第19話 アフターフォロー
この二人の会話になると、つい、普段なかなか書けない分、過剰にぶっ込みたくなるんですよね。
関係者の皆様、怒らないでください……。
「やぁ、久しぶり。元気そうでなによりだよ」
「……夢に出てくるなんて、やっぱりヒトガミって名前なんじゃないのか?」
自称、神が夢に現れたので、雅人は文句を言った。
せめて、夜の間くらい静かに眠らせてほしいものだ。
「ひどい言われようだな……。まったく歓迎されてないってのも、地味に傷つくんだよ? 初めての復讐の感想を聞きにきただけなのにさ」
不満そうだ。
「……ようは、アフターフォローってことか? ずいぶんと手厚いんだな」
感心してつぶやく。
転生させてあとは放置、よくて転生者からアクションを取らなければ会話の機会もないというのが当たり前のなか、わざわざフォローしてくれるなんて、優しい部類に属するだろう。
まぁ、存在Xみたいに、ことあるごとに信仰を認めさせようと介入してくるのも考えものだし、転生に関係ないのにあとから出てきてお供え物を要求してくる駄女神たちよりもマシだと思おう。
と、そんなふうに考えていたのだが。
「そりゃそうさ。君の復讐劇には、たっぷり楽しませてもらうんだから、そのくらいの労はいとわないよ」
ドヤ顔で返され、敬う感情が消えていく。
「……やっぱり、ルドラサウムって名前だろ……」
「ちぇっ。もう、そういうことでいいよ」
ずいぶん不満そうだ……。
「で、どうだった、初めては? 痛かった?」
「なんで、いきなりエロ系に話を持っていくんだ……どこが痛むんだよっ!」
初めて、って言葉からの連想ゲームだろうか。
男子中学生か、妹魔王お付きのサキュバスみたいなエロ脳だ。
むしろ、アンタの言動で頭が痛いよ。
「もちろん、心さっ! 罪悪感とかねっ! ん? 雅人くーん、今、なにを想像したのかなー?」
ウザイ。
ちょーウザイ。
はっきり言って、ウザすぎる。
いたいけな男心をからかうなんて、お前の旧姓は高木かっ!
「結婚なんてしてないけど」
へーへー、そーですか。
「あと、他にもたとえようがあったんじゃないの?」
「すんませんねー。時間がなくて、友達の妹ってのがどのくらいウザイか知らないんですよ」
「そうか。それは残念だったね」
そーすっね。
「それはそうと、感想を聞きたいんだけど?」
「……質問に質問を返すようで申し訳ないんだが、まずは、観客の意見を聞きたいんだけど、教えてもらえるか?」
自分のなかで、田中鉄太と小池恵子への復讐の総括は終わっている。
ただそれが客観的な立場でなくとも、他人から見てどうだったかが知りたい。
「俺の復讐劇を見て、どう思った? 周りの反応は? 正直やってる最中は無我夢中で、気を配れなかったんだ」
「んー、そうだね。ぶっちゃけると、個人的には可もなく不可もなく、って感じかな」
素直な感想に苦笑する。
ぶっちゃけられているだけに、おそらく本心だろうと納得できる。
「あと、周りの反応って、キミの周りにいる女の子たち? それなら、キミがやりたいことなら喜んで協力するイイ娘たちばかりだから、気にする必要はないと思うよ」
「……そっか」
全面的に信頼はおけないものの、一つの意見としては貴重で、少しだけ心の重荷が取れた気がする。
「ひどいなー。信じてよ」
「あのなー、他人の復讐劇を見て楽しもうってヤツを信頼するほど、馬鹿じゃないつもりなんだが」
「ちぇっ」
つくづく不満そうだ。
「で、一応もう一度聞くけど、一件目の復讐を成しとげた本人としてはどうだったの?」
どうしても口に出させたいらしい。
仕方ない。
いろいろと世話になったし、答えてやろう。
「相手がモブキャラの二人だったからな……これが池井とか、前田とかメインどころだとまた感じ方が違ったんだろうとは思う」
「そこら辺は次に期待ってことだね?」
「あぁ、そうだな」
とはいえ、復讐自体は……。
「楽しかった?」
「あぁ、もちろん!」
力強く断言する。
