第20話 断罪1
次回から、復讐第二弾をはじめます。
池井氏はヒューマンとしては破格に強い設定にしたはずが、主人公と配下がチート過ぎて「ひでぶっ」キャラになってしまいました。
カーラによって、王妃ヘラ=ヴァーク=アデナイと王子ミッツ=ヴァーク=アデシュは簡単に捕まった。
ミッツは必死で抵抗したようだが、藩王二人に敵うわけもなく、捕縛劇はあっさりと終わったらしい。
オマケの情報だが、あまりに弱すぎてアヤはあきれ、カーラは「これで最強の次点を自認してたのか?」とため息をつくレベルだったそうだ。
そしてミッツがなすすべもなく気絶させられたのを見て、ヘラは無抵抗で捕まった。
魔力でも戦闘力でも、抵抗にすらならないことを瞬時に理解したのだろう。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
オーガとヘラ、そして息子が捕まったのだ。
これで役者が全員そろった。
さぁ、楽しい復讐の時間だ。
***
「離せっ! 俺をだれだと思っている!」
「っざけんなっ、離せ、この野郎!」
王都ヴァークの広場に、雅人は特設ステージを用意した。
雅人の右側にはカーラとアヤ。
左側にはマーキアとリナが立っている。
そこに、魔力操作を阻害する効果のある手錠をかけられたオーガ、ヘラ、ミッツが連行されてくる。
田中たちと同様、雅人の正体には全然気づいていないようだ。
「これより、魔導王国王族の処分を行う」
雅人の代理としてカーラは前に出ると、大声で宣言した。
なおこの様子は獣人のときと同様、魔導王国の全土で見られるように、魔法で映像と音声を飛ばしている。
「暴君オーガ。被告人は、その称号に相応しく、多くの無実の人々をしいたげ、殺害した嫌疑がかかっている。容疑を認めるか?」
「あぁ? 俺様がオー様の国で、俺様がなにをしよーが勝手だろうが」
そんな反論をしている時点で、会話が成立していないのが丸わかりだ。
だが、この映像と音声は「手違い」で周辺国の大部分にも飛んでしまっている。
どちらに非があるか、すぐにわかるだろう。
そして、今のようなとんちんかんな受け答えを続けてくれれば、オーガを断罪しても国際的な批難は高まらない。
この世界では、だれも試みたことのない国際的なプロパガンダだ。
もちろん、魔族と恐れられている状況の改善にはあまり役立たないだろう。
あくまでも自衛のためという大義があると、広報するだけで充分である。
だが、そういった小さなことの積み重ねが重要だ。
話しもできない、敵にしたら一方的に蹂躙されるしかない恐ろしい存在という認識から、最低限、大義名分は気にかけるだけの会話可能な敵になるだけで、マイナス幅はずいぶん少なくなる。
オーガ……池井には、その踏み台になってもらう。
(まったく、リナと、二号機のパイロットじゃないがバカなの? ってな)
オーガがなにか言うたびに、印象は悪くなっていく。
そういうシナリオができあがっているのだ。
国内では無敵で、誰からも恐れられ、あるいはおだてられていた存在から、誰からも憎まれる悪役に転落する。
そのとき、池井はどんな顔で絶望してくれるだろうか。
「くっくっく」
第一王女に復讐してやったときに、癒やしの勇者がもらしてしまったような声を、必死にこらえる。
(だめだ、ダメだ。ヒールに間違えられそうな顔は隠さないとな)
ヒールは悪役で十分。
回復術士は脇に置いておこう。
こちらをチラッと確認したカーラに手で合図を送りながら、雅人は結末のわかっている裁判をながめた。
「そうか。国民は国王の所有物、だからなにをしても許される。そう言いたいのだな」
「あったりめぇじゃねぇか。俺様が、俺様のモノになにをしよーが、だれにも文句は言わせねぇ」
オーガがほえる後ろで、ヘラが青い顔をしている。
だが、最初からオーガを暴走させるのが目的なので、彼女には声を出せないように魔法をかけてある。
おかげでだれにも制御されないオーガは、どんどん墓穴を深く掘っている。
「その思想。我々とは相容れないが、ヒューマンではふつうなのか。まぁいい。それではつぎは物証を提示しよう」
カーラは最初のシナリオどおり、オーガの罪を暴きつづける。
「この、悪趣味なモノは貴様の所有物だな」
