4話
セヴォン帝国には昔から語り継がれている物語がある──
黒竜と白竜の物語─…
遥か昔─…まだ大陸が一つであった頃…
黒竜と白竜の番がいた
黒竜は冷酷で人を嫌い白竜しか愛さなかった
白竜は慈悲に溢れ人を愛し人を助けることを願った
戦争が起こり
白竜はセヴォン帝国始皇帝に力を与えセヴォン帝国は大陸を統一した
嫉妬に狂った黒竜は白竜を幽閉し人を滅ぼそうとした
それを嘆いたセヴォン帝国始皇帝は白竜を救いだし─…白竜と共に黒竜を封印し世界を救った──
白竜は力を失い人となり、セヴォン帝国始皇帝と結ばれた─…
それ以降…セヴォン帝国には白竜の加護があり繁栄し─…白竜の意思は白竜の教団へ受け継がれ─…セヴォン帝国最強の名を大陸に轟かせている─…
この物語を聞かされた時─…
涙が溢れたことを覚えている─…
「クロさん…──?」
眠りながら涙を流すクロさんの頭をそっと撫でる─…。
悪い夢でも見ているのだろうか─…
「メ…ルル…──」
ふと目を開いたクロさんは愛おしそうに私の頬に手を伸ばす。
「ごめんね、眠ってしまっていたんだね」
「大丈夫ですよ。少し顔色良くなりましたね」
「心配かけてごめんね。大分楽になったよ」
そう言って微笑んだクロさんは体を起こし、窓の外を見る。
黒い雲がかかり、今にも雨が降りそうな空にクロさんの表情も暗くなる。
「メルル、君が生贄にされるのは…僕の所為かもしれない─…」
「…え──」
悲しそうにこちらを見るクロさんに胸が締め付けられる。
「僕が『成り損ない』に生まれてしまったから─…あの時…生き延びてしまったから…」
「な、何言ってるんですか!」
クロさんは…まだ何か重たいものを抱えているのだろうか…。
オッドアイに顔の傷─…異形として生まれてしまったこと以上に…何かあるのだろうか…
「先祖返り─…僕のこの容姿は…──」
そうクロさんが言った瞬間──
部屋の窓が粉々に割れ──
目の前が真っ白になる──…
「ああ、やっと見つけましたよ──」
視力が戻った瞬間、白装束の男がにっこりと微笑んで間の前に立っていた──
「…っ…!!」
クロさんが私を庇うように目の前に立つ。
クロさんから真っ黒な闇が広がり、白装束の男から溢れている白い光に抵抗しているようだった─…
「未熟で醜い闇魔法ですねぇ…。『成り損ない』らしいといえば、そうですが。今はあなたには構ってられないのですよ、そこの白豚聖女様に用があるので」
そう言って白装束の男は更に白い光を強くさせる。
この男が…チェルシーさんの言っていた…白竜の教団─…?
「この光を浴び続ければ─…彼は消滅するでしょうね。それでも良いのですか?白豚聖女様?」
クロさんが…消滅する…──?
「彼は不完全な『成り損ない』。『ひと』ではありませんからねぇ。混ざってしまっている。どんなに魔力があっても…この光には耐えられません」
クロさんの闇魔法はどんどん広がっていくけれども…光がそれを押し返している。
クロさんの表情が険しい──
「『ひと』にも成れず…『竜』にも成れない─…『成り損ない』に…誰かを愛する資格はありませんよ─…」
その瞬間─…
クロさんが大きく傾き─…白い光に闇が呑み込まれていく─…
「ま、待って!!私、あなたと一緒に行くから!」
そう言ってクロさんを庇うように光の前に立つ──
白い光に包まれ…
これでクロさんとはお別れだと…
そう直感した──
「メルルっっ!!!」
クロさんの声が遠くに聞こえた──
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