6話
街を散策しながら買い物をしていると、
「あれ?黒猫?」
そう言ってローブを着た妖しい男の人が話しかけてきた。魔法使いの知り合いかしら。
クロさんは立ち止まり、私を隠すように前に出る。
「久しぶりですね、ロブさん」
いつもより低い声でローブの男に答えるクロさんは、私の知らないクロさんだった。
いい知り合いじゃ…ないのかしら…?
「お前は余程の事が無いと、あの館から出ないからな。今日はペットを連れて散歩か?」
ローブの男は、私に気が付いたらしく、見下したような視線を投げてくる。
この男…苦手だな…と、本能的に思ってしまった。
「ふふ、ペットな訳ないじゃないですか。あなたの目に触れるのも勿体ない、僕の奥さんですよ」
冷たい話し方に背筋が凍る。
クロさん…怒ってるのかしら──。
ローブの男は気にする素振りもなく、豪快に笑う。
「っは!!お前みたいな『成り損ない』が伴侶を持つのか。これは傑作だ」
ローブの男がそう言うなり、畝を巻いたような黒い霞が体を覆っていくのが見えた。
何これ…この歪な負の気配は─…
「街中で迷惑ですよ、ロブさん。」
クロさんがパチンと指を鳴らすと、黒い霞は一気に離散していく。ローブの男はまだ不敵な笑みを浮かべている。
「黒猫。お前が『ひと』になるのは無理だ。どう真似ようと、『成り損ない』なんだよ」
そう言って楽しそうに笑うローブの男に、心底怒りを覚える。
どういう意味かは分からないけど、クロさんを侮辱していることは分かる──。
「あの、あなた、失礼じゃないですか?」
クロさんの背中から少し顔を出し、ローブの男へ物申す。ローブの男は私を確認した瞬間、面白そうに笑いだす──。
今絶対に白豚だと思ったわね…。
「クロさんはクロさんです。それでいいんです。あなたが何と言おうと、私は今のクロさんが人間的に好きですから!!」
勢いで啖呵を切ってしまった。
クロさんは驚いて動きを止め、ローブの男は不快感を表情に出している。
「何も知らないくせに──」
ローブの男から再び黒い霞が出てきた瞬間、クロさんが何かを唱え、ローブの男は地面に蹲っていた──。
「本当…メルルは面白いね──」
そう笑ってクロさんは私の肩を抱く。
嫌な予感が…──
「ロブさん、さようなら」
クロさんが蹲るローブの男に話しかけ、男は悔しそうな表情を見せている──。
次の瞬間、地面が光り出し、転移魔法が発動した──
「きゃ───っ!!!」
また地面に穴が開いたような浮遊感と墜落感を感じるのだった──。




