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41:幼馴染の変化

 人魚族はエルフ族の親戚のようなものだ。エルフ族は森の妖精から、ドワーフ族は土の妖精から生まれ、人魚族は水の妖精から生まれたのだと言われている。

 だからだろうか人魚族もエルフ族と同じように男女問わず美形が多く、耳も尖っている。違いは上半身は人型だが、臍から下は魚の尾鰭のようになっていて足がないという点だろう。魔力量も多く水の魔法を得意とし、美しい歌声は万物を魅了するとも言われている。


 そんな彼らは、シュリスとゼルエダをシャボン玉のような空気の膜で囲み、海底にある彼らの住処へ連れて行く。

 これは全てシュリスが望んだ事だ。そこからさらに魔大陸寄りに進んだ場所に、目的とする物があった。


「綺麗だけど、人魚族の里を僕たちは歩けないんだよね?」

「そうね。海の底だから」

「それなのに、海底神殿には僕たちだけで行くの?」

「ええ、そこは空気があるはずなのよ」


 シュリスたちが目指すのは、かつて海の底へ沈んだ神殿だ。三千年前、東大陸と魔大陸の間には、バスティアン王国以外にもう一つ島国があった。神殿はその島国にあったのだが、激しい戦いの末に島ごと沈んでしまったのだ。

 アルレクと同じなら、その海底神殿には聖女の最強装備である「神使のローブ」があるはずだ。それがシュリスには、どうしても必要だった。


(あの魔法があるのとないのとじゃ、攻略難易度が全く違うもの。絶対に手に入れないと)


 神使のローブは、それ単体でも優れた防御力を誇るのだが。アルレクで聖女シュリスが手に入れると、新しい魔法を覚える事が出来た。

 何千年もの間封印されていた魔大陸の瘴気は驚くほど濃く、人は上陸しても数刻で発狂してしまう。これがゲームでは、継続ダメージや状態異常を受けると共にセーブ不可という状態になっていた。それがこの魔法を覚えると安全地帯を作り出し、魔大陸でもセーブ可能になるのだ。


 ただ、これはセルバ王国防衛戦で使われた広域の浄化魔法陣と同じ作用だから、今のシュリスたちには一見必要なさそうにも思える。継続ダメージと状態異常は、瘴気を防ぐ神聖魔法を定期的に使えば防げるから尚更だ。

 けれどこの浄化魔法陣を敷くには、かなり手間がかかる。効力を及ぼしたい場所全体に、魔力を込めながら正確に書かなくてはならないからだ。敵の本拠地でそんな悠長な事をしている暇はないだろう。

 その点魔法なら、呪文を唱えてすぐに発動させる事が出来る。シュリス一人いればすぐに作り出せるのだから、絶対に手に入れたい。


 シュリスは当初、島を取り戻してから行こうと考えていたのだが、それを相談すると軍の方から別行動を提案された。

 海底神殿と人魚族の里はバスティアン王国とは微妙に方角が違う。島を取り戻してから向かうとなると、東大陸まで後戻りしなくてはならないし遠回りにもなってしまう。進軍に勢いのある今、それを緩めたくないと軍から声があがったのだ。


 そこで少数精鋭で、東大陸の端までやって来たのだが。アルレクと同じように人魚族に案内を頼むと、二人までしか運べないと言われてしまった。

 そのためシュリスは、ゼルエダと二人で向かう事になったのだった。


(でも驚いたわ。ゼルエダが手を挙げてくれるなんて)


 人魚族の里では里長に挨拶しただけで、シュリスたちは早々に海底神殿へ出発する。海中にも魔物は出るが、それらを人魚族が退けてくれている。

 シュリスとゼルエダは大人しく空気玉の中に入って運ばれており、ゼルエダは水中で戦う人魚族の姿をじっと見つめている。

 その精悍な横顔を眺めて、シュリスは二人だけと言われた時にゼルエダが絶対に自分が一緒に行くと譲らなかった事を思い返した。


 ガルニ村にいた頃のゼルエダは、自分に自信がない様子だった。それが修行や実戦を重ねる毎に、どんどん変わってきたとシュリスは思う。

 魔大陸に近い、しかも海底にある神殿だ。緊急時には転移魔法で地上へ戻る事になっているが、何が起こるかは分からない。引き際を見誤れば、二人もろとも死んでしまう可能性もある。


 以前のゼルエダなら、こんな責任重大な事をたった一人で背負おうなどとは思わなかっただろう。昔からシュリスを守ると言われてきたけれど、そこには常に何重にも安全策が取られていたはずで、自分がミスをしたら終わるような事に積極的に手を挙げるような性格ではなかった。

 けれど今は、何があっても自分がシュリスを守るという気概を感じる。そこにあるのは経験に裏打ちされた自信で、今だってゼルエダは人魚族の戦いを見る事で、水中での戦い方を少しでも身につけようとしているように見える。


 こんなにも頼もしく思えるようになるとは、正直シュリスは思っていなかった。今のゼルエダは召喚出来ない勇者の代わりではなく、正真正銘の勇者の顔をしていると、そうシュリスは思うのだ。


「……ゼルエダ、変わったね」

「ん? 何?」

「ううん、何でもない」


 シュリスが微笑むと、ゼルエダも柔らかく目を細めた。体が大きくなって自信も溢れるようになっても、この笑顔だけは昔から変わらない。

 そんなゼルエダがたまらなく好きだと、シュリスは思う。


 魔王軍との戦いは、これからさらに激しさを増すだろう。けれどそれを、ゼルエダと二人で乗り越えたい。

 そのためにも絶対にローブを手に入れるのだと、シュリスは気合いを入れた。

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