【七希】 15# この馬鹿姉貴は放っておけない
今回もまた七希視点の続きです。8~9話の内容に相当します。台詞は大体同じですが、やっぱりこのシーンも七希視点にしてみたら色々もっとよく見えてしまいます。
翌朝、目覚めたらオレのそばに桃四が寝ている。昨夜オレは一人で自分のベッドで寝ていたはずなのに、いつの間にかこいつはここに?
まあ、昔から桃四はいつもあたしの寝室に入り込んで添い寝していたから、今の状況は別におかしくない。今のオレの寝室は昔のあたしの寝室そのままだし。
そして今彼女はオレの体をギュッと抱きついている。普通なら気持ちよくて嬉しいはずだけど、今はなんか苦しい。だって今の桃四はなんか体が大きく見えて、力もいつもより強い。実際にオレの方が小さくて弱くなっただけだよね。
「離せ! 馬鹿姉貴!」
オレはこの馬鹿姉貴の頬を摘んで起こそうとした。
「ナナくん……?」
やっと彼女は起きて、オレの体は解放された。
「姉貴泣いてたの?」
今気づいたけど、桃四はさっき眠っていた時から泣いていたようだ。何か辛い夢でも見たのかな?
「いい夢だよ。また七李お姉ちゃんと会える夢。そしてお姉ちゃんは『ずっとお前のそばにいる』って」
あたしが桃四の夢に出たのか。まったく、桃四は本当にあたしがいないと駄目だよね。
「あたし……オレはずっとここにいるよ。心配かけちゃってごめん」
「大好きよ〜。お姉ちゃんも、ナナくんも」
そして今回オレの方が泣いて桃四の胸を借りてしまった。やっぱりこの体は涙脆い。男だけど、まだ子供だからかな。
今桃四はまたオレを抱きしめている。でも今回はちゃんと手加減してくれて彼女の優しさを感じた。
こうやって姉に甘えて泣いているのもなんか悪くない気がする。昔桃四もしたのと同じように。『姉』ってこんな感じだよね。
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オレはつい泣きすぎて、桃四の着ている寝間着をびしょ濡れにしてしまった。しかも濡れたのは胸の部分で、今は透けて中身まで見えてしまった。
「ごめん、姉貴の寝間着を濡らしてしまって」
なんというだらしない格好だ。でもこれは間違いなくオレの所為だから、とりあえず謝らないとね。
「別にいいよ」
「でも……見えてるぞ」
「あっ!」
オレが言わないと気づかないのか。まったく無防備すぎるのよ。
「一応今のオレは男だから、お前もっと警戒した方がいいよ」
このままオレが理性を失うかもしれないぞ。もっと警戒心を持っていればいいのに。
「は? まさかナナくん……興奮したの?」
「そ、それは……」
言えない。妹の体を見て興奮するなんて……。今は姉だけど。
「そうか。男の子だもんね。でもね、ナナくんなら別にあたしは構わないよ。もしナナくんが望むのなら、あたし今すぐ脱いで見せてあげても……」
「巫山戯るな! 馬鹿かお前!」
何てこと言ったんだ。この馬鹿妹が。この場でひとまずあたしは姉としてこの馬鹿妹を説教しないといけなさそうだ。
「ご、ごめん。あたしって、心配ばかりかけたよね」
あたしの言いたいことをいっぱい言い出して説教が終わったら、桃四はなんか後悔したような顔になった。あたしが言いすぎたかな?
「でも、とにかくありがとうね。桃四……いや、姉貴、オレが泣いてる時いつも慰めてくれて」
厳しすぎるのもよくないか。それに今オレは弟だから、やっぱりお姉ちゃんモードはもうここまでだ。また弟モードに戻る。
「ナナくん……」
「さっきも抱き締めてくれて……気持ちいいよ」
恥ずかしいけど、つい素直に言ってしまった。本当に暖かくてお母さんみたいだ。こんな風に優しく抱き締められたらなんか落ち着いて安らげてきた。
「よかった。やっぱり抱いてもらって嬉しいよね」
「まあ……」
今でももっと抱き締めてもらいたいけど、やっぱり恥ずかしいから素直に言えない。
「ね、まさかさっき欲情とかした?」
「べ、別に……」
そ、そんなことないよ! また何馬鹿なこと言ってるんだ。この馬鹿姉貴!
「あんなの全然物足りないよ」
「……なんか失礼なこと言ってる! 少なくとも、ナナくんより……あるからね」
痛いところ突っ込まれたね。確かに今この体では桃四にも敵わない。悔しい……って、そんなことあるものか! 今オレは男だぞ。こんなことで落ち込んだらどうする!
「男の子の体と比較して意味あるのか?」
こんなことしてもお前が虚しく感じるだけだと思うぞ。
「うっ……。で、でも、しょうがないよ。まだ中1だから。高校生になったらきっとすぐお姉ちゃんより大きくなるよ!」
いや、それは無理だと思う。こいいうものは遺伝子に関係あるから、結局お前もあたしやお母さんと同じになる運命だよ。うふふ、もっと後悔したくなければ素直に諦めろ。
と、言いたいところだけどさすがに単刀直入に言うと酷すぎて傷つけちゃうかもね。他の言い方にしよう。
「お、大きくなってどうするのよ?」
別に大きくてもいいことなんてないよ。あたしだって小さくて後悔していたわけじゃないんだからね! いや、今はもうオレには関係ないことだからどうでもいいし。
「その時もっと気持ちよく抱き締めてあげる」
「そんなの、要らないよ!」
「あら、ナナくん顔は真っ赤よ。やっぱり精神はちゃんと男の子になっているね」
確かにその通りだから否定できない。
「そう思うのなら軽々しくそんなこと口に出すな!」
男っていう生き物は恐ろしいよ。理性を失ったらどんなことをするかわからないし。こんな無防備ならいつか後悔するぞ。
「まさか、本当にあたしを襲う気なの!?」
「するわけないだろう!」
この馬鹿はまた変なこと考えているのか。全然反省していないようだね。やっぱり仕方ないやつだ。
「と、とにかく、今日学校に行くんじゃなかったの? 早く支度しないと遅刻してしまうぞ」
もうこの話は終わりにしよう。馬鹿がうつってきちゃったら困る。
「そうね。……ではまずシャワーね」
そんなことを言っていながら、桃四は自分の濡れた寝間着を手で掴んで引っ張って揺らした。
「うん……」
桃四のそんな行動を見てどうしてかオレはつい反応してしまった。駄目だ。変なこと考えてはならない。
「あ、今エッチなこととか考えてない?」
「うるさい! 馬鹿姉貴!」
顔に出たのか? 不覚だ。そんな目でオレを見るな!
「さっさと出ていけ!」
すごく恥ずかしくてそのままの勢いでオレは桃四を部屋から追い出してしまった。
「この馬鹿、まったくだ……」
こんな駄目な姉貴は一人で放っておいたらどんなことをやらかすかわからなくて心配してしまうので、これからオレは弟としてちゃんとそばにいて監視していながら支えてあげるよ。
今立場が逆転になって、もう姉ではなく弟になっちゃったけど、やっぱり今でも桃四のことを心配して見守ってあげたいと思っている。




