第8話 夢
「また夢の中か」
イチャイチャしたあとの、心地よいまどろみの中にせっかくたゆたっていたというのに。
これじゃ良い気分が台無しだ。
「そんなつれないこと言うなよ。僕と君の仲じゃないか」
けっ。
なんだよその、仲良しアピール。
猫撫で声出しても、BLな趣味はないんだよ。
「ラグビー部の幼なじみに恋しちゃう話を読んでるのに?」
それとこれとはちがうだろ。
それに、メディアミックスしてる作品じゃないから、どこまで有名か自信ないぞ。
「じゃぁ、昴流くんに話しかける星史郎みたいにしゃべればいいかな」
「うるせぇ。地の龍にでもなってろ」
一喝すると、シュンとうなだれていた。
「まぁいいや。どうだい、四人。クラスメイトの十分の一に復讐終えて?」
「……悔しいけど、感謝してるさ」
立ち直りの早いこの存在Xに感謝なんてするのは本当に悔しいが、石村雅人では池井慶に復讐どころか、仕返しさらできなかっただろう。
それくらい当時は圧倒されていたし、ビビっていた。
今思えば、勝てないという思いこみでしかなかったと思うのだが。
まぁそう考えると、感謝くらいはしてやらないといけない気もする。
「そう。楽しそうでなによりだよ」
ニンマリと笑う雰囲気は、本当にヒトガミにしか見えない。
「本当に嫌われてるなぁ」
自覚はあるんだな。
「ひどい言われようで悲しいよ」
あぁ、ウザイ。
本当は悲しんでなんかいないのに、悲しんでる振りとか、本当にウザイ。
深呼吸して落ち着いてから、一つ疑問に思っていたことをぶつける。
「なぁ。一つ聞きたいんだけど」
「ん? なんだい?」
そう聞き返してきた表情を見て、これは何を聞かれるか知っているなと確信する。
おかげで、聞いてはいけない質問ではないと安心して問いかける。
「池井慶は、たしかに最低のクズだった。でも、あそこまで腐ったヤツじゃなかった。あれは、異常だ。どうしてだ?」
「そんなこと、僕が知るわけないじゃないか」
煙にまくようにしらばっくれた。
だがその新宿ガールとは真逆な、大根役者の演技が逆に、なにか知っているという確信を強める。
「転生したときに……アンタが、なにかしたのか?」
「ちがーう!」
突然大声を出してきた。
なんだよ、それ。
スクリーンアウトでも間違えたか、ゴリ?
「というか、質問。二つになってるけど?」
「そのくらい、虎杖みたいに流せよ」
オッケー二つねくらい言ってもらいたいものだ。
「まぁいいや。半分正解で、半分間違いだよ」
「……半分?」
若干意味がわからない。
「キミ自身のことを思い出してみて」
話の流れ的に、転生したときだよな。
くだらない話をしてた記憶しかないんだが……。
「石村雅人くんが、魔王シャーン=カルダーの魂の影響を受けただろ?」
たしかに、そんなことを言われた記憶がよみがってきた。
つまり……。
「そ。アデシュ村のオーガ少年が元々持っていた性癖ってこと」
「あんな、マルキ•ド•サドみたいな性癖の持ち主だったって?」
ソレナンテ=エ=ロゲ?
「まぁ、池井氏も、優秀なお兄さんとずっと比べられてきたことでうっくつした感情を抑圧していたみたいだし? それが転生して解放されちゃった。そんなところかな」
「それは……元々、池井にもそういう傾向があったってことだよな」
確かめるように聞く。
「あったでしょ?」
あっさり肯定されて、少し引く。
「だって、キミがいつ死ぬか、賭け事の対象にしてた男だよ? 普通じゃない。整だって言ってたじゃないか。イジメは本来、加害者に問題があるって」
「……なるほど」
たしかにそうかもしれない。
だが、だとしたらあのクラスは、クラスメイトの半分以上に問題があったということか?
