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第3話 白く染まった誓い2

「まったく。仮にも聖女を名乗るんだ。少しは愉しませてくれるんだろうな」

 アヤにいいようにやり込められ、またストレスを溜めたカーラは、目の前にちょうどいいサンドバックがいる幸運に目を細める。

 だがもし、これで聖女まで期待外れだったら、国境沿いに展開している同君連合の軍をうっかり殺戮してしまいそうなほどカーラのイライラはつのっていた。

 雅人からも、ストレスを貯めこみ過ぎるなと注意されたほどである。

 だが幸いなことに、その心配は杞憂に終わりそうだ。


 才能的にはオーガにすら遠く及ばなそうだが、後衛の魔法使いの支援魔法と聖女の加護を得た前衛の騎士は、第一印象よりはよほど骨がありそうな雰囲気を漂わせている。

 結果的には、先ほどのアヤとの寸劇が敵の戦闘態勢を整える時間的猶予を与えたようで、カーラはニヤリと笑う。


「名を聞こうか。私はカーラ=マトック。魔皇シャーン=カルダー八世陛下に仕える藩王の一人。不死族の藩王。ヴァンパイア・クイーンだ」

 カーラが名乗ると、三人が息を呑む雰囲気が伝わってくる。

 藩王の名に恐怖をつのらせたらしい。

 これでは名前は聞けないかなと思ったが、数秒の沈黙の後、名乗りを返してきた。

「私は……破邪の聖女。チャーティ=ニュール。藩王、あなたの命、もらえますか?」

「誇り高きサックーラ王国最後の王、オック=サックーラの曾孫。セイス=サックーラです……だ」

「い、雷の魔女……。セーシャ=ウェッド……です……」

 予想通り、一人は聖女だった。

「サックーラ王国……たしか、帝国に百年ほど前に滅ぼされた小国だな」

 記憶をたどってつぶやくと、セイスと名乗った前衛の騎士が驚いたように眼を見開き、唾を呑んだ。

「魔族の名高い藩王に知ってもらっていたなんて……亡くなったお祖父様も喜ぶでしょうね……だろうな」

 なんで、わざわざ言い換えるのかわからないが、そういうコミュニケーションスタイルなのだろう。

 もう一人の後衛は見た目どおり魔法使いだったわけだが、二つ名持ちなのに自信がなさそうで、そのギャップになにか裏があるのかと勘ぐりたくなる。

 だが立ち振る舞いもオドオドしており、印象を受けたまま臆病者なのだと推測する。

(まぁ、気にするだけ無駄か)

 聖女はなぜか疑問形でばかり話をするし、三人とも特徴的な口調の持ち主だ。

 だがすぐ後ろにコミュ障の変人同僚がいるので、カーラは特に気にしないことにした。

「聖女殿。先に攻撃させて差し上げよう」

 右手を突き出し、手の平を上に向けた状態で「来い来い」と挑発してみる。

 だが、カーラとの実力差を正確には把握していなくとも、立ち合っただけで圧倒的力不足を痛感したらしい三人は、慎重だった。

 自分の間合いに入るまでは、セイスは慌てて斬りかかってきたりはしないらしい。

 これで後先考えずに突撃してきたら、一瞬でその命を奪おうと思っていたカーラは、少しセイスの戦闘センスを見直した。

(少なくとも、リナに「バカ」と連呼されていたオーガ(バカ)よりは楽しめそうだ)

 とうに、カーラの間合いには入っている。

 その気になれば、相手になにもさせずに斬り伏せることも可能だ。

 だが、自分の実力を過信することなく恐怖に耐え、必死に勝機をうかがっている姿勢に敬意を表して、相手の間合いまで近づいてやることにする。

 しかし、ただ近づくだけではつまらない。

 挑発するように、無防備にしか見えない軽い足取りで数歩進む。

 あと半歩近づけばセイスの間合いだ。

 わざと焦らすようにその場で棒立ちになるが、冒険はしない主義らしい。

 グッと悔しそうに唇を噛みながらも、集中を切らすことなくカーラをにらんでくる。

 あまり焦らしても可哀想で、カーラは最後の一歩を踏み出す。

 その瞬間、セイスの剣が振り下ろされる。

(ほう……)

