4# 弟を『お姉ちゃん』と呼ぶのはやっぱり変よね?
注意: 4話は作中で一番ダークな部分です。次からはもうこんなにシリアスな展開はほとんどないはずです。
その後医者に七李お姉ちゃんの(乗っ取っている)身体の検査を行ってもらった。
結果としてどうやら心配するような傷はないようなので、実は今日退院させてもらってもいいようだけど、やっぱり脳の検査も必要なので入院がもう2日間続くということになった。
脳の検査の結果も特に変なところは見つからないみたいだけど、この子自身のことは何も覚えていないのは本当のようだ。つまり、この子の脳の中は完全にお姉ちゃんの記憶ばかりになっている。
こういうことだから、結局この子の正体についてはわかる術がなく今でもまだ謎のまま。
この子の家族には悪いかもしれないけど、これはあたしにとって都合がいいからもうこのままうちの子にしていいよ……と思っていたけど、やっぱり何の検索もしないのは駄目みたい。
だから少なくとも警察に連絡して、子供を探している人がいないかと調べてみたんだけれど、未だにまだ見つかっていないそうだ。
結果から言うと……、やっぱりまだ何もわからない。だけどやっぱりそれがいいよ!
もちろん、見つからなければそれでいいと、あたしが思っている。むしろ見つからないで欲しい。
この子の親が見つからないので、今のところうちで預かることになった。やったね!
罪悪感を抱いていながらも、やっぱりあたしは今心から喜んでいる。
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2日後、月曜日だけどやっぱりあたしはまだ七李お姉ちゃんのことで頭いっぱいだから、学校に行く気はない。お父さんもわかってくれたようだから一日学校休むということになった。
お姉ちゃんも今日退院できたけど、家へ帰る前に今まず先に行くところがある。
「しくしく……。まさか自分の葬式に参加するということになるとは……」
泣きながらお姉ちゃんはそうぼそぼそと呟いた。そう、今はお姉ちゃんの葬式の中。
なんで葬式? だって、お姉ちゃんの意識はこの子の体に残っていても、体はもう……。だからどう足掻いてもお姉ちゃんはもう亡くなったという実は変えられない。身体も火葬されるって。
「お姉ちゃん、実は辛いなら来ない方がいいのでは……」
こんなお姉ちゃんの様子を見るとあたしも辛いよ。
「大丈夫よ。ちゃんと自分の体を見送りたい」
あたしはお姉ちゃんの涙なんて今まで一度も見たことないけど、今は子供の体になって精神が弱くなった所為か、すごく涙脆い。
お姉ちゃんの体はもう見られないのはすごく悲しい。でももういいの。だってお姉ちゃんの意識はここに残っているのだからね。他の人には秘密にしているけど、あたしはよく知っているから。
「桃四ちゃん、こんばんは」
「叔母さん、来てくれてありがとうございます」
葬式に参加した親戚の叔母さんがあたしに話しかけてきた。
「この子は?」
「お姉ちゃんが命を懸けて助けた子です。でも記憶は失っているようです」
今のところこの子は『記憶喪失』だということにしている。これは半分嘘だけど。
「そんな……、なんか大変だね」
「はい、そうですよね」
「でも、さっき桃四ちゃんがこの子のことを『お姉ちゃん』って呼んだよね?」
「へ? きっと聞き間違いですよ……。えへへ」
さっきの会話聞こえられた? やっぱり、こんな姿では『お姉ちゃん』と呼び続けるのは不自然だと思われるよね。とりあえず今あたしは笑顔を作って誤魔化そうとした。
「この子の名前は?」
「自分の名前も覚えていないようです」
だからどう呼べばいいかわからなくて、今までずっと『お姉ちゃん』のまま。でもやっぱりこのままではいけないよね。
「桃四ちゃん、意外と元気そうね?」
「元気? あたしがですか?」
「何となくね。全然泣いてないようだし」
そういえばそうね。だってあたしはお姉ちゃんがまだ死んでいないとわかっているから、もう悲しんで泣き喚き続ける理由なんてどこにもない。
「あたしはもうすでにたくさん泣いたのですから」
「でもこの子がずっと泣いてたよね」
「そ、そうですね。あたしの代わりに泣いてくれてるようです」
実はお姉ちゃん本人だからね。自分で自分の葬式を見るなんて、どれくらい苦しいだろうね。あたしにはあまり想像できないかも。
「よしよし、もう泣かないで」
どうしたらいいか今のあたしにはよくわからないけど、とにかく泣いているお姉ちゃんを慰めないと。
例え意識はお姉ちゃんそのままだとしても身体は子供になって精神も若返ったようだ。だから今のお姉ちゃんはもう本当に子供みたい。弱くて可愛くて大切にして守ってあげたい。
こんな姿でもあたしのお姉ちゃんでいて欲しいけど、どうやらそういうわけにはいかないみたいね。
これからお姉ちゃんではなく、弟として扱った方がいいかもしれないよね。
今決めた。あたしはお姉ちゃんのお姉ちゃんになるよ。