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21:不快な気配

「初めてね、大神官様のお部屋なんて」

「静かになさい。クラール様は眠っておられるのよ。声が響くわ」


 監督役の女性神官に案内されて、同じ班の女性見習いたちと共に大神官の宿舎となっている棟へ入る。

 本殿と渡り廊下で繋がっている棟は二階建てで、使われている石材も本殿と同じものだ。真っ白な建屋は他のどの宿舎より洗練されていて、飾られている調度品も価値ある品だと素人目にも分かるような立派な物ばかり。広々とした廊下にはふわふわとした絨毯が敷かれており、どこの城かと思うほどで、はしゃいだ声を出してしまった同僚の気持ちも分かるというものだ。


 けれどシュリスには、豪華さよりどうにも気になる事があった。本殿を清掃していた時も薄らと感じる事はあったが、棟へ入ってからというもの不快な気配が体を包んでいるような気がしてならない。

 仲間たちはいつも通りで、自分だけ感じているようだから勘違いかともシュリスは思ったのだが。


(何なの、これ。だんだん酷くなってる?)


 大神官ともなると、一人当たりに割り振られる部屋数も多く、なかなかの広さになる。そのため各階層は二人ずつの区分けとなっており、この棟には最大四人まで住居可能となるが、今の大神官は二人しかいない。

 高齢の大神官クラールは一階手前の部屋に住んでおり、もう一人の神託を受けた大神官セアトロの住居は二階奥にある。

 シュリスたちは入り口や廊下、空き部屋の清掃を手分けして行い、最後にセアトロの部屋へシュリスたちは向かったのだが。シュリスは階段を上る毎に、より不快さが増してるように感じた。


(ダメだわ。気持ち悪い……)


 シュリスは聖女になれるだけの素質がある上に、治癒魔法の練習も積極的に行ってきた。一応見習い卒業まで期間は設けられているが、すでにその実力は教官となっていたフィデスと同等になっているし、召喚について調べる過程であまり知られていない神聖魔法の知識も得てしまった。

 それでも病気は治す事が出来ないのだが、不調を放置しておくわけにもいかない。何せ貴重な機会なのだ。こんな所で足を止めるわけにはいかなかった。


「聖なる光よ、風となりて淀みを払え――サントルオ」


 一か八かという思いで呪文を呟き、シュリスは神聖魔法の一つである浄化魔法を放つ。フワッと一瞬だけ温かな風が吹いて、シュリスはホッと息を吐いた。

 アルレクでも聖女シュリスが使っていたこの魔法は、本来は魔物の発生源となる瘴気を払うためのものだ。けれどゲームでは状態異常を回復させる魔法として使われていたため、シュリスは試しに使ってみたのだった。


(良かった、効いて。だいぶ楽になったわね)


 一定の空間を丸ごと浄化してしまうこの魔法は、消費魔力が大きく難易度も高いため、ある程度修練を積まないと使えない。毒に対してはもっと簡単に使える魔法が別にあるから、こんな使い方をするのはシュリスだけだろう。

 それに見習いのシュリスが使えるとは誰も思わなかったようで、仲間たちは一瞬だけ不思議そうにしたものの特に何も言わなかった。


(緊張でもしてたのかしら。変なの)


 自分でもなぜ不調になっていたのか原因は分からないが、問題なく動けるようにはなった。先ほどまで感じていた不快な気配もなくなったため、シュリスは班の仲間と一緒にセアトロの部屋へ入り掃除をする。

 書類をしまってありそうな棚を覚えて、さりげなく窓の鍵を開けておく。部屋は二階だけれど、庭の木が近くにあるし外壁も装飾が多く足場に出来る場所が多そうだ。夜にこっそり登って忍び込めるだろう。




 そうして全ての準備を終えて、迎えた深夜。シュリスは誰にも気付かれないよう、人目を盗んで部屋を抜け出した。

 ほとんどの者が寝ている時間帯だが、夜番の神殿騎士は見回りをしている。彼らに気付かれないよう明かりは持たず、所々にある庭園灯と月明かりだけを頼りにシュリスは歩く。

 本殿の裏手を抜ければ大神官の宿舎棟だ。慎重に周囲を確認して、小道を外れて庭へ足を踏み入れたのだが。


「シュリス、何してるの?」

「えっ、ゼルエダ⁉︎ 何でここに⁉︎」

「僕は走ってたんだ。眠れなくて」


 シュリスと仲直りをした事で未練を感じ始めて以降、ゼルエダは不眠に悩む日が多くなっていた。激しい訓練に身を投じ疲れ切って眠るようにしているが、大神殿で他の候補者たちと出会ってからは、自分が生贄に選ばれる確率が高い事も自覚してしまった。

 結局眠っても悪夢に襲われるため夜中に目が覚める事も多く、そんな日にはこうして体を動かしに外へ出ていたのだ。見回りの騎士たちに見咎められても面倒なため、魔法で気配を消して動くという念の入れようだ。そのためシュリスも、近付かれるまで全く分からなかったのだった。


「それでシュリスは、どこに行こうとしてたの?」

「あの、えっと……」

「そっちは大神官様の宿舎だよね? こんな時間に裏から近づくなんて……まさかと思うけど、忍び込むつもりだった?」


 どうにかして誤魔化そうとシュリスは思ったが、ほとんど見抜かれてしまっている。シュリスは観念して、ゼルエダを見つめた。

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