20# やっぱりうちの妹は可愛いよね?
「わー、可愛い」
その後ナナくんに女装させて、鈴ちゃんにその姿を晒した。今ナナくんが着ているのは可愛い薄紫色のワンピース。そして昨日と同じように長い銀髪の鬘を被っている。
「ほら、言った通りでしょう。うちの妹はすごく可愛い。えへへ〜」
「私はこの子を褒めてるの。別にあんたを褒めているわけじゃないし」
「だってナナくん……今はナナちゃんね。この子はあたしの自慢の妹だから」
あたしの妹がこんなに可愛いわけだ。
「まったく、弟を女装させるなんてとんでもない趣味ね」
「鈴ちゃんに言われたくない。今のは鈴ちゃんが見たいと言ったから女装させたんだよね」
「あれ、そうだったっけ? えへ〜」
「そうだったんだよ」
まあ、実際にあたしの趣味でもあるのよね。しかもナナくんも自分でやりたがっているので、誰にとっても損はない。
「今度来る時に、私は可愛い服を準備しておいた方がいいかもね」
「結局鈴ちゃんも乗り気満々ね」
鈴ちゃんもようやくあたしと同じように重傷だね。
「でもあんたそれでいいの?」
なぜか鈴ちゃんはニコニコしている。
「何が?」
「自分より弟の方が可愛いっていうことになるのは」
「うっ……」
そう言われると、確かにちょっと悔しいかも。でもあたしも可愛いナナちゃんが好き。
「でも、今のあんたを見て、私もなんかひとまず安心したかもね」
「は?」
鈴ちゃんはさっきの嘲るような笑顔から突然今の好意的な笑顔に変わった。
「だって、あんたが七李お姉ちゃんのことで悲しんでいるかと思っていたよ。でも今はなんか本当に弟と楽しんで過ごしているみたいね」
「そうね。本当にナナくんが一緒にいてくれたおかげだよ」
やっぱり鈴ちゃんもあたしのことを心配してくれているのね。
「私は一人っ子で、兄弟がいないからちょっと羨ましいかもね」
「弟や妹が欲しいなら、両親に頼んでみたら?」
鈴ちゃんはお父さんもお母さんもちゃんと元気で生きているそうだ。小さい頃から母を失ったあたしとは違って。
「まあ、実は言ってみたことがあるけど、そんなのは頼んですぐできることじゃないよね」
「そうよね」
「まあいいよ。一人でも私は今幸せだよ」
鈴ちゃんは、一人っ子でもお父さんとお母さんがいるから寂しくないよね。
「鈴ちゃんの家族はみんな生きててまだ誰も失っていないよね。むしろあたしの方は……なんか羨ましいよ」
あたしはお母さんもお姉ちゃんも失っているのだから。
「桃ちゃん……」
「もう誰も失いたくないの。だからあたしはちゃんとナナくんを見守る」
「あんた、ちゃんとお姉さんをやっているね」
「うん、昔七李お姉ちゃんがあたしを見守っていたのと同じように」
これはお姉ちゃんへの恩返しでもある。
「同じじゃなくてもいいよ。あんたはなんか七李お姉ちゃんとは全然違うタイプだ。ぶっちゃけ、2人はあまり似ていない姉妹だよね。あんたはあんなに七李お姉ちゃんを慕ったのに」
「いや、いくらあたしでも見分けできるよ。よくないところまでは真似したりしないよ」
「いいところも真似してないし! てか、あんたなんか今すごく失礼なこと言ってるね。感動するべき雰囲気は台無しよ」
「あはは、そうね。お姉ちゃんが聞いていたら怒るかもね」
まあ、実際に聞いているけどね。
「なんで、ナナちゃんは拗ねたような顔をしてるの?」
だってお姉ちゃん本人なんだからね。やっぱりナナちゃんは聞いているね。
「悪口を言ってしまってごめんなさい。お姉ちゃん……」
あたしが顔を上げてそう呟いた。
「あんた、どこに向かって謝罪してるの?」
「あ、えーと、天国かな」
実は天国ではなく、そばにいるけどね。
「鈴ちゃんも、何か七李お姉ちゃんに言いたいことがない?」
「は? 七李お姉ちゃんに? 今言っていいの?」
「うん、言ってみて」
ナナちゃんがここにいて聞いているからね。
「七李お姉ちゃん、心配しないでくださいね。あなたの馬鹿妹のお世話は、私はちゃんとしています」
「おい、酷いよ! 誰が馬鹿妹?」
「あんたのことだよ」
「うふふ」
ナナちゃんに笑われた。
「鈴お姉ちゃん……」
「何? ナナちゃん」
ナナちゃんは鈴ちゃんに何か言い出そうとしている。きっとあたしを庇ってくれるつもりだよね。
「こんな馬鹿姉貴のことだけど、よろしくお願いしますね」
「うん、私に任せろ〜」
「二人とも酷い!」
ナナちゃん、裏切り者!
「あんた、姉になってもあまり変わらないよね。ただ『馬鹿妹』から『馬鹿姉貴』になっただけ」
「馬鹿馬鹿連呼するな!」
このような台詞はなんかナナくんから聞いたことある。やっぱり2人とも意外と気が合っているかもね。
「結局あたしって、こういうキャラだったのね」
「そう言われたくなければもっとまともにしなさいよ」
「少なくともあたしはお姉ちゃんよりまともだと思うけどね」
「いや、正直言ってあんたたち姉妹揃ってまともではないよ。違う意味で駄目なんだけど」
瑞ちゃん、本当に毒舌だ。
「ほー、今の台詞はもし七李お姉ちゃんに聞かれたら怒るはずよね」
まあ、実際に本人がここで聞いているけど。
「鈴お姉ちゃん……」
「な、なんでナナちゃんがまた拗ねたような顔になっているの?」
「七李お姉ちゃんのことを、もっと聞きたいです。もっと何か教えて下さい。鈴お姉ちゃん……」
「ナナちゃん、なんかちょっと目が怖いよ……」
こんな感じで、あたしたち3人はしばらくじゃれ合い続けていく。
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「今日は楽しかった。じゃね、二人とも」
「またね、鈴ちゃん」
「バイバイ、鈴お姉ちゃん」
今日一緒に話し合ったり遊んだりして、鈴ちゃんもすっかりナナくんにメロメロになったね。
ナナくんもなんか猫をかぶる技術が案外上手だよね。普通の姿も随分可愛いのに、女装したら更に破壊力アップ。恐ろしい子!
この日以来、あたしが学校でナナくんの話をすると、鈴ちゃんも乗り気になる。時々家に来て一緒に遊んだり可愛い服を持ってナナくんを着させたりしたもする。
ナナくんと鈴ちゃんがいる日常はあたしにとって充実で、これからも楽しんでいける気がする。




