7話
気が付くと、お屋敷に戻ってきていた。
クロさんは上機嫌で買い付けした薬草などを棚に仕舞った後、お茶を用意してくれた。
「さっきの人はロブ・ロードと言って、僕の兄弟子みたいな者なんだ。巻き込んでごめんね。本当…僕の事大好きみたいでね、君にヤキモチやいてたんだね」
のほほんと言うクロさんに、お茶を啜りながらそれはどう考えても違うんじゃあ…と突っ込みたくなる。
「もし、僕の居ない所でまた彼に会ったら、迷わず逃げるんだよ?」
「…え?」
「彼は、僕のお気に入りを壊すのが趣味みたいでね。相手にしてなかったけど、君が壊されるのは嫌だから─」
影を落としたようにクロさんの空気が暗くなる。
やっぱりローブの男、ロブ・ロードは碌な男じゃなかったようだ。
「わかりました!!逃げ足は遅いけれど、一生懸命逃げますね!!」
「ふふ。頑張ってね。」
そう言ってクロさんは椅子から立ち上がり、私の傍に寄る。
ブレスレットをした私の手をクロさんの口元へ持っていき、赤い石に口付ける。
「これで、大丈夫だよ。君を護る魔法を込めた」
「ひ、ひゃい!ありがとうございます!!」
綺麗な所作にドキッとして、つい声が裏返ってしまう。
うん、クロさんはとても綺麗なんだ。
黒猫面で顔は隠れているけど、彼の纏う空気や存在感は、とても普通ではないと感じる。
それにいちいちドキドキしてしまうのだ。
「ふふ。メルルは…不思議だね─」
「え…?」
クロさんにふわっと抱きしめられ、息が止まりそうになる。
えええ!!?
きょ、距離が近い…!!というか距離が無い!!!
「君を奥さんにして、本当飽きないよ──」
そう言って額に軽く口付けされる。
クロさんこそ…不思議な人だと思う。
どうして…こんな白豚聖女に興味を持ってくれるのか……
とっくの昔に忘れたはずの、心の温かくなる思いが
少しずつ蘇ってきているのを
気が付かない振りをした──




