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第1話 元老院解体宣言

「魔王様。我々魔導王国元老院は、あなた様を魔導王国国王に推挙いたします」

「で、あるか」

 戦後、オーガとヘラへの処罰を終えてから魔導王国元老院議長であるセンナトを呼びつけると、満面の笑みで告げられた。

(うさんくさっ)

 恭介と同じくテレパスは使えないが、そんな力に頼らなくても面従腹背なのは顔をみれば一発でわかる。

 とはいえ、実際問題として魔導王国の元老院は使える。

 魔族と自国単独での戦争では勝ち目が薄いと、事前に自国が不利にならない程度の内通をしてきた目端が利く姿勢といい、歴代の国王の権限を戦争屋に押しこんで内政を牛耳ってきた政治力といい、少なくともアイェウェの民にはあまり持っている者がいない能力だ。

 現実問題として、獣人領の維持・運営ですら手にあまり気味だったので、この際、忠誠心という目に見えないモノよりも、結果を出せる人材を優先すべきフェーズにあると判断する。

 たとえ面従腹背であっても、裏切るメリットがなく、デメリットしかないとわかれば反乱など起きない。

 キンカン頭だって、絶好のタイミングだから謀反を起こしたのであって、サルかタヌキが万全の状態で敵対するとわかっていれば本能寺は燃えなかっただろう。

 とはいえ、元老院に主導権を渡してやるつもりもない。

 そこはしっかり釘を刺しておかねば。

「で、我をオーガと同じく、軍事指導者に押しこめて、内政は自分たちで独占するつもりか?」

「いえ、滅相もありません」

 言葉に合わせて頭を下げたので表情は見えないが、心の中で舌打ちくらいはしていそうだ。

「我々は、魔王様の寛大な御心にすがり、この国を統治いただきたいと考えているだけにございます」

「ふむ……」

 事前の取り決めでは、オーガ率いる魔導王国軍が敗北して王都ヴァークが占領された場合、元老院としては抵抗不能なため軍門に降り、戦後の統治に協力する見返りに全員を助命するというところまでは、合意している。

 どの程度勝つかによって戦後のパワーバランスが変わってくるため、細かいところはお互いぼかして大枠だけ手を握っていたわけだが、こうまで圧勝すると一方的な条件を押し付けやすくなる。

 その機先を制する必要がある元老院側のからめ手に、こちらが乗ってやる必要はない。

「悪いが、魔導王国という国体を残すつもりはない。ゆえに、その国王などという存在しない地位を引き受けるつもりもない」

 ばっさりと切り捨てると、センナトや同行してきた元老院の幹部たちが息を呑む雰囲気が伝わってくる。

「魔導王国は解体し、アイェウェ帝国ニンゲン領ととりあえず名付ける。アイェウェ帝国……ヒューマンたちが魔族の国と呼ぶ国家の一部となるのだ」

 植民地にするのではなく、征服領土として本国と同様の法律、貨幣、度量衡の使用を強制し、同化させる。

 その障害を除去するため、ツルちゃんの友(マキアヴェッリ)が言うとおり、オーガが復位する芽を摘み、ヘラは王弟(トスタナ)の奴隷に、息子は女にして雅人の戦利品としたことで旧君主の血統は断絶させた。

 法律は元老院に有利になっているので維持できないが、しばらくは税制を残し、徐々に収束、統一していく。

 その膨大な作業に、旧元老院の者たちや官僚、若手貴族を雇い入れるためにも、元老院の制度的な解体も必要だ。

「それは……皆と協議させていただいてもよろしいでしょうか」

 予想外に厳しい条件を突きつけられた想いなのだろう。

 ここにいるメンバーだけでは決められないと、猶予を求めてくる。

「構わん。我が言葉が誤解なく伝わるよう、こちらから説明させる要員を同行させよう。マーキア。リナを連れて、元老院の皆様に丁寧に説明してきてくれ」

「はい。我が君」

 藩王として、普段の言葉遣いすら改めたマーキアがうやうやしくうなずいた。

「センナト殿、皆様方。魔導騎士千名をほふった、先の戦争の英雄二人に説明させよう。人員に不足はあるまい?」

 見た目も実年齢も若い二人がなめられないよう、紹介した上で同行させる。

 今の雅人の言葉で二人が、人知を越えた巨大な落とし穴に氷を張った藩王と、魔導騎士を消し炭すら残さず燃やし尽くした副王だとわかったのだろう。

 センナト以外の者たちは恐怖に顔面を蒼白にし、震えている者もいる。

 とはいえセンナトは、見た目上は平然としてうやうやしく頭を下げ、同行に同意を示した。

 その辺りの肝の据わり方は、さすがは一国の実質的な最高権力者といえるだろう。

「獣人領での宣言を聞き及んでいる者もいるかもしれないが、改めて言っておく。我は、国に忠誠を誓い、反抗をせずに我が国の法に従えば、いかなる種族であろうと差別はしない。獣人であろうと、ニンゲンであろうとだ。ただ、己の才覚によって、自らの地位をつかみ取れ。……貴殿等もな」

