9話
「メルル、今日は森に素材を取りに行かなきゃいけないから、留守にするよ。ごめんね、留守番頼んだよ」
そう言ってクロさんは森に入っていった──。
留守番任せてね!なんて言って見送ったのが朝のこと。
家に入った瞬間、足元が光出し─…見覚えのある浮遊感に襲われた─…
「きゃ──っ!!!」
いつも支えてくれていたクロさん無しの転移魔法での着地は失敗し、地面に叩き落とされる。
「い…痛い…。ってここ…何処…?」
薄暗い大きな部屋の中心に魔法陣が書かれており、その中心に着地してしまったみたいだ。
部屋の中の椅子には、見たことのある男が足を組んで座っていた。
「やあ、また会ったね。黒猫の飼い豚さん」
ローブの男、ロブ・ロードが妖しく微笑んでいた──。
「あの時はしっかり挨拶できなかったからね。今日は私の家に招いてあげたんだよ。光栄に思うんだね」
「それはどうも。で、帰してなんて…くれませんよね…?」
クロさんと今度ロブ・ロードと会ったら全力で逃げるって約束したけど、招かれちゃった場合はどうしたらいいのだろうか…。
「せっかく来たんだから、ゆっくりしてきなよ。そうだ、面白いゲームをしよう」
そう言って愉快そうに笑うと、ロブ・ロードは私の首にカチリと何かを嵌める。
な…何…?
「私はね、黒猫が心底嫌いなんだよ。だから、あいつの大切なものは全て壊すって決めてるのさ─」
背筋が寒くなる。ロブ・ロードから黒い霞がどんどん湧き出てくる。
これは…まずいっ…──
「最初にあいつの飼っていた豚に手を掛けた時…あいつのあの顔が忘れられない─…。あの豚と同じだ。君も私が壊してあげる。一番面白い方法でね─…」
豚…。
飼ってたんだ。クロさん…。
え…、私のこと、その豚さんだと思ってないよね?
急に生まれた疑惑の方が気になってしまい、ロブ・ロードの話に集中できない。
「…ねえ、聞いてるのかい?」
「え、はい。一応…」
「いい度胸じゃないか。まあ、強気で居られるのも今だけさ。君のその首輪にはね、特殊な魔法が掛けられているんだよ─」