7話
黒竜は優しげに目を細め、首を横に振る。
『それは、僕であって、僕ではないよ。君が、君であって、君じゃないのと同じだ──』
クロさんでは…
無いのだろうか…──?
『昔の話を…しようか──』
黒竜と白竜は…とても仲の良い番だった──
お互いを愛し、慈しみながら…ひっそりと幸せに暮らしていた。
人と関わることも無く…
穏やかに暮らしていけるはずだった─…
けれども…
戦争が始まり、人は強欲にも竜の力を求めた──
魔術師が隷属の首輪を白竜に嵌め、戦争に利用した。白竜を取り戻そうと黒竜も人と戦おうとしたが…白竜の命を盾にされ、人に操られた白竜に封印されることを選んだ
『最後の瞬間─…白竜が命がけで僕の魂を『竜』と『ひと』との二つにわけて、『ひと』の魂を白竜の魂の中で生かしてくれた。『竜』の僕はここで深い眠りについたんだ──』
そ…んな…──
どうして…そこまでされたのに…
穏やかに話す黒竜には…恨みや怒りという感情は全く感じられなかった─…
ただ…ただ…悲しいという思いがする──
『白竜と僕の魂は『ひと』の中で何回も生まれ変わって生き続けた。ただ…僕の魂の片割れはこの黒竜の中に在ったから、『ひと』になりきれず不完全で、『成り損ない』と呼ばれた』
『成り損ない』──…ということは…
クロさんは──
『白竜の金色の瞳と、僕の蒼色の瞳…不完全な魂…。それが君が『クロ』と呼ぶ僕の片割れだ──』
クロさんは─…
異形と呼ばれ、『成り損ない』と蔑まれ…
一体どんな気持ちだったのだろう──
『白竜と僕の魂が一つになるには…白竜の魂も二つに分ける必要があった。白竜の片割れの魂を受け継いでいるのが…君だね──?』
わ…私が…
白竜…──?
『白竜の食いしん坊なところとか…そっくりだよ。君のお蔭で僕の半身は随分救われた。ありがとう』
黒竜は瞳を細めて穏やかな表情になる。
クロさんとそっくりなその瞳に胸が締め付けられる──
それに…
この暴食は…白竜の所為だったのか…。
黒竜の気配が強いこの国に来たことで、白竜の魂が強く出てしまったということかしら…。
『僕の半身は…消えてしまったんだね』
黒竜の言葉に、びくっと肩を震わせる。
信じたくなかった…──
でも…黒竜が言うのなら…クロさんは──
『今、僕の半身の魂は消えかけ…白竜の魂が補っている。その所為で人に恨みを持ったままの白竜が暴走してしまっている─…』
「え…───」
『僕の魂を、僕の半身にあげるよ。僕はもう永く生きた。白竜ともう一度ひとつになれるのなら…とても幸せだ──』
そう言って黒竜は目を細めた。
『僕の封印を解くのを手伝ってくれる?』
涙で顔がぐちゃぐちゃな私を黒竜が覗き込む。
ああ、どうして…
海のように深く優しい色をした瞳に…切なくなる。
『僕の為に泣いてくれるんだね…。ありがとう』
全てを包み込むような優しい声に、どうか…黒竜に救いがあって欲しいと…
そう祈らずにはいられなかった──
「封印は…どうしたら…解けますか…?」
真っ直ぐに黒竜を見上げた──
ここまでお読み頂きありがとうございます。
もしよろしければ、ご感想、評価、レビュー頂ければ作者の励みになります!よろしくお願いいたします。




