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20:方法を探して

 四十代の候補者はサビルという名の男で、祖国では魔導士長をしていたという。自尊心が強いが、それに見合うだけの実力も充分あり様々な魔法に精通している。

 魔物討伐は慣れたものだし、協力戦ではあるが魔族の討伐経験まであるらしい。十代の頃に一年ほど賢者に弟子入りした事もあると聞いて、シュリスはだからかと納得した。


 ここ百年ほどの間に便利な魔法を次々に作り出し、魔法界の常識を覆してしまった年齢不詳の賢者はアルレクにも出てくる。メインストーリーで必ず仲間になるツンデレ賢者、エルメリーゼの事だ。

 彼女に弟子がいたという記憶はないけれど、裏設定でそういった話があってもおかしくない。シュリスが思い出した記憶は完璧とはいえないし、抜けてるだけなのかもしれないから。


 そんな自称賢者の弟子で元魔導士長のサビルからしても、ゼルエダの魔法センスはかなりのものだったようだ。

 普段は他者を寄せつせず厳しい雰囲気を持っており、シュリスに対しても当たりがキツいのだが。ゼルエダを弟子のように扱い、自らの知識を惜しむ事なく教えている。


 そしてゼルエダも、サビルを師匠と慕うようになっていた。ゼルエダからすれば、自分と同じ黒髪黒目の人物で親身になってくれる相手だ。心を許して当然だろう。

 六十代のもう一人の事は考えない。研究熱心な彼もゼルエダの魔法センスに惹かれるものがあったのかよく絡んでいるが、あまりに偏屈過ぎて一方的なため、ゼルエダも対処に困っていたから。


 ただサビルが優秀なのは、あくまで魔法の腕だけだ。実績は充分で力もあるから、このままでも混成軍へ参加すればかなりの戦力にはなるだろうが。

 アルレクの勇者は、剣も魔法も一流の万能型(オールラウンダー)だった。生贄とするためには、召喚される勇者と等価になる必要があるため、剣術などの技能も上げなくてはならない。

 これがサビルには決定的に不足しているのだ。選ばれるのはゼルエダでほぼ確定だろう。


 サビルとゼルエダは二人揃って訓練に励んでいるが、たまにシュリスが顔を出すと体力の尽きたサビルは大抵倒れているのだ。これでは剣技を身に付ける以前の問題だ。

 そんなサビルを時にシュリスは介抱したりもするが、自尊心が傷付くのかとても嫌がられる。八つ当たり気味に罵られる事もあり、ゼルエダが懐いている相手だとしてもシュリスにとっては付き合い難い相手だった。


 他の候補者たちがこんな有様だから、すぐにでもゼルエダが選ばれそうなものだが。幸いというべきか、まだゼルエダも生贄の基準に達していないようで、訓練は続いている。

 アルレク通りに現実も進むなら、じっくりとゼルエダを育てた上で生贄に捧げる事になるのだろう。


 となれば、シュリスはその時までに確実に召喚の儀式を止められるようにならなければいけない。

 見習いの勉強に励みつつ書庫で調べも進めているが、残念ながら大神殿へ来て半年が経っても全く手応えがない。ダービエとフィデスを始め、顔見知りになった神官たちからもそれとなく詳細を聞き出しているものの、より詳しく知りたいなら大神官に聞く他ないだろう。


 けれど一介の神官見習いの身では大神官と会う事すら難しい。

 どうすべきかとシュリスは悩んだが、意外にも解決法はそう遠くないうちに向こうからやって来た。


「大神官様のお部屋を、ですか?」

「ええ、そうよ。取扱いを気を付けなくてはならない物も多いんだけど、シュリスももうここの掃除には慣れたでしょう? だからあなたも今日から当番に加わってね」


 神官見習いの仕事には、宿舎や本殿の清掃が含まれている。大神殿には使用人もいるのだが、神聖な場を美しく保つのは神官と神官見習いの領分だからだ。

 ゲームの知識があるシュリスからすると因果関係は一切感じられないのだが、神に仕える神官自ら場を清める事で神への敬意を示すと、神聖な治癒の力も上がるとされていた。


 だからシュリスも、他の見習いたちと持ち回りで各所を清掃する仕事があるのだが。半年経って慣れてきたからか、これまで一度も入った事のない大神官の部屋がある棟の清掃当番が回ってきた。

 高齢の大神官は未だ寝たきりで、そちらの部屋に立ち入る事は出来ないが。神託を下したもう一人の部屋には入る事が出来る。


 ただ残念な事に、それでも本人に会う事は出来ない。

 魔王軍と戦う混成軍は奮戦を続けているものの、その戦線は少しずつ下がってきている。これに今後どう対応するかを話し合うべく、各国代表者が集まって会議開く事になったため、大神官は出かけている最中だった。


 けれど直接聞けなくても、部屋になら召喚に関する詳しい書類があるかもしれない。

 清掃は班ごとに行われるため、さすがに掃除途中に調べる事は出来ないが、目星だけ付けておいて後から忍び込めばいい。部屋の主人が不在なのは、ある意味好機とも思えた。

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