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第6話 禁煙とコーラと子沢山

Side:ヘビースモーカー


「ふぅ、食後の一服うめぇ」

「先輩、ヤニ臭い服で会社に戻ったら、白い目で見られますよ」

「そんな時の為の消臭スプレーだ」


 俺は今、定食屋で昼飯を食べて一服したところだ。

 仕事の合間の一服も美味いけど、食後は格別だ。


 だがよ、とうとう禁煙の波が押し寄せて来た。

 社内全面禁煙。

 おまけに禁煙奨励だって、治療の金まで出すそうだ。


 社内での愛煙家は白い目で見られる。

 ちくしょうコーヒーは良くって、何故タバコは駄目なんだ。

 こっそり社内で電子タバコなんかを吸っている奴もいるが、やっぱり紙巻きタバコでないと。


 俺は仕事を終えて、アパートに帰り目一杯タバコを吸いまくった。


 コーラを飲もうと冷蔵庫から出してマグカップに注いだ。

 あれっ、マグに注いだコーラがない。


 やばい、タバコの吸い過ぎで幻覚が見えるようになったのか。


「この薬はなんだ」


 おまけに女性の声まで聞こえる。

 大麻を吸った訳ではないんだがな。

 俺は法律は守る男だ。


「それにこの煙」

「タバコの煙に何か文句があるってのか。俺の部屋でいくら吸おうがお前には関係ない」


 社内の禁煙ムードにイライラきていた俺は思わずそう言ってしまった。


「嫌、あるね。今、作っているポーションの品質に影響が出たらどうするつもりだ」

「そんなの知らん」

「ほう、特級錬金術師である私に喧嘩を売るとは命知らずだな」

「やるなら掛かって来い」

「言ったな」


 マグカップから煙が出て来た。

 俺はとっさに鼻と口を押えたが幾分吸い込んでしまった。


「げほげほ」

「どうだ参ったか」


 ヤニの匂いがたまらなく嫌になった。

 窓を全開にして、扇風機を掛ける。

 急いで歯を磨き、部屋の隅々に消臭スプレーを掛けまくった。

 ポケットにあるタバコを机の引き出しにいれて鍵を掛けて、灰皿をベランダに出すとなんとなく落ち着いた。

 酷い目にあった。


 タバコの匂いが嫌いになる薬を嗅がせやがって。


「どうだね、患者君。私の治療でも受けてみるかね」

「この野郎、元に戻せよ。タバコが吸えなくなったら俺は何を楽しみに生きていけば良いんだ」

「ふむ、重症だな。酒に溺れる奴を見た事があるが、タバコに溺れる奴がいるとは」

「知った事か。体に悪いとは知っているが、辞められない」

「なるほど、中毒症状か。興味深い」


 幽霊だか、化け物だかに興味を持たれてしまった。

 この状況は不味いんじゃないか。


「とにかく治療はお断りだ」


 俺は治療を断って、マグカップを厳重に封をした。

 そして、しまい込んだ。


 ヤニの匂いが気になる症状は一日で治った。


「ねぇ、私と結婚したらタバコは辞めてよね」

「うーん、それは勘弁してほしい。ベランダで吸うからさ」


 俺と彼女の結婚は秒読みに入っていた。

 彼女の為ならタバコを辞めても良い。

 そこまで思ってた。


「約束よ。必ずベランダで吸ってね」

「ああ、約束する」


 そして、彼女が交通事故に遭った。

 酒を断って願い事をするという話を聞いた事がある。

 俺はタバコを断って彼女の回復を願った。


 俺はふとマグカップの事を思い出した。

 マグカップを前にして俺は懇願した。


「先生、俺が悪かった」

「誰かと思えば君か。不摂生が祟ったかね」

「そうじゃない。救って欲しい人がいるんだ」

「状況を知らせたまえ」

「怪我で良くないんだ」

「ふむ、なんだ。普通の回復ポーションか。面白くない。待てよ、あれを使おう」


