあるんじゃないか」

「エルメリーゼはともかく、トリスタンはよく分かったね。セルバの騎士団員は何か特殊な訓練でも積んでるの?」

「そんな話に付き合ってる暇はない。ふざけてないで、何か知ってるならさっさと話したらどうだ」

「ほんの冗談なのに、相変わらず騎士団長様は真面目だなぁ。まあ、その通りだよ。この穴は見かけはこうだけど、時空が少し歪んでるらしいから」


 転移魔法とは違うが、魔大陸と島の間に延々と洞窟が続いているわけでもないのだとリーバルは話す。この穴は結界に必要な力を流す管のような役割をしているから、精霊の力と魔力が通っており人の理とは違う形になっているだけなのだ。

 説明を聞いても理解しきれないのか、皆は不思議そうに穴を見つめているが、シュリスだけは特に感慨もなく眺めていた。というのも、ここから魔大陸へ向かうのはアルレクでも同じだったため、シュリスはそういうものだと認識していたからだ。


 ラルクスが増えているが、ゼルエダを勇者とすれば奇しくもアルレクと同じようにメインストーリーで仲間となる者たちがこの場に揃っている。

 アルレクでは、エルフ族のリーバルにこの場所の存在を教えられていた。そこはゲームと同じなのだなと、シュリスは漠然と考えていた。


「それでシュリス。お前の神託にもここはあったってことでいいんだな?」

「はい、そうです。だから問題なく通れるはずです」


 この場で唯一のゲームとの違いであるラルクスの問いに、シュリスは頷きを返す。するといつもは無口で無表情ともいえるソラが、珍しくワクワクした様子で尻尾を揺らした。


「まだ入っちゃダメ?」

「うん、もうちょっと待って。先頭はリーバルさんがいいと思うの。()()ではそう出てたから」

「そうだね。僕かラルクスじゃないと無理だって、長から聞いてるよ。精霊の導きがないと迷うらしい」


 シュリスの返事を聞いて、エルメリーゼに首根っこを掴まれつつも期待に瞳を煌めかせるソラの頭を、リーバルはくしゃりと撫でた。


「ソラは僕の後ろをついて来てね。絶対に一人で先に行かないこと。逸れたらどこに行くのか、全く分からないから」

「ん、分かった」

「なら俺が殿になるか。念のため紐でも縛っておくか? 戦闘になったら面倒だが、中に魔族は入れないはずだからな」

「そうですね、それが良いと思います」


 シュリスの記憶でも、魔大陸に着くまでの道では敵に出会わなかった。遭遇するとしたら、出口から出た後になる。

 けれどそれも、アルレクの通りなら問題ないだろう。魔大陸側の出口も、ここと同じように隠れた祭壇になっていたはずだ。


 ラルクスの提案通り、全員の腰を紐で一列に繋ぐ。これなら決して逸れたりしないだろう。全ての準備が終わると、シュリスが皆に瘴気を弾く神聖魔法をかける。

 そうしてリーバルの後ろにソラ、続いてゼルエダとシュリス、レグルス、トリスタンと続き、エルメリーゼにラルクスという順番で穴に足を踏み入れた。


 中は真っ暗で、明かりを付けようとしても魔法が使えないらしい。それでも互いの存在は分かるから、紐を頼りに真っ直ぐ歩く。

 やがて視界がグニャリと曲がると、不意に視界が開けた。


「着いたっぽいな」


 先頭を歩いていたリーバルが、緊張の滲んだ声を漏らした。先ほどの祭壇と同じような岩窟の中に八人はいたが、辺りは濃厚な瘴気に包まれており、シュリスの神聖魔法で守られていても怖気を感じる。

 毒々しい色をした見た事もない奇怪な植物の蔓が壁を覆い尽くし、魔大陸側で結界の要になっていたのだろう祭壇の上にある宝珠がどす黒く染まって粉々に砕けていた。


「さて、どうするシュリス」


 不快感に皆が顔を顰める中、ラルクスが腕を組んで問いかける。シュリスは腰に付いた紐を外しながら答えた。


「すぐに浄化してしまいたい所ですが、それをすると敵に私たちの存在がバレてしまいます。ここは無視して作戦ポイントまで速やかに移動しましょう」

「分かった。なら、隠蔽の魔法をかけるぞ」


 ラルクスとエルメリーゼ、ゼルエダが主体となって全員に隠蔽魔法を施し、次いでシュリスも神聖魔法を重ねがけする。リーバルはその間に、念のため祭壇裏の穴を埋めた。


 ここからは魔王軍に見つからないようにしつつ、出来る限り早く上陸ポイント付近へ移動する事になる。船でやって来る混成軍本隊を迎えるためには、シュリスが浄化魔法陣の代わりとなる神聖魔法を仕掛けなければならないからだ。


 三千年もの間、人が訪れた事のない魔大陸には何があるか分からない。

 ソラが慎重に岩窟の入り口から外を覗き、レグルスとトリスタンが周囲の安全を確認すると、八人は薄暗い魔大陸へ足を踏み出した。

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