「手に入れた力をどう使うか、ってたくさんの作品のテーマじゃないか。あと、異世界でなにに夢中になるかも」
そう、グリフォンの加護を得て国を勃興させるもよし、聖女の癒しの力で人々を治療するもよし。
夢中になることだって、スライムの研究も楽しそうだし、破滅フラグを回避するために脳内会議するのも悪くない。
もしくは、好きな女を女王にするために奔走するのも、いい人生だと思う。
「死に戻りは辛そうだけどね」
「……たしかに」
「おほんっ! 話を戻すな。……俺、今度こそ死んだら終わりの、サドンデスなわけじゃないか」
「そうだね。普通そうだからね」
「一度しかない人生なら……やっぱりあいつらに復讐したいと思ったよ」
力強く断言すると、管理者Dが笑う。
「まぁ、そういうと思ったよ」
「そうか。まぁ、そうだろうな」
本当に神なのだとしたら、こっちの考えや趣向くらい簡単に読めるだろうしな。
「まぁでもさ、復讐なんて後ろ向きだーとか、せっかく生まれ変わったんだから、前世を忘れて今の新しい人生を楽しめーとか、アンタが神様なら、そういうこと言わなくていいのか?」
すこし疑問に思ったので聞いてみる。
「んー、まぁ、そういう意見もあるよね」
どうやら、そうは思ってないらしい。
「それよりも、キミ個人がどうしたいのか。それが大事なんじゃない?」
「なるほど……なら、俺は復讐することを選ぶ。俺が俺であるためだから。生き様で後悔だけはしたくないからな」
「ダブルでぶっこんだねー。東京の一年生で一人だけハブられた恵が可哀想だよ」
「でもわかりやすい例えだろ?」
苦笑する管理者Dに言ってやると、納得したらしい。
「さてと。安眠の邪魔しちゃ悪いから、そろそろ終わりにしよう。次はいよいよ本命の一つ。魔導王国でしょ?」
「あぁ」
うなづきながら、気力がみなぎってくるのを感じる。
「復讐のメインターゲットの一人が、のうのうと王様なんてやってるんだ。挨拶しに行ってやりたいじゃないか」
「王妃もいるしね」
管理者Dの言葉にうなづく。
いま、我ながら悪い笑顔を浮かべていると思う。
「すっごくイキイキとしてる。これはまた楽しめそうだ」
「あぁ、楽しみにしてくれよ」
自信たっぷりに言い放つ。
「あはは。とてもじゃないけど、屋上から飛び降り自殺しようとしてた人間と、同一人物だとは思えないよ」
「……あんたには感謝してるさ。俺に生きる目標を与えてくれたんだからな」
あの頃、石村雅人はただ、死んでいないだけの抜け殻だった。
今は違う。
復讐が前向きなものでないことくらい、よくわかっている。
それでも、全身や顔に火傷を負った人斬りも銀仮面も、復讐の念を胸に死を乗り越えて生きていた。
俺も同じだ。
「でもさ、感謝してるなら、もう少し敬意を払ってくれてもいいんじゃない?」
不満そうに言うのを、笑い飛ばす。
「同じヲタクだからな。尊敬なんてできないよ」
「ちぇっ」
言葉とは裏腹に、表情は笑っている。
「あぁ、キミの安眠の時間云々の前に、本当に時間がきちゃったみたいだ」
「なんだ、リョーマみたいに時間制限があるのか」
だとしたら、こんなサブカルネタばかりの無駄話をしていていいのか、心配になる。
「信じてないかもしれないけど、これでも一応、本当に神みたいなもんだからね。忙しい身の上なんだよ?」
「神なら、その辺どうにかすればいいのに」
チクリと言ってやるが、笑っている。
「まぁ、なんだ……ありがとうな、転生させてくれて」
「いえいえ。どういたしまして。復讐、頑張ってね」
そんなこと、神が言っていいのだろうか。
まぉいいや。
「あぁ、楽しんでもらえるようにこれからも頑張るさ」
そう言ったところで管理者Dの姿が揺らぎはじめる。
「バイバイ」
目の前の存在が消えたと同時に、雅人の意識は深い闇の中に落ちていくのだった。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
幕間1は今回で終わり、明日から第2章をはじめます。
新しい復讐をはじめますので、ご笑覧くだされば幸いです。