「っざけんなっ、返せっ! 返せよっ!」
オーガの「自慢のコレクション」をカーラがさらす。
幼い犬族の兄と妹が、瓶の中で串刺しにされたご遺体だ。
話には聞いていたが、実物を見せられて雅人も、マーキアたちも絶句する。
「返せっ!」
「……こんな……小さな子どもまで犠牲にしたのか?」
カーラが、かろうじて怒りを抑えながら問う。
「ミッツと言ったな、王子。父親のこの罪、どう思う?」
カーラの問いかけに、ミッツは顔を背けた。
「あぁ? どーでもいーだろ、そんなケダモノ」
「……ケダモノ?」
カーラが怒りに肩を震わせている。
「あぁ。ケダモノだ。そいつらは、言葉を話すケモノだよ」
「貴様と同じヒューマンだろうがっ」
冷静であることを求められているのがわかっていても、カーラは激昂して叫ぶ。
「ちげーよ! 俺様とそいつらが同じ? あり得ねぇだろ。弱ぇし、見た目も動物じゃねぇか」
オーガの独演に、カーラもとうとう絶句する。
「そうだよ。そいつらはケモノだ。だから、何匹殺そうが、俺様の勝手だ」
カーラが黙ってしまったのを、論破したと勘違いしているのか、オーガは楽しそうに吠え続ける。
「あぁ、たまんねぇぞ。言葉をしゃべるからな。殺されそうになると、必死で命乞いするんだ。それをいたぶりながら殺すのとか、マジでサイコーなんだよ」
ゲラゲラ笑う。
この状況がわかっているのだろうか。
敗北し、捕らえられて頭がおかしくなったのだろうか?
「グダグダ言ってっけどよぉ。俺様の、ニンゲン様の楽しみに使っていただいたんだ。殺されて、むしろ光栄に思えってんだ」
黙ってしまったカーラを見下すようにドヤ顔をするオーガ。
救いようがない。
「ヘラ王妃。ミッツ王子。これが……君たちの罪でなくてなんと言う?」
カーラが怒りに眼を光らせて問うが、二人は沈黙したままだ。
「……あなた方も……戦争を起こしたではないですか」
「……なに?」
どんな弁明をするのか発言できるようにしておくと、ヘラが沈黙の後、絞り出すようにこちらを批難しはじめる。
「えぇ。たしかにオーガ王は罪を犯した。でも、それならば戦争で魔導騎士千人を殺したあなた方には罪はないのですか?」
国中に映像が流れているのを知っているので、ずいぶんよそ行きな口調だ。
戦争は人道に対する罪か。
ちょっと文化的には、数百年くらい先を行きすぎてるぜ。
「我々は、被告人オーガの悪行を把握していた。先の戦に大義を求めるなら、それを正すための戦争だと認識している。そもそも、貴国が一方的に侵略するための軍を起こしたのだ。我々にとっては自衛のための戦争。非難される筋合いはない」
正論には正論をカーラがぶつけると、ヘラもそれ以上は分が悪いと理解しているのか、とりあえず黙る。
「被告人オーガよ。これだけの罪を重ねた罪人に罰をあたえて、世界中のだれが我々を非難すると思う?」
「あぁ? 罪だぁ? 俺様が何をしたってんだよっ」
罪悪感のカケラもないどころか、悪しきことだという認識すらないとは。
「なんなの……やっちゃいけないこともわからないとか、バカを通り越してマヌケね」
「うっせぇ、クソ女っ! ぶっ殺すぞっ」
リナのつぶやきを拾ったオーガが吠える。
「弱い犬ほどよく吠える」
完膚なきまでに叩きのめしたカーラが言うと、オーガは憎々しげににらみつけていた。
「んだ、てめぇら。魔族とかってイキがりやがって、クソがっ! 解け。ぶっ殺してやる」
状況をまるで理解していない姿は、いっそせいせいするほどだ。
「見たか、魔導王国に住むすべての者よ。我と彼。どちらに正義があるか? 各自の頭で考えてほしい」
カーラはオーガに背を向け、天に向けて手を広げながら話した。
カメラなどないが、まるでカメラワークを意識したかのように、他にだれも映らないよう演出し、魔導王国の全国民に、そして周辺国の民に問いかけた。
「我々は、この幼い命だけで被告人オーガは極刑に値すると考えるが、これだけではない」
カーラが物証を指差したのに合わせて、他の凄惨な遺体の映像が拡散する。
「これだけの無実の人々を惨殺する。そんな男を我々は許してはおけない。これより、刑を執行する。結果は、後日、改めて通達する」
カーラの言葉のあと、雅人は通信を切らせた。




