23# いい加減にしないと脱ぐよ?
その後あたしたちはしばらく色々遊んだりお喋りしたりして、やっと夕飯を作る時間だ。
「やっぱり、すごく可愛いよ。ナナちゃん」
「うん、そうよ。似合ってるよ」
やっとナナちゃんが鈴ちゃんからもらった鬘とメイド服を着用した。今ロリメイドが台所でご飯を作り始めるところだ。
「二人共……、ジロジロ見ると動きにくいよ」
「あたしたちは見たいからナナちゃんに着させたのよ!」
「でも集中しにくいし」
「じゃ、あたしは手伝うよ」
「私も手伝う」
「いや、今もう手伝うなんて必要ないよ。オレ一人で十分」
「ナナちゃん、こんな格好でもまだ『オレ』か」
「わたし一人で十分……」
ナナちゃん、わざわざ言い直してくれたんだ。
「でも『オレっ娘』キャラもやっぱり萌かもね」
「うん、そうね〜」
最初はなんか変だと思っていたけど、よく考えてみればナナちゃんなら『オレっ娘』も悪くないね。
「二人共いい加減にしないとすぐこの服を脱ぐよ!」
「「はーい」」
こうやってあたしたち二人共台所から追い出された。まあいいか。料理を作る時に邪魔しては駄目だよね。
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「「いただきます」」
やっと夕飯完了。今あたしたち3人で食べ始めた。ちなみに、今日お父さんの帰りが遅いからご飯は3人分だけで十分。
「本当に美味しい!」
「やっぱりナナちゃんみたいなロリメイドの手料理は最高」
「いや、そんなの関係あるの? 大体今日作ったのも姉貴が毎日食べていたのとあまり変わらないと思うけど」
まあ、確かにナナくんの手料理はあたしが毎日食べているから。でもやっぱりこれは雰囲気の問題だよ。
「なんか懐かしい……」
「鈴ちゃん?」
なぜか瑞はいきなり黙って何か考え事をしている。
「いや、なんというか。やっぱり七李お姉ちゃんの料理と同じね」
「あ、そうね」
本人だから当然だよね。どうやら鈴ちゃんも七李お姉ちゃんの作った料理の味をちゃんと覚えているようだ。
「なんか不思議だよね。ナナくんって本当に色々七李お姉ちゃんと似ている」
「うん、本当に偶然だよね。あはは」
そうだよ。鈴ちゃん。これはただの偶然ね。別に同じ人物だとかそんなことはないよ?
「本当に偶然なの?」
「え? どういう意味?」
まさか鈴ちゃんナナくんの正体のことを疑っている?
「そもそも料理作れる小学生の男の子はほとんどいないはずよ。しかも七李お姉ちゃんとこんなに似ているなんて……」
「そう? じゃ、鈴ちゃんがどうしてだと思ってるの?」
「もしかして、ナナくんと七李お姉ちゃんは……」
鈴ちゃん、もしかしてこの2人が同じ人物だと気づいたの? いや、そんなことないよね?
「……昔どこかで会ったことがあるかもしれないね」
「は? あ、そうかもね」
なんかホッとした。まあ、常識で考えればそうだよね。さすがに『違う人の意識が乗っ取る』なんてそんな非常識なことは鈴ちゃんでも思いつかないよね。
「今記憶喪失だよね。でも以前会ったことがある可能性もある」
「まあ、確かにそうね。もしかしてお姉ちゃんから料理を勉強したとか?」
「そうよね。きっとナナくんは前から七李お姉ちゃんと知り合ってたのよね。こんな命懸けで救ったくらいなんだから」
「うん、そうかもね」
それは違うよ。そもそもお姉ちゃんとこの子は全然知り合っていない。本当にあの時たまたま偶然会っただけ。でも鈴ちゃんにそう考えさせておいた方がいいよね。
「もし七李お姉ちゃんと知り合いの人だったら、この子の本当の親を探す手がかりになるかもね」
「そ、それは……」
鈴ちゃん、まだこんなこと考えているのか。あたしは親を探すことなんてとっくに止めたよ。そもそも見つけたくないし。というより、むしろあたしの心の底から見つけたら困ると思っている。
「桃ちゃん……。そうか。やっぱり本当に探したくないよね」
「まあ……」
これがただのあたしの都合だとわかっているけど、やっぱりナナくんと分かれるなんて考えただけで嫌だよ。
「そうよね。親が見つかったらナナくんはもうここにいなくなるかもしれないよね」
「うん」
やっぱり、本当のことを鈴ちゃんに伝えた方がいいかな? このまま隠し続けていける自信がないかも。それに鈴ちゃんもお姉ちゃんがまだここにいるとわかったら喜ぶはずだ。これからよくナナくんと会うはずだ。でも鈴ちゃんはこの家の人じゃないから、本当にバラしていいのか? やっぱりそう簡単には……。
「でもナナくんは? 実は本当の親に会いたいとか思ってないの?」
「オ……わたしは……ううん、どうせ何も思い出せないから」
確かにこの子本人なら元の家族と会いたいはずだよね。でも今のナナくんは七李お姉ちゃんだから、元の家族とは無縁だよ。少なくともこの子の記憶は全然ここに残っていないようだ。
「そうか。ナナくん、今の生活に満足しているようだね」
「うん」
「あたしが毎日愛を注いであげているから」
「べ、別に、姉貴のおかげってわけじゃないんだからね」
「ナナちゃんのツンデレまた来たね〜」
「うるさい……」
ナナちゃん、照れてる。
「でも今こうやって鈴お姉ちゃんと出会えるのは嬉しいことだと思うよ」
「私もナナちゃんと会えて嬉しかったよ」
「鈴ちゃん、そう思っているのなら、元の家族のことはもういいんじゃないか」
「わかってるよ。もう……」
ナナくんをここに残していくことに罪悪感がないわけじゃないけど、やっぱりあたしは今の幸せを失いたくない。
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「じゃ、またね。桃ちゃん、ナナちゃん」
「鈴ちゃん、またね〜」
晩ご飯が終わった後、鈴ちゃんがあたしたちの家から出て、自分に家に帰る。
「鈴ちゃんも、随分ナナちゃんに懐いたね」
鈴ちゃんが帰った後、今はあたしとナナちゃん2人だけの会話。
「そうだね」
「ね、ナナちゃん、やっぱり鈴ちゃんに本当のこと言いたくない?」
「あたしの正体のこと?」
「うん、これからも鈴ちゃんはよくここに来るはずだし。一緒に出掛けることもあるでしょう」
「でも……やっぱり、いきなり言ってもね。簡単に信じてくれると思うの?」
「そうよね」
「もし本人が気づいたら、その時は真実言ってもいいけど、今自分で言うのは……」
「まあ、確かにそうね。わかった」
今鈴ちゃんは、ナナくんと七李お姉ちゃんが何か繋がりがあるかと疑っている。でもそれだけだ。同じ人物だという結論には、簡単に辿り着くわけがないと思う。
だからこのままでいいよね。でも本当に真実を伝える必要がある日が来たらその時はまた考えてもいい。




