22# ロリメイドさんの手作り料理はいかが?
「お邪魔します〜」
「ただいま」
今日は水曜日。放課後、一週間ぶり鈴ちゃんがあたしの家にやってきた。
「鈴お姉ちゃん、こんにちは」
ナナくん、鈴ちゃんを見てなんか喜んでいる。まだ学校に通っていないナナくんはこの一週間ずっと一人で家に残ってだらだらしていて、あたしとお父さん以外の人にあまり誰とも会っていないからかな。
「こんにちは、ナナくん〜」
鈴ちゃんは挨拶してすぐナナくんに抱きついてきた。この2人は先週一度だけ会ったばかりなのにこんなに仲がよくなったのよね。
それにしても、鈴ちゃんに抱かれたナナくんはなんか気分よくて全然抵抗感がない。あたしに抱かれた時とは随分反応が違う! やっぱり鈴ちゃんの方がいいの?
「桃ちゃん、嫉妬?」
「え? いや、別にこれくらい。あたしはナナくんと毎日抱き合っているよ」
あたしがドヤ顔で答えた。
「毎日抱かれたから飽きたんじゃない?」
「そ、そんなのことは……ないよね? ナナくん?」
あたしにそう訊かれると、ナナくんは答えずにそっぽを向いた。これ嘘だよね!? 毎日愛を注ぎすぎると却って逆効果なのか?
「それより、ナナくん、見て。私、いいもの持ってきたよ」
あたしを無視して、鈴ちゃんが勝手に話を進めた。まあいいか。その『いいもの』ってのは今日の本題だから。
「これは?」
鈴ちゃんが自分の持っている紙袋の中に手を入れて、中のものを取り出してナナくんに渡した。
「鬘?」
「うん、先週ナナくんがつけたのはコスプレ用の長い銀髪だったね。あれが可愛いけど、やっぱり不自然って感じだよね」
「そうよ。これを使ったら外に出掛けても問題ないね」
銀髪も可愛いけど、日本人にとっては珍しいから、これが本物の髪の毛ではなくただの鬘だとすぐバレてしまうよね。
今ナナくんに渡されたのは黒髪の鬘だった。ナナくんが元から持っている銀髪の鬘より短くて軽い。頭に被ってみたら長さは肩に当たるくらいだろう。
長い髪の方が好きだけど、長すぎると不便だしね。外に出掛ける時とかも、ご飯を作ったり家事をしたりする時とかも。
「いや、女装している時オレは外に出掛けるつもりはないけど」
「そんなのもったいないよ。せっかく可愛いのに」
「そうよ。ナナくんがこの鬘をつけたら絶対男だとバレないよ」
「そんなこと……」
それを聞いてナナくんは微妙な顔をした。
「自信持ってよ。女装しているナナくんはなんかすごく自然だよ。不思議なくらいにね。まるで女装慣れている人」
「うふふ。そうね」
鈴ちゃんのこの評価を聞いたらあたしはつい笑い出した。だって『女装慣れている』って、当然だよ。元々女の子だから。
「これはオレが喜ぶべきこと?」
確かに、普通の男の子にとってこれは喜べないことだよね。でもナナくんの場合は違うはずだ。
「もちろんよ。ナナくんだって実は女装したいでしょう?」
「は? べ、別に。オレってそう見えたの?」
「違うの? 先回私が女装したナナくんを見た時に、なんか抵抗感がなさすぎよね。むしろ燥いでいたように見えたよ」
「そ、それは……」
ナナくんが女装趣味だという事実は今更隠そうとしてももう後の祭りよ。最初は鈴ちゃんだってあたしが無理矢理ナナくんに女装させたと疑っていたけど、先週ナナくんの態度を見たらそんな疑いは綺麗さっぱり消え去ったよ。
「それとね……」
鈴ちゃんがもう一度紙袋の中に手を入れて、また何か持ち出した。
「この服?」
「どう? これを着てみてね」
そう、鬘の他に、ナナくんのために新しい服も買ってあげたよ。
「メイド服?」
「そうよ。以前言ったじゃないか」