「本当にま……アイェウェの民と、我らニンゲンを同等に扱われると?」

 魔族と言おうとして言い直したらしいが、気づかないふりをしてやる。

「あぁ。優秀なら、我が宰相にも採用しよう」

 アイェウェの民からは反応がないが、元老院議員たちや彼らの護衛でついてきた軍の生き残りがざわつく。

 そう。

 雅人にとってアイェウェの民か、獣人かニンゲンかだなんて、差別する意向もなければ、余裕もない。

 それこそ、ナンバーズか名誉ブリタニア人かに公式にはちがいがないように、無意味な区別でしかない。

 アイェウェ神の信仰も、ルバノフ教みたいな人種差別とは無縁であるので、アイェウェの民にもヒューマンたちが弱いからというだけの理由で差別する文化はない。

「あぁ、一つだけ言い忘れていたことがある。我が国に忠誠を誓う、すべての民に優劣はない。つまり、如何なる種族も奴隷という差別を受ける謂われはないと明言させてもらう」

 これにも、先ほど同様のざわついた反応が返ってくる。

「とはいえ、対価を払って奴隷を購入した者もいるだろう。不当な財産権の侵害を行うつもりはない。奴隷を解放するにあたり、タダでと言うつもりまではない」

 タダではないが、取得額を完全に補償するつもりもないのだが。

 一応の配慮を見せれば、センナトたちも文句を言えずにうなずくしかできない。

 これで、ティナに「なんでも言うことを聞」かせる権利を得たわけだが、それが理由でもなく、ちゃんと政治的な政策理念に則った措置なので、だれにも文句は言わせない。

 だから、ついニヤケてしまいそうな顔を引き締めているのを、マーキアがジト目で見てきているのには気づかないふりをしておこう。


「我からは以上だ。他に聞きたいことはあるか?」

「もし……魔導王国の元老院として、先ほどの御言葉を受け入れられないとなりましたら、どうされるおつもりですか?」

 センナトが、涼しい顔をして聞いてくる。

 だが、サトゥーのポーカーフェイスほどの完璧さはなく、少し目元が恐怖に引きつっているのはご愛敬か。

「そうだな。単純な話だ。……戦場で相見えようぞ」

 冷酷に笑いながら言い放ってやると、センナト以外の者たちはガタガタと明らかに震え出す。

「それほど魔導王国という国に忠義を尽くすなら、止めはせぬ。だが、貴殿等の実力があれば、我が国を裏から操るほどの勢力を築けもしよう」

 今度はふつうに笑いかける。

 勃興期の国家に共通する悩みだが、人材が圧倒的に足りないのだ。

 実力さえあれば、宰相をふくめてどんな地位でも思うがままだと、示してやる。

 曹孟徳は「ただ才のみこれを挙げよ」と言ったし、漢民族の民族国家から領土的に脱却できなかった明を滅ぼした清は、満州人が掲げていた実力主義の人材登用によってモンゴル人勢力も取りこんで強大さをほこった。

 旧魔導王国の者たちに文官の高位を独占させるつもりはもちろんないが、現況を考えれば当面については、ある程度偏りが出てしまうのは許容するしかない。

「では、存分に話し合うがいい」

 雅人がそう言って退出を促すと、入ってきた時と同様の緊張した面持ちでセンナト以下の元老院議員たちは辞去していった。

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― 新着の感想 ―
自分も復讐がぬるいと思ったけど、作者の返信コメント見ると何度も復讐するわけですな。 つまりずっと「いじめ続け追い込む」と。 それはそれで良いですね。 ただし毎回死にたくなるぐらい追い詰めて、なおかつ生…
[気になる点] オーガへの復讐が少し緩いような気がします。 たとえ、魔力を全部奪ったとしても五体満足で無事解放するとは。 人殺しはしないという方針は理解してますが、それでも獣人たちに身柄を預けるくらい…
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