 才能だけで、努力の欠片も見えなかったオーガの剣筋とちがい、血のにじむような努力の跡が見える斬撃だ。

 だが、それでもカーラには通用しない。

 軽くいなすように、素手の手の甲で剣を弾く。

 聖剣ではないようで、触れるだけではダメージもない。

「聖剣でないのに、この藩王カーラに傷をつけると思ったかっ! 見くびられたものだな」

「くうっ……はぁぁっ!」

 弾き飛ばされそうな剣を必死につかみ、体勢を崩されながらも踏ん張ると、セイスが横なぎに剣を振ってきた。

 それをゆうゆうと半歩下がって避ける。

「発動する? 破邪の瞳」

 避けるために引いた瞬間を見計らったのだろう。

 中衛の聖女が疑問形ながら叫ぶと、カーラの左腕が石化する。

「うそ? ……それだけ?」

 聖女が驚愕したつぶやきをもらす。

 だが、驚いたのはカーラもだった。

 状態異常に耐性をもつ藩王の片腕を石化させるとは、さすがは魔を払う聖女。

 魔王と(ヒューマンが言うところの)魔族の天敵だ。

「効かない? 聖女の力なのに? 今よりもっと魔力を篭めないと? 本当に?」

 ブツブツと独り言を言いながら、魔力を練り上げている。

「よそ見……していられるのかしら……してんなっ」

 石化された方の腕を狙って、セイスが剣を振るう。

だが、石化していない方の腕を伸ばし、連続攻撃を防ぎ続ける。

「片手……なのに、どうしてなの……なんだっ」

 片腕でありながら、セイスと互角以上に渡り合う。

 このくらいのハンディキャップがあった方が楽しめると、カーラは生き生きしながら、襲ってくる剣をさばく。


 反対に、セイスは焦っていた。

 チャーティの、聖なる力が篭められた瞳で藩王の片腕を石化させたものの、よく見ると徐々に回復していっている。

 今は相手が片腕なのでかろうじて互角の勝負に持ちこめているのに、もし復活されてしまったら……。

 残念ながら、一方的にじゅうりんされる未来しか見えない。

「も、燃え盛れ……ファイアストーム……」

 セイシャの魔法が唱え終わり、火の魔法がカーラを襲う。

「あ、アンデットなら……火には……弱いんじゃないかと思って……」

「やった? セイシャ、やったね? 勝ったんじゃない?」

 得意なのは雷属性だが、不死族だからと弱点を突くことを優先した選択だ。

 だがチャーティの喜びの声が口から出た直後、カーラをおおっていた炎が一点に収束して消えてしまう。

「な……に……。なんで……魔法が……」

「先ほどの発言。マサトー様に聞かれたら、フラグ? を立てる言葉には気をつけろと言われるぞ」

 セイシャが呆然となる前で、無傷のカーラが姿を現す。

「見たことはないか。魔力ドレインの一種でな。実力差があれば、魔法から魔力そのものを抽出して吸収できる」

 カーラの言葉に絶対的な自信を見出し、三人は驚愕と恐怖に動けなくなる。

 そしてその一瞬を見逃すほど、カーラは甘くなかった。

「きゃぁぁっ」

「セイスっ?」

 前衛のセイスが、カーラの腕の一振りで吹き飛ばされ、チャーティのところまで転がってくる。

「ごほっ、ごほっ……痛い……」

「セイス? しっかりして?」

 脇腹を押さえて痛みに涙するセイス。

 チャーティが回復魔法で必死に治そうとするが、その間にカーラに肉薄を許してしまう。

「聖女は危険だから殺さないとな」

 蛇ににらまれたカエルのように、チャーティは指一本動かせなくなる。

 カーラがチャーティに迫ろうとする寸前。

「ま、……待って……。チャーティは……殺させ……ないわ……」

 決死の覚悟と、気力を総動員してセイスが立ち上がり、チャーティを護るように立ちはだかる。

「わ、私も……チャーティを……護る……の……」

 ガクガクと震えながら、セイシャもチャーティの前に両手を広げて立つ。

「ふ、二人とも? やめて? 二人は生きて?」

 怪我をしたセイスを案じながら、チャーティが前に出て、自分の犠牲だけで二人を生かそうとする。

「どうした、カーラ」

 だが背中側から声をかけられ、三人は凍り付いた。

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