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19:見習い生活と候補者たち

 大神殿での新しい生活は、シュリスにとって忙しいものとなった。見習いの勉強や仕事の合間に敷地内をくまなく歩き、逃走経路を何通りも組み立てていく。

 ゼルエダの協力を得られれば飛翔魔法で飛ぶ事も出来るだろうが、シュリスを抱えてはいくら何でも長距離は無理だろう。出入りの商人や礼拝に訪れた人々にさり気なく聞き込みもして、近隣の町や隣国へ抜ける方法まで探る必要があった。


 神殿の総本山だけあって、大神殿には巨大な書庫もある。そこにもシュリスは足繁く通い、召喚の儀式や生贄、勇者について情報がないか調べを進めていく。

 大神殿の歴史は古く、それに比例するように書庫の収蔵数もかなりのものだったが、シュリスはある程度目星を付けると見逃しのないようじっくりと腰を据えて取り組んでいった。


 というのも、旅の間に修練を頑張ったおかげでシュリスの神官見習いとしての技量は上がっていたが、見習いを卒業するのは早くても一年後になるとダービエに言われていたからだ。

 神官たちは基本的に実力で昇格する事になっているが、ある程度年功序列もある。その上、シュリスには聖女となれるだけの素質があるため、常人なら数年はかかる見習いの内容を異常な速度で習得している。あまりに早く昇格してしまうと、いらぬ嫉妬を買いかねなかった。


 けれどこの話はシュリスにとっては朗報だ。体の成長具合から、召喚が行われるまではまだしばらく時間があるとは思っていたが、これまで明確な時期は分からなかった。それが、一年以上は余裕があると分かったのだから。


 アルレクで聖女シュリスは、幼馴染の戦死報告を受けてガルニ村を旅立っている。生贄とするため早めに死んだ事にされていたとしても、大神殿到着まで半年かかる。

 幼馴染の移動と聖女シュリスの移動で計一年。そして見習いを卒業するまで最短で一年と考えると、アルレクの開始となる勇者召喚はシュリスが十六歳となる頃に行われるはずだ。


 さらにアルレクでのシュリスには聖女という称号が付いていたが、神殿の長い歴史を紐解いてもそんな称号は見つけられなかった。という事は、今後シュリスが何らかの功績を挙げる事で、新たに聖女という神官位が設けられるという事だ。

 最も可能性が高いのは、魔王軍との戦いで多くの人を救う事だろう。そう考えれば、アルレク開始はもっと後になるのかもしれない、とも思う。


 そんなわけで、シュリスは忙しくも順調に計画を進めていったのだが、残念ながら良い事ばかりともいえなかった。他の生贄候補者たちが、予想を遥かに上回っていたのだ。


 まず六十代の男性候補者は、祖国で魔法陣の研究に勤しんでいたらしい。神託に興味はなかったが、大神殿へ行くならまだ知られていない魔法陣に触れる機会があるかもと期待してやって来ていた。

 人生のほとんどを研究に捧げてきたからか、そんな彼の性格は偏屈で攻撃魔法一つ覚えようとしない。剣を振るうなんて以ての外で、神託を告げて連れて来たはずの神官たちも扱いに困るほどだ。そんな人物が生贄に選ばれる可能性は限りなく低く思えた。


 二十代の女性候補者は、同じ神官宿舎で寝泊まりしているためシュリスと早い段階で顔を合わせた。貴族の夫人だったからか高慢で尊大な性格で、初対面のシュリスをメイドのように使おうとしてきた。

 そんな彼女に他の神官見習いたちも迷惑を被っていたが、相手は神託で連れて来られた人物だ。無視する訳にもいかず、誰もが扱いに困っていた。


 実際、彼女は魔力をそれなりに持っており、攻撃魔法を次々に覚えていた。当初は到底戦えるはずもない優雅な夫人と思われていたが、彼女は元々貴族として何不自由ない生活を送ってきたため魔法を覚えていなかっただけなのだ。かなり期待出来ると神官たちも見ていた。

 ところがシュリスは早い段階で頭を抱える事になった。偶然とはいえ、彼女の抱える秘密を知ってしまったからだった。


 最初に気付いたのは、彼女から漂う独特な香りだった。香水で誤魔化されているものの、田舎暮らしのシュリスにはどうにも覚えのあるもので無視出来なかった。

 そこでシュリスは彼女の我儘を聞くついでに部屋をさり気なく探った。そして、その香りの元である毛染めの薬を発見してしまった。


 大神殿にいる神官や神官見習いの多くは、幼い頃に素質を見出されて神殿暮らしをしてきた者たちだ。だからこの独特な毛染めの香りに気づかなかったのだろう。

 だがシュリスは田舎の小さな村で暮らしてきた。ガルニ村では自給自足が基本だが、オシャレとして各家庭で毛皮に色付けしたりもする。そこで使われていた染料と同じ物が、彼女の部屋にあったのだ。元々彼女の瞳と髪色は焦茶だったため、瞳は光の加減だと誤魔化し髪は頻繁に染めていた。


 それを明かすべきかシュリスは迷ったが、結果的に他の神官見習いに気付かれ候補者から外された。

 神託の人物を出すという名誉に惹かれた祖国の王と夫の指示で偽っていたそうで、帰る場所がない彼女は神殿の下働きとして働く事になった。


 これで実質、候補者はゼルエダと四十代の男性の二人だけになってしまったのだが、このもう一人がまた癖のある人物だった。

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