だってナナちゃんのロリメイド姿を見てみたいからね。あたしは鈴ちゃんに相談してみたら、彼女もわくわくして積極的にメイド服を探して準備しておいた。よく協力したね。やっぱり持つべきものは同じ趣味を持つ親友だ〜。
「これは外に出る時着る服じゃないよね?」
「ナナくんがこれを着て外に出歩きたければ別にいいけど」
「いや、冗談じゃない」
「実はね、このメイド服、ナナくんが料理を作っている時に着て欲しいの」
「は? なんでだよ?」
「ロリメイドが心を込めて作った料理は特別に美味しくなるのよ」
可愛い女の子の手料理を食べたいのは当たり前のことだよね。
「大袈裟だ。それに本物の女の子じゃないし」
「本物じゃないから、それはそれで萌だよ!」
それに中身は本当に女の子だしね。それもなんかまた複雑な要素だ。
「姉貴、なんかキモい」
「どこがよ!?」
本物の女の子も萌だけど、『男の娘』も違う意味で萌だよね。最近こういうのは大人気だと聞いたよ。
「私もナナちゃんのメイド姿を見たいよ。ナナちゃんの料理も食べてみたいし」
「鈴お姉ちゃん、今日ここで晩ご飯を食べるの?」
「うん、だってナナくんが料理上手でしょう? 桃ちゃんが絶賛したよ」
「いや、そこまでは……」
ナナくん、褒められて照れているようだね。
「だから、今夜メイド服を着て、私に美味しいご飯を作ってね。お願い〜」
「料理のことはいいけど、メイド服とは関係ないし」
「せっかく買ってきたんだから。着てみて欲しいな」
「でも毎回料理を作る時はさすがに……」
「じゃ、私が一緒にいる時だけでいいよ」
「まあ、これくらいなら……」
「ありがとう。ナナくん、いい子ね〜」
鈴ちゃんはなんか調子に乗ってナナくんの頭を撫で撫でした。
「別に、鈴ちゃんがいない時でも……」
「いや、別に姉貴のためにこんな服を着るってわけじゃないんだからね」
ナナくん、ツンデレだ。素直じゃないね。これもこれで萌だけど。
「鈴ちゃんはこれからもよくここに来るつもりだよね? 今ナナくんはまだ学校に通っていないからすごく寂しかってるよ」
きっと寂しいよね。だから鈴ちゃんが今ここに来てくれてこんなに喜んでいる。
「そうよね。来年の4月までだよね」
「うん」
「わかった」
「毎日来てもいいよ」
「いや、毎日はさすがにね……。でも毎週なら……。今日みたいに水曜日もいいよね」
「うん、それでいい」
毎週の水曜日来るのはちょうどいいかもね。
「それと、土日一緒にどこかに出掛けてもいいよ」
「そうね。可愛い服を買うとか」
「うん、私ももっとナナちゃんに可愛い服を着せてみたいよね」
「じゃ、この日曜日」
「オッケー。決まりね」
鈴ちゃん、なんかまるで新しい着せ替え人形をもらったみたい。
「オレの意見も訊かずに勝手に……」
「ナナくん、行きたくないの?」
「でも男の子は買い物とか……」
「もちろん、女装させてもらうよ〜」
「やっぱりそう来るか。本当にオレは女装の姿で出掛けなければならないの?」
「嫌なの?」
「それは……。でもやっぱりオレ今は男だし。女の服なんてもう……」
多分、ナナくんにとって女装すること自体は嫌ってわけではない。ただ今の体では自信ないだけだよね。家の中ではあたしと鈴ちゃんしか見ていないから気楽できるけど、外に出れば恥ずかしいよね。
「ふん? 『今は』って? まるで昔は……」
「いや、何でもない」
ナナくん、そんな言い方だと昔が女だと疑われてしまうよね。鈴ちゃんもなんか勘がいいし。
「まあ、週末のお出掛けのことはさておき。とりあえず今日のナナくんはメイド服ね〜」
その後しばらく夕飯の時間まで、3人であたしの部屋で色々遊んだりお喋りしたりしていく。
ロリメイドの作る料理、今夜楽しみね〜。




