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25:救出作戦

あっさりめの描写になってますが、一応流血注意です。




 月のない暗い夜。クラールを助け出すため、シュリスはゼルエダとダービエ、サビルと共に大神官の宿舎棟へ忍び込んだ。


 クラール救出作戦には、サビルの勧めで六十代の男性候補者と、髪色を偽っていた二十代の元女性候補者も加わった。

 魔法陣に詳しい六十代の彼は、偏屈ではあるが悪人ではない。クラールに再び危険が及ばないよう、用意した隠れ家に各種結界や隠蔽の魔法陣を施して欲しいと頼むと、嬉々として取り組んでくれた。今はそこでフィデスや元女性候補者と共に待機している。

 元女性候補者は大神殿の使用人として働いていたが、これからはクラールの隠れ家で世話係を勤める予定だ。祖国に帰れない所を神殿に置いてもらっている状態なため裏切る事はないだろうが、念のためサビルと魔法契約を結んでの抜擢だった。


 他にも、パガーノス神国までの旅路で一緒だった神殿騎士三名も協力者となっている。彼らが大神官の宿舎棟近辺の夜間警備についているから、助け出す際に人目を気にする必要もない。

 セアトロが不在の今夜中に、クラールとその補佐を宿舎棟から秘密裏に連れ出し、隠れ家へ案内する事になっていた。


「ダービエだ。開けてもらえるか」

「ダービエ様! お待ちしておりました!」


 ダービエがクラールの部屋をノックすると、小さいながらも感極まった声が響き、扉が開かれた。中から顔を出したのは、シュリスたちと同じ十代後半の青年だ。

 クラールの補佐である彼は、隠蔽の魔法を解いたシュリスたちを見るとホッとした様子で奥の寝室へ招き入れた。


「皆様が来て下さって、本当に助かりました。私だけではどうにも出来ず、このまま死ぬしかないのかと……」


 フィデス経由で、クラールの補佐からは事のあらましを聞いていた。


 二年ほど前。魔大陸から魔物が溢れ出し、魔大陸に最も近い島国バスティアン王国に危機が迫っていた頃だ。緊急の対策会議が開かれ、クラールは補佐と共に大神殿を離れていた。

 そして魔王復活直後と思われるこの時に、セアトロは神託を受けたと発表したのだが。クラールが帰還した時には、セアトロはすでに魔族となっていた。


 帰還したクラールはセアトロにいきなり攻撃を受けたものの、辛うじて一命を取り留めた。そうしてクラールは最後の力を振り絞り、逃げ込んだ自室に結界を張って倒れた。

 この時点でクラールの補佐には、誰が味方なのか分からなかった。ただ彼は、必死になってクラールの命を繋ぎ続けた。


「よくフィデスを信じてくれたね」

「あの日はクラール様の意識が僅かに戻っていまして。それでフィデス様は信じていいと教えて頂いたのです」


 味方の振りをして結界の外へ誘き出そうとするものは、これまで何度も現れた。青年は時に騙されそうになったが、時折意識を取り戻すクラールの助言を得て、どうにか二年の月日を耐えてきていた。

 これには、掃除当番が日替わりだった事も大きかった。彼らに食料や必要物資を届けてもらうよう直接頼むことで、ある程度安全な品を手に入れられたのだ。


 とはいえここ最近は、クラールの容体は悪化の一途を辿っており昏睡状態が続いていた。それが一時的にも復活したのは、シュリスが浄化魔法を使ったからだった。


「誰かが浄化魔法を使ってくれたおかげだと、クラール様は仰っておりました」

「それはたぶんシュリスだな。お手柄だよ」

「いえ……」


 話をしつつ向かった寝室では、クラールが静かに眠っていた。その顔は青白く痩せ細っており、とても危険な状態に見える。

 ダービエはすぐに浄化と治癒の魔法をかけるが、長く蝕まれたからか劇的な回復には至らないようだ。意識のないまま、クラールを連れ出す事となった。


「私がやるよ。少し退いてくれ」


 体が冷えないようにと、毛布でグルグル巻きにしたクラールの身体を、サビルが風魔法で浮かす。その間にシュリスとゼルエダは、クラールと補佐の私物を魔法の鞄(マギアバッグ)に詰め込む。

