35:神のお告げ
大神殿に戻るようフィデスから連絡が来たとリーバルは話したが、そのフィデスが本物なのか話に嘘はないのか、確証は持てない。
とはいえ実際に行ってみない事には分からないから、罠である可能性も考えつつ戻る事に決めると、エルメリーゼたちも同行する事になった。
「まだ未熟なお前たちだけで行かせるわけにはいかないからな」
「サビルもお世話になったみたいだし、師匠としては無事か確認してあげないとね」
「伝えたのは僕だからね。何かあっても責任は取るよ。シュリスちゃんは僕が守るから安心して」
ラルクスとエルメリーゼはいいとして、片目を瞑ったリーバルにゼルエダは複雑そうに顔を歪め、シュリスは苦笑を浮かべた。
けれど三人が来てくれるなら心強い。この数ヶ月の修行で、シュリスとゼルエダは充分以上に強くなった。アルレクで賢者の修行を終えた勇者のレベルよりも、今の二人のレベルは高いのだ。修行の過程で出来上がった大量の魔法薬もある。仮に魔族が待ち受けていたとしても、充分に対抗出来るだろう。
そんな目算を付けつつ準備を整え、シュリスたちは大神殿へ戻ったが、結論から言えば杞憂に終わった。
帰って来るようリーバルに伝えたフィデスは本物だったし、その伝言内容にも何一つ嘘はなかった。
「シュリス、ゼルエダ! 二人とも無事で良かった!」
「ダービエ様こそ、ご無事で何よりです。サビルさんも、怪我はもう大丈夫なんですか?」
「ああ、私たちは大丈夫だ。これもシュリスのおかげだよ」
「ゼルエダもよくやった。お前がいなきゃ、我々は死んでただろう」
「師匠……はい、ありがとうございます」
ダービエやサビルたちとおよそ半年ぶりに再会を果たし、シュリスとゼルエダは心から安堵する。喜びの声を交わすシュリスたちを、エルメリーゼたちが温かい目で見守っていた。
「早速だけれど、クラール様がお待ちだから移動しようか」
フィデスに促され、シュリスたちは大神官の執務室へ向かう。その道すがら、フィデスはシュリスたちがいない間の出来事を語って聞かせた。
セアトロを倒し、シュリスたちが逃げ出した後。騒ぎを聞きつけたフィデスも、そう間を置かずに駆けつけていた。そうしてクラールの保護を最優先に、傷ついたダービエやサビルたちも殺されないよう手を回した。
ただ、彼らが目を覚ますまではかなりの時間を要した。長期に渡り瘴気を浴び続けたクラールはもちろん、ダービエたちも戦闘の過程でセアトロの濃密な瘴気に触れたために一ヶ月近く眠ったままだった。
彼らがようやく目覚めた事で、セアトロが魔族だったと証言が出て事態は動き出した。結局セアトロの補佐は、魅了の魔法にかけられていたらしい。かなり複雑なもので解呪に時間はかかったが、サビルがどうにかそれを成した。
他にも神殿内部には、同じく魅了をかけられていた者と、彼らに唆されて魔族信仰に落ちてしまった者とがいた。その数はかなりのものだったため、最終的にクラールが動けるようになり、神殿全体を掌握するまでこれだけの時間がかかってしまったのだとフィデスは話す。
すると黙って話を聞いていたラルクスとエルメリーゼが、困惑したように眉根を寄せた。
「魅了が残ってたわけか……。大神官に化けてた魔族が死んだ場所、後で見せてもらえないか」
「ええ、後ほどご案内しますよ」
「解呪の方法も後で教えてね、サビル」
「はい、分かりました」
彼らの話も気になるが、今はクラールから生贄の事を聞きたい。シュリスとゼルエダは緊張した面持ちで、執務室へ足を踏み入れた。
「よく来てくれたな。君たちのおかげで助かった。礼を言うよ」
あれほどやつれていた老人と同一人物とは思えないほど、クラールはしっかりと背筋を伸ばしてシュリスたちを迎え入れた。
未だ痩せてはいるが顔色は良く、長い髭も艶やかだ。傍らにはクラールの補佐もいて、元気そうだった。
賢者まで同行していると知っても、さすが大神官というべきかクラールに動揺は全く見られない。シュリスたちを保護した事に真っ直ぐに感謝を述べると、クラールは皆に茶を勧めた。
「まずゼルエダには詫びなければならない。サビルたちにはすでに話したんだがの。神殿がお主たちを集めていたのには、裏の理由があってな」
「……生贄のことですよね」
「シュリスから聞いていたかのう。その通りだが、それもまたセアトロの偽りだった。とはいえ、全てが嘘ではないのだが」
「どこまでが本当だったんですか?」
ゼルエダが慎重に問いかけると、クラールは意味ありげな目でシュリスたちを見つめた。
「お主らは無関係ではないからのう。全てを聞いてもらったほうが早い」
――髪と瞳に夜を宿す者、神が落とした乙女と手を取り合い、魔の王に真の眠りを与えるだろう。森の子の導きに従い約束の地へ向かえ。さすれば天は安らぎ精霊は謳い、全ての生命は光を取り戻す。清浄なる大地は安息の時を迎えん――
「これが本当の神託だ。逆に言えば、これ以外の神託はなかったのだよ」
クラールは厳かに神託の内容を告げたが、そこに勇者や召喚という言葉は一切ない。どういう事なのかと、シュリスは戸惑い瞳を揺らした。