「そういうこと。そして、そんな素質があるから、そういう転生先になるんだよ」
少し納得した。
だけど、転生先の肉体が本来持つ魂に影響を受けるなら、転生することでマトモになったヤツもいるんじゃないか?
「そんなことはないよ。倫理の先生も言ってたじゃないか。正しいところに悪い人が来ることはあるけど、悪いところに正しい人はこないって」
あぁ、うん。
救いようがないってことな。
今度こそ納得した。
正しい魂の持ち主の肉体に転生しても、朱に交われば赤くなるみたいに、堕落していくってことだろ。
「しかしなんだい? ずいぶん疑われちゃったな」
「当たり前だろ? 池井のことをあおってたんだ。どうせ、他のヤツにもそんな悪巧みをしてるんだろうと思うじゃないか」
肩をすくめて、ヤレヤレみたいなジェスチャーはやめれ。
欧米か。
「まぁ、キミには期待してるんだ。ターゲットはみんな、犯罪卿に殺されてもおかしくない逸材ばかり。どうか華麗に復讐して、この世界のリソースを無駄遣いしている歪みを正してほしいんだよ」
「リソースって……ギリエルかよ」
ちゃんと拾ってやると、ふふふ、と笑う。
「そう。だからキミは、最上位神の遣いとして、心置きなく復讐してくれればいいんだよ」
ニタァと笑ってやがる。
でも、その笑顔はどこか作り物めいていて、まだ何か隠しているようにしか見えない。
だって、無理に笑おうとしている日代さんにしか見えないんだもの。
「失礼な。馬鹿が馬鹿にしないでくれるかな」
やめれ。
「うぉっほん。こっちの話を聞いてばかりだけどさ。そっちはちゃんと楽しんでるのか?」
一応、こんなんでもスポンサーみたいなモノだ。
聞いてやる。
「最&高だよっ」
めちゃくちゃテンション高く食いついてきた。
まるで最高か聞いてくる、どっかの宗教みたいなノリだ。
「前回の、モブキャラカップルの絶望に満ちた顔も良かったけどね。今回の、息子を女にしないと助けられない母親の苦悩とか、見てるだけでゾクゾクしたよ」
こうこつとした、とろけそうな顔をするのはやめれ。
「人の母親の顔を使いながら、そんな表情すんのはやめてくんねぇかな」
中身がまるで違うとわかっていても、気分がいいモノではない。
「あぁ、失礼。これならいい?」
一瞬で顔を変えたルドラサウムの顔を見て、雅人は危うく殺気をぶつけるところで踏みとどまった。
「……んで、そこで『姫』の顔なんだよっ」
憎い顔を見せられ、怒りに震える。
「ふっふっふっ。歩が三つ」
「あ?」
どこのカールビンソンだ。
「聖女を一人捕まえたじゃないか?」
「ん? あ、あぁ」
チャーティがどうしたって?
「わかってるんだろ? 今ならもう一人捕まえられるって」
「……冗談言うなよ。すべての元凶の一人だぞ」
自称神だけあって、今、立憲君主王国に姫がいることは知っているようだ。
もちろん、雅人もマークしてある。
だが、今捕まえるつもりはない。
「前菜一品のあと、メインディッシュを続けて食べたら胸焼けするじゃないか」
「……なるほど。それもそうだね」
含んだような笑いをされ、いぶかしむ。
コイツは本当に何を考えているのかわからない。
「そんなことないよ? 純粋にキミの復讐劇を楽しんでいる観衆さ」
そんなことが信じられるわけがない。
「ま、明日からも頑張って」
「あぁ」
そう答えた雅人の意識はまどろみの中に落ちていった。
これにて、魔導王国編は終わります。
明日からは、追憶編……もとい。過去の話を投稿させていただきます。
なお、ミツキのノクターンの話は、今日は投稿できないかもしれません……。
その場合は申し訳ありません。