 マギアバッグは、収納空間を広げる特殊な魔法陣を組み込んだ鞄の事だ。見た目の大きさより何倍もの品を入れる事が出来る。かなり高価な代物だが、神官たちにとっては身近なものだった。


 そうして準備を整えたシュリスたちは、静かに部屋を出たのだが。


「ああ、やっと出てきたか」

「セアトロ……!」


 宿舎棟から出た所で、出かけていたはずのセアトロが暗闇から姿を現した。大神官のローブを身に纏い穏やかな微笑みを浮かべているが、その目だけは底冷えするような鋭いものだ。

 その上、周囲には濃厚な血の臭いが漂っている。よく目を凝らせば、セアトロが宿舎に近づくのを止めようとしたのだろう。三人の神殿騎士たちが倒れ伏していた。


「候補者が二人、か。残念だよ。君たちの実力を最後まで計れなくて」


 ダービエが防御結界を張ろうとするも、セアトロの方が早かった。前振りもなく瞬時に魔族へ変じたセアトロからブワリと威圧が放たれると共に、ダービエと補佐の体がその太い腕で薙ぎ払われる。

 宿舎棟の壁にめり込むように叩きつけられた二人に、シュリスは悲鳴を上げた。


「ダービエ様!」

「クソッ! 逃げろ、ゼルエダ!」


 あまりに突然の攻撃に呆然としているゼルエダに、サビルはクラールの体を押しつけて飛び出した。シュリスはダービエたちを助けようと駆け出す。……だが。


「キャア!」

「シュリス!」


 サビルの放つ攻撃魔法とセアトロの魔法がぶつかり合い、生じた衝撃波にシュリスは吹き飛ばされる。

 クラールを抱えたまま、ゼルエダは慌ててシュリスの元へ走った。


「大丈夫? 怪我は?」

「私は平気。それより、みんなを助けな……」

「グアァァァ!」


 シュリスの返事は、悲痛な叫びに遮られた。助け起こされたシュリスの目に、信じられない光景が飛び込んでくる。

 元魔導士長のサビルなら、きっとセアトロを押さえられると思っていたのだ。けれどそのサビルが、血だらけになってセアトロの手にぶら下がっていた。


「なんだ、こんなものか」

「ゼル、エダ……逃げ、」

「そう心配するな。一人残らず私が食ってやるから」


 ギョロリとした大きな目が、酷薄に細められる。そうして見せつけるように、耳まで裂けるような大きな口をセアトロが開いた。


「ヤメロォォォ!」

「ゼルエダ!」


 シュリスが止める間もなく、クラールを残してゼルエダが飛び出していく。それを見てニヤリと笑い、セアトロはサビルを空へ放り投げた。


「師匠!」

「ゼルエダ、逃げて!」

「……っ!」


 そのまま落ちれば、サビルは地面に叩きつけられて死んでしまうだろう。そちらに意識を向けたゼルエダに、セアトロは容赦なく攻撃を仕掛けていく。

 シュリスの叫びで間一髪、ゼルエダは攻撃を避け、落ちてきたサビルの体を風魔法で受け止めた。その様に、セアトロは面白いものでも見つけたかのように笑みを浮かべた。


「なかなか動きがいいな。それにそっちの娘も気が強いじゃないか」


 セアトロに視線を向けられ、シュリスの背に怖気が走る。スッとセアトロの手が上がり、指先から炎弾が放たれた。


「シュリス!」


 もうダメだと、シュリスは思った。けれどその直前、シュリスの前に何かが割り込み、覆い被さられた。


「ダービエ様……?」

「アァァァァ!」

「なっ……!」


 シュリスを庇ったダービエの背は焼け焦げており、返事はない。呆然とするシュリスの耳に、ゼルエダの叫び声が響き、辺り一体に閃光が走った。

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