第18話 帝国宰相の怒り
本日も、短いので2話投稿いたします。
昼頃アップする予定です。
よろしくお願いいたします。
「はぁはぁ、どうしてこの私が……帝国宰相であるこの私が、あんな……あんな下賤な男に、虚仮にされなければならないんだっ!」
怒り狂い、高価なクッションを何度も踏みつける男。
護衛も含め、周囲を取り巻く男たちはその怒りが自分に向くことがないよう、遠巻きに見ているだけだ。
列国会議という、外交にたずさわる者にとっての一世一代のハレ舞台。
それもダイロトの勝利以来、数百年ぶりに攻めてきた魔族に対する、大がかりな戦争のための大同盟を結成しようという大舞台だ。
ダイロトの勝利の前には、列国会議という仕組みすらなかったことを考えれば、今回の会議こそ、歴史に名を残す絶好の機会であった……はずだった。
帝国の偉大さを全ヒューマンに知らしめ、帝国こそが魔族との戦争で主導的役割を果たす国家だと示し、名実ともに世界のリーダーであると誇示する絶好の機会であったのに。
魔族と通じた疑惑のあるダークエルフが送りこんできた、たかだか二等書記官上がりの下賤な男によって、ヒューマン各国の協調が崩された。
あの、特命全権大使を任じた男はダークエルフ辺境伯領に帰国することなく、そのまま出奔したこともわかっている。
体の良いトカゲの尻尾切りだ。
今ごろは殺されていることだろう。
これで、ダークエルフ辺境伯としては魔族との関係などなく、列国会議に協力する姿勢さえ見せておけばいいのだから、始末が悪い。
列国会議での大同盟が失敗して、一番得をしたのはもちろん魔族であるが、次は間違いなくダークエルフ辺境伯だろう。
責任を問われることなく、疑惑もうやむやにすることに成功したのだから。
その次はアールヴ辺境伯か。
列国会議への招集も無視し、魔族よりであることを隠そうともしない。
だが、交易もほとんど行っていない半鎖国状態のアールヴ辺境伯領にとっては、他のヒューマン各国の反応など気にならないらしい。
そのことも業腹だ。
残念ながら、もっとも損をしたのは会議の主催者である。
栄光が約束されたはずの舞台をぶち壊しにされ、修復することができなかったのだから。
ゆえに、会議を差配した帝国宰相。皇帝の覚えめでたく、世界最高の権力者の一人と自認していた、シンコーク=チョーワィの評価もとうぜんのようにダダ下がりになった。
「アールヴ、それにダークエルフどもめ……いつか目に物見せてやる……」
シンコークの憎しみは直接の原因である魔族には向かわず、彼の権勢にかげりをもたらした二カ国に向かうのだった。