 カップに満ちた液体は気の抜けたコーラだった。


「馬鹿にしているのか」

「いやまじめだ。怪我人にそれを飲ませたらいい」


 コーラなら体に悪くない。

 駄目元で飲ませてみよう。


 俺は彼女が入院している病院に行き、口移しでコーラを飲ませた。


「ここは」

「気がついたんだね。ここは病院だ。車にはねられたんだよ」


 あんな薬で効くのだな。

 俺はある決意を胸に部屋に帰った。


「ありがとう。彼女は助かりそうだ」

「そうだろ。私の作るポーションは凄いんだ」


「話がある。一生タバコを吸えなくなる体にしてくれ」

「よろしい。治療を受けたいというのだね」

「ああ」


「ではお代として最初に貰った薬を頂こう」

「えーと、コーラか。あれは薬じゃない飲み物だ」


「いや薬だね。含まれている魔力を抜きにしても薬効がある。鑑定は嘘を付かない」


 俺はコーラをマグカップに注いでやった。


「ふむ、お代は十分だ。手始めにこれを飲みたまえ」


 マグカップが青色の液体で満たされた。

 俺は死んでも良い気分で飲んだ。


 ぐぇ、苦しい。

 息が出来ない。

 黒いタールのような物を吐き出して、呼吸が楽になった。


「げほげほ。酷い目にあった」

「ふむ、火事で黒煙を吸い込んだ人用の、肺を綺麗にするポーションだったが、タバコにも効くのだな。お次はこれだ」


 次の薬を飲んだが体に異常はない。


「今飲んだのは何だ?」

「中毒症状を抑えるポーションだ。元はアルコール中毒用だが。ほれ次だ」

「今度は?」

「秘密だ」


 一瞬にやにや笑いの顔が浮かんだ。

 なんとなく癪に障ったので、提案してみる事にした。


「それで相談だが、肺を綺麗にする薬と中毒症状の薬を大量に作れるか」

「良かろう、同量のコーラと引き換えに手を打とう」


 俺は薬を製薬会社に持ち込んだ。

 薬の成分を分析したが作れないらしい。

 というより薬効がない。

 つまり薬じゃない。


 俺の副業は上手くいった。

 生産量は一ヶ月で100人分ぐらいだがな。

 製薬会社は一つ100万でそれを売っている。


 そして、俺と結婚した妻が妊娠、出産した。

 驚いた事に三つ子だった。

 副業が無ければ懐は火の車だった。

 錬金術師の彼女に感謝だ。


「おい、このポーションを飲め」

「今度は何の薬だ」

「肥満を解消するポーションだ」

「それなら危険はないか」


 俺はマグカップの薬を飲んだ。

 汗が出てきてみるみる脂肪が落ちていく。

 くそう、腹が減った。

 今なら靴底でも食える。

 冷蔵庫の物を食いまくってそれでも足りなくて宅配ピザを何枚も食う羽目になった。


「この薬は失敗だ。リバウンドする」

「うむ、動物実験と同じ結果だな」

「分かっていたなら、俺を実験台にするな」


 そんなこんなで俺は実験台になり、出来た薬を製薬会社に売っている

 子供は更に増えて結婚四年目で10人になっている。

 なんでだろうな。


Side:錬金術師


 私は下級錬金術師。

 ポーションを作るのを、もっぱらのなりわいにしている。

 ある日、空のビーカーに液体が満ちた。

 そして調合室に煙が充満した。


 鑑定を発動させる。

 気分を高揚させる薬だった。

 そればかりでなく魔力を大量に含んでいる。


「この薬はなんだ。それにこの煙」

「タバコの煙に何か文句があるってのか。俺の部屋でいくら吸おうがお前には関係ない」


 返答があった。

 このビーカーが転移の魔道具と化してしまったらしい。

 珍しい現象だが有り得ない事ではない。


「嫌、あるね。今、作っているポーションの品質に影響が出たらどうするつもりだ」


