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1:プロローグ

前作「ケンカップルじゃありませんから!」と同一世界での二百年後のお話です。

主人公カップルは全くの別人ですが、前作主人公カップルが物語後半に出てきます。前作を読んでなくても楽しめるようにしていく予定です。


固いタイトルですが甘々目指して書いていきますので、よろしくお願いします!

「はぁっ、はぁっ……」

(早く、早く行かなきゃ。急いで……!)


 村外れの森へ続く薄暗い夜道を、星明かりを頼りに一人の少女が懸命に走る。亜麻色の髪を揺らす少女シュリスは、村長の一人娘で十四歳になったばかりだ。


 慌てて家を出てきたためシュリスはランプを持っておらず、外套も羽織っていない。

 息を切らして走るシュリスにはかえって熱が籠らずにいいのかもしれないが、ここレカルド王国は年中穏やかな気候の国だとはいえ夜となれば肌寒くなる。幸いなのは、寝巻きではなく部屋着のワンピース姿だという事ぐらいだろう。


 とはいえ、こんな夜に若い娘が薄着で外にいるのは危険な事に変わりない。

 シュリスの住むガルニ村は国の辺境地にあるため滅多に人が訪れる事はなく、村中皆が顔見知りで不審者などいるはずもないが、村を一歩出れば魔物に遭遇する恐れがあるのだ。


 それなのにシュリスがこうまで急いでいるのは、今宵家に泊まっている二人の神官が原因だった。

 辺境の小さな村には旅人を泊める宿がないため、代わりに村長の家が一夜の宿を提供するのが常だ。彼らは神より下った御告げに従い、シュリスの大事な幼馴染を迎えに来たのだという。


 御告げでは、幼馴染のゼルエダが一年ほど前に復活した魔王討伐の鍵を握るとなっているそうで、話を聞いた村人たちは総出で送り出す事にした。

 しかし先程シュリスは、偶然にも神官たちの本当の目的を聞いてしまっていた。


(生贄なんて、有り得ない……!)


 神官がどういった戒律の元に暮らしているのかは知らないが、少しでも歓迎の意を示そうとした父の指示でシュリスは寝酒を届けに行こうとした。

 その時、扉越しに聞いた神官たちの話は信じられないものだった。魔王を倒す勇者を召喚するための贄。それがゼルエダだという。

 シュリスはゼルエダが好きだった。世界を救う勇者を呼ぶためだとしても、死にに行くのを黙って見送るなんて到底出来なかった。


「ゼルエダ! ゼルエダ、いる⁉︎ 私よ、開けて!」

「シュリス?」


 亡くなった養父の跡を継いで木こりをしているゼルエダは、今は一人で森のほとりに住んでいる。そこへ息を荒げてようやくたどり着くと、シュリスは勢いよく扉を叩いた。

 鬼気迫るシュリスの様子に、扉を開けたゼルエダは驚く。だから、いつもならこんな夜に二人きりになってしまう家へ入れたりしないのに、シュリスに肩を押されるままに家の中へ押し戻された。


「どうしたの、シュリス。村で何かあった?」

「今すぐ逃げるのよ、ゼルエダ」

「逃げる?」

「あの人たちと一緒に行っちゃダメ! 殺されるわ!」


 シュリスは必死に伝えた。このまま神官と共に行けば、生贄として神に捧げられてしまうのだと。

 けれどそれを聞いたゼルエダは、切なげに頭を振った。


「僕は、逃げないよ」

「どうして⁉︎」

「だって、勇者様を呼ぶのに僕が必要なんでしょう? それなら僕は行かなきゃ」

「死んじゃうのよ! 殺されるのよ!」

「分かってるよ。でもね、僕が逃げたって世界が滅んだら意味がない。それにこれは、僕が役に立てるチャンスなんだ」

「ゼルエダ……」

「僕が犠牲になることで、みんなを……君を守れるなら、僕は行くよ」


 黒曜石のように煌めくゼルエダの漆黒の瞳には、強い決意が宿っていた。それをシュリスは見てとって、止めるのは無理なのだと悟った。


「泣かないで、シュリス。いつだって僕の心は君と一緒だ」

「そんなこと、言われたって」

「ほら、帰ろう? きっと村長も心配してるよ。送るから」

「ゼルエダ……」


 しゃくり上げて泣くシュリスを、ゼルエダは一度ギュッと抱きしめた。けれど宥めるようにポンポンと頭を撫でると、シュリスが泣き止む前に外套を着せ掛け、その手を引いて歩き出す。

 シュリスはみっともなく泣きながらも、足を動かすしかなかった。


(どうしても無理なの? そんなのは嫌……)


 優しく、けれど力強くシュリスの手を引くゼルエダの温もりが、このままでは失われてしまう。せめてゼルエダの姿を少しでも目に焼き付けておきたいのに、止まらない涙でそれも叶わない。

 どうにも出来ないもどかしさが、シュリスの胸を焼く。それでも静かに歩き続けるゼルエダの背を見るうちに、シュリスの中で一つの決意が生まれた。


(やっぱり死なせたくない。たとえこれが()()()の裏設定だったとしても、その通りに流されるなんてごめんだわ。きっと何か方法があるはずよ。世界もゼルエダも、両方を救う方法が)


 もしシュリスが()()()シュリスだったら、こんな事は考えなかっただろう。

 けれど、シュリスには前世の記憶があった。だからシュリスは、運命に抗う事を決めた。



本日この後もう一話投稿して、明日以降は毎日一話ずつの投稿となります。

体調不良等でお休みする場合は活動報告などでご連絡しますので、どうぞよろしくお願いします!

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