39:セルバ王国防衛戦
またしても更新遅くなりましてごめんなさい。お待たせしました!
まだしばらく更新時間不安定かと思いますが、日付越えないようにだけは死守していきたいと思います!
戦いは巨大な竜の咆哮から始まった。一斉に山を駆け降りてくる魔王軍に向けて、魔法やブレス、火矢などが放たれる。
それを遠目に見ながら、シュリスは冷静にゼルエダたちへ瘴気を弾く神聖魔法をかけた。
「これで大丈夫です」
「よし、行くわよ」
「はい!」
転移魔法で移動出来るのは、過去行った事のある場所か目視出来る場だ。エルメリーゼとラルクスは世界中を旅して回った経験があるし、戦場近辺はゼルエダも事前に隈なく歩いた。けれどシュリスは魔力量が足りないため使えないから、同時に転移するなら一人が使った方がいい。
四人しっかり手を繋ぐと、エルメリーゼが発動させ一気に敵陣の奥に飛んだ。
「シュリス!」
「全なる神よ、邪悪な意思より我らを守りたまえ――聖結界!」
転移した先ですかさずシュリスは結界を張った。四人ギリギリしか入れない程度の広さだが、魔族にすら簡単に破れない強固な安全地帯の出来上がりだ。ここからシュリスは一歩も動かず、ゼルエダたちを支援する。
すぐに周囲の魔物を蹴散らしに向かう三人に、シュリスは続けて防御力上昇、魔法抵抗力上昇、使用魔力減少、詠唱速度上昇などの効果を持つ魔法を放っていく。
これらの多くはアルレクで聖女が使っていたものだが、古代の神聖魔法をヒントにエルメリーゼたちと協力して新しく組み上げた魔法もある。
こんな事が出来るのもゲームとは違う。そもそも今のシュリスのレベルは、アルレクでの中盤以降に相当するほど上がっている。
これはゼルエダやエルメリーゼたちも同様で、ただでさえ基礎能力の高い三人は支援魔法を受けて瞬く間に魔物たちを屠っていった。
「来たわよ、ラルクス!」
「ああ、こっちの準備は出来てる。ゼルエダ、引きつけておけ!」
「はい!」
異常に気付いた魔族が飛んでくると、ゼルエダが囮となっている間にエルメリーゼが古代魔法の長い詠唱を始めた。魔物と戦いながら用意した増幅魔法陣をラルクスが起動させ、続けて二人息を合わせて魔法を撃ち込む。
「――光鎖の蔓!」
「――天上の劫火!」
ラルクスの拘束魔法に絡め取られた魔族を、青白い浄化の炎が包み込み天まで火柱を上げていく。
それを見て遠方から向かってくる他の魔族には、ゼルエダが広域攻撃魔法を放った。
「終焉を告げる光よ、遍く命を照らし闇を消し去れ――天極光爆輪!」
無数に放たれた光弾が一帯に降り注ぎ、周辺に残った魔物を押し潰し、救援に駆け付けようとする魔族の足を止める。視界が真白に染まるのを、シュリスは陶然と眺めた。
「すごいわ……」
これほど高位の魔法を連続で使うなど、アルレクでは考えられない事だった。
というのも、エルメリーゼとラルクスが使った合わせ技は勇者と賢者の親密度が一定値を越えないと使えない合体魔法だったからだ。本当の夫であるラルクスが生きているからこそ、勇者不在でも出来た事だろう。
そしてゼルエダが放った光の最上級魔法は、賢者か勇者が切り札として使うものだから、アルレクでは合体魔法と同時使用は出来ないはずだ。
ゲームではあり得ない事が現実に起きているのだとシュリスは改めて実感したが、考えてみれば今更な事でもある。そもそもアルレクと同じなら、この戦いはセルバ王国軍が主力だったのだから。
「シュリス、次に行くわよ!」
「はい!」
ゲームでは高位魔法を使うと一定時間動きに制限がかかった。いくら違いがあるとはいえ、そこは現実も同じなようで、急激な魔力減少による倦怠感で三人の動きが鈍る。
それを魔力回復の魔法薬を飲み干す事で振り払い、エルメリーゼたちは戻ってきた。
追手の魔族がたどり着く前に、四人は次の場所へ転移する。
シュリスたちはこの一連の流れを何度も繰り返して、主力である魔族を少しずつ間引いていく。同じ遊撃隊のサビルたちも好調なようだ。
やがて魔族が焦りから躍起になってゼルエダたちを追い始めると、今度は一気に浄化魔法陣のある一帯へ誘い込んだ。
アルレクでも混成軍は存在したものの負け続きでその規模は小さくなってしまい、各国がバラバラに魔王軍に対応して劣勢に追い込まれていた。そこへ勇者が召喚されて、一気に挽回するという筋書きだったのだ。
けれどシュリスがアルレクの知識を神託として伝えた今は、ゲームのそれと全く違う。混成軍の被害は最小限に抑えられたまま、セルバ王国へ集結した。リーバルを通じて集まった仲間たちもそれぞれに最強装備を手にしており、戦力はアルレクの何十倍にもなっている。
誘き出された魔族にドワーフ族謹製の防衛兵器が火を吹き、身動きが取れなくなった所へ集中攻撃で一網打尽にしてしまう。
アルレクでは僅か一週間足らずでセルバ王国が滅亡した戦いは、現実では三週間ほどかけて国境沿いの一帯を更地にするのと引き換えに勝利に終わった。もちろんゲームと違い、ラルクスも無事だった。
混成軍はそのままの勢いを保ち、多数の魔族を失った魔王軍を追い返していく。
確かな手応えを感じて追撃していく度に、さらにシュリスたちのレベルも上がっていった。