 私はとりあえずクレームをつけた。

 ポーションが駄目になれば、今月の家賃もままならん。


「そんなの知らん」

「ほう、特級錬金術師である私に喧嘩を売るとは命知らずだな」


 特級ではないが、誇張した。


「やるなら掛かって来い」

「言ったな」


 安いポーションで嫌がらせ用のはこれだな。

 嗅覚強化ポーション。

 それを熱する魔法で気化して送る。


 男なんて大抵、汗臭い。

 自分の体臭で困るが良い。


「げほげほ」

「どうだ参ったか」


 返答がない。

 今頃、自分の体臭に悶えているはずだ。


「どうだね、患者君。私の治療でも受けてみるかね」


 体臭予防のポーションは安い材料で作れる。

 高く売りつけてやろう。


「この野郎、元に戻せよ。タバコが吸えなくなったら俺は何を楽しみに生きていけば良いんだ」


 この国ではタバコを吸うのは富裕層だ。

 タバコの値段が高いからな。

 それにしても生きていけないとは。


「ふむ、重症だな。酒に溺れる奴を見た事があるが、タバコに溺れる奴がいるとは」

「知った事か。体に悪いとは知っているが、辞められない」

「なるほど、中毒症状か。興味深い」


「とにかく治療はお断りだ」


 治療を断られビーカーからは声が聞こえなくなった。

 数か月後。


「先生、俺が悪かった」


 うやうやしい口調。

 とっても気にいった。


「誰かと思えば君か。不摂生が祟ったかね」

「そうじゃない。救って欲しい人がいるんだ」

「状況を知らせたまえ」

「怪我で良くないんだ」

「ふむ、なんだ。普通の回復ポーションか。面白くない。待てよ、あれを使おう」


 送られて来た魔力のこもった薬でポーションを作ったんだった。

 それをビーカーに注ぐ。

 このポーションは最上級だと自負している。

 いるが、実験はまだだ。


「馬鹿にしているのか」


 ふん、嫌なら飲まなければ良い。


「いやまじめだ。怪我人にそれを飲ませたらいい」


 しばらくして。


「ありがとう。彼女は助かりそうだ」

「そうだろ。私の作るポーションは凄いんだ」


「話がある。一生タバコを吸えなくなる体にしてくれ」

「よろしい。治療を受けたいというのだね」


 ふひひ、良い実験体が出来た。


「ああ」

「ではお代として最初に貰った薬を頂こう」

「えーと、コーラか。あれは薬じゃない飲み物だ」


「いや薬だね。含まれている魔力を抜きにしても薬効がある。鑑定は嘘を付かない」


 魔力が充填された薬が届いた。

 これでまた最高級ポーションが作れる。


「ふむ、お代は十分だ。手始めにこれを飲みたまえ」

「げほげほ。酷い目にあった」

「ふむ、火事で黒煙を吸い込んだ人用の、肺を綺麗にするポーションだったが、タバコにも効くのだな。お次はこれだ」


「今飲んだのは何だ?」

「中毒症状を抑えるポーションだ。元はアルコール中毒用だが。ほれ次だ」

「今度は?」


 飲ませたのは貴族から注文があった妊娠させやすくするポーションだ。

 子供はタバコの匂いを嫌がると聞いた事がある。

 こいつも子供が出来ればタバコを辞めるだろう。


「秘密だ」


「それで相談だが、肺を綺麗にする薬と中毒症状の薬を大量に作れるか」

「良かろう、同量のコーラと引き換えに手を打とう」


 金の生る木がやってきた。

 再高級ポーション作り放題になるとは、あのコーラという薬の価値を分かっていないんだろうな。

 そして、私はモルモットとしてこの男を使っている。

 たまに子沢山のポーションを飲ませているのはご愛敬だ。


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