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第9話 列国会議2

「それでは、列国会議をはじめるとしましょう」

 帝国の皇帝が歓迎の挨拶だけして引っこんだあと、信任厚いとうわさされる宰相が厳かに列国会議の開催を宣言した。

(帝国は宰相。アマゾネスは大公の妹。それ以外の国も、一線級だな…)

 それに対して、被告人扱いが確実なダークエルフ辺境伯領は、二流のノーク=ホットローを送りこんだ。

 辺境伯領高官たちの危機感の欠如に、今日も朝から胃が痛くなる。


 昨晩到着したばかりでもう列国会議というのは、普通はおかしい。

 通常は各国とも到着のあいさつや、自国の主張を根回しする期間をもうけ、満を侍して会議に臨むものだ。

 ノークがそんな当たり前のことができていない理由については、答えは単純。

 いまさらダークエルフが無駄な懇願などできないよう、誤った開催日程を伝えられていたからだ。


 正確に言えば、一度決定してダークエルフとアールヴを含めた全国家に伝えられた会議日程が数日前に変更になったのだが、遠方のダークエルフ領からはすでにノークは出立しており、伝達ミスがあったということになる。

 それが本当だと思うものは外交はできない。

 明らかにはめられたのだ。


(魔王様々だな……)

 もし昨夜のうちにその話を聞いて対策を立てていなければ、胃の痛みで死んでしまったかもしれない。

 だが、ノークは堂々と席に座り、他国の外交官たちを睥睨するようにみまわしていた。


「次、ダークエルフ南辺境伯領、特命全権大使殿」

 各国の格に応じた順番で、それぞれ自己紹介していく。

 ミーハーなところもあるノークには、本来たまらない時間だ。

 各国の綺羅星のような高官たちと同席する機会など、これまでなかったのだから。

(あぁ残念……皆さま、もう二度とお会いできないかもしれませんが、お元気で)

 内心で、不安とバランスをとるように小バカにしてから立ち上がる。

「ノーク=ホットロー、ダークエルフ南辺境伯領特命全権大使でございます。昨年は、二等書記官として軍事同盟に赴かせていただき、盟主様に拝謁することができましたことが、よい思い出です」

 二等書記官程度だと言ったとたん、蔑みの圧が押し寄せる。


 本当に魔王様々だ。

 こんな空気になると、事前に知らせておいてくれたのだから。


「二等書記官……下賤の者を遣す。それがダークエルフの意志か?」

「下賤の者とは異なことを。貴国ではどのような地位かはわかりませんが、独身ながら、私ノーク=ホットロー。愛人を二人ほど囲っておりますれば、下々の者と同じとは悲しくなります」

 そこまで言って、難癖をつけてきた相手に正対するように体の向きを変えた。

「まぁ残念ながら、戦女神のルックナー枢機卿閣下のように、妻帯しながら五人もの愛人を養うほどの高給をもらってはいませんが」

「なっ……」

 思わずもらした声は、図星をつかれた反射的なものだと、場の全員が理解する。

「あら、戦女神教では聖職者は妻帯は許されるが、姦淫は罪ではありませんでしたかな」

「そ、そのようなデタラメ。名誉毀損で辺境伯殿に訴えるぞ」

「では特命全権大使殿が嘘を仰っていると、枢機卿閣下は仰せか?」

 戦女神教とは、信徒の獲得でライバル関係にある大地母神教の大司教が飛びつき、当てこするように突っこんでいく。

 とくに大地母神教は聖職者が全員女性だ。

 他国との交渉の場において、女性に同情的な立場を示しやすい傾向にある。

 そこをノークが上手く突いたかっこうだ。


 その後もしばらくライバル同士の醜い言い争いは続いていた。

 ニンゲン同士で争い合う。

 理想的な展開だ。


「あんた、見かけによらずアッチも結構イケんだな。ウチの国に遊びに来ないか? 強いヤツはみんな大歓迎だ」

 アマゾネスの王妹まで参戦する。

 ニンゲンと亜人の中間ともいわれるアマゾネスは女性しか生まれないため、他種族の男性をモノにする機会をつねにうかがっている。

 彼女が参加したことで、場がかなりカオスになる。


「ご静粛に!」

 進行役の帝国宰相が見かねて制止する。

 それでようやく枢機卿と大司教も会議の目的を思い出したようだ。

 だが、それでも構わない。

 何度も脱線し、時間が過ぎればダークエルフにとって不利にはならない。


「ホットロー特命全権大使殿」

 仕切り直した帝国宰相が声を上げると、全員の視線がノークに集まる。

「今回の件について、申し開きはありますかな」

 申し開きなどと、弁明の機会を与えるようなことを言うが、早々に罪を認めさせてダークエルフを断罪し、魔族討伐軍の結成に進みたい意図が見え見えだ。

「申し開き、ですか?」

 こちらは帝国の思惑にのってやる必要はない。

 はぐらかすように言うと、他国も帝国に同調して批難を浴びせてくる。

「獣人領の滅亡について何も思わないのか?」

「辺境伯としての義務をなんと心得ている?」

「誇り高きアールヴやダークエルフが聞いて呆れる。魔族を前にして怖気づいたか!」


 しばらく好き勝手に言わせておく。

 しかし、キツイ言葉ばかりだ。

 魔族のアドバイスがなければ、心が折れるか、激昂していたことだろう。


(そろそろかな)

 批難の言葉も尽きてきたのか、落ちついたのを見計らい、手を挙げて発言の許可を取る。

「ノーク=ホットロー特命全権大使殿」

「みなさまのお言葉、胸に刺さります。我がダークエルフ南辺境伯領が為した悪行についてのみなさまのご意見、しかと辺境伯に伝えたいと思います」

 立ち上がってから発言し、そのまま深々と頭を下げる。


「また、ダークエルフ南辺境伯領の特命全権大使として、みなさまのお心を乱しましたこと、及び列国会議にて取り決められていました、辺境伯としての義務を違えたこと。深くお詫びいたします」

 一度頭を上げてから、再び頭を下げる。

 頭など、いくら下げたところで死ぬわけでも、懐がいたむわけでもない。

 本来なら特命全権大使が頭を下げるというのは、全面降伏を意味し、どんな難題を吹っかけられても文句が言えない愚行だ。

 だが、今回の列国会議は、そもそもダークエルフに無理難題を押しつけるために開かれている。

 いまさら一度や二度、頭を下げたところでなにも変わらない。

 昨晩、魔族のレクチャーを受けてノークはそう開き直っていた。


「また、先ほどのみなさまのご意見を整理しますと、列国会議での取り決めに反したことに対する誠意を見せよ、と聞こえましたが、間違っておりますでしょうか」

 外交の場で誠意といえば、賠償金か、領土などの実利と結びついている。

 だから誠意を見せろなどと言葉を返したことで、出席者たちが気まずい顔を返してきた。

 外交は虚々実々の世界だ。

 言葉オブラートに包み、直接的な言葉は避ける。

 とはいえ、ノークはもはや外交をするつもりはない。

 こんな吊し上げの会を画策しておいて、お上品にとりつくろっている場合かと思う。

 だから……つまりカネを寄越せということですね、と言わないだけマシだと思え。


「我がダークエルフ南辺境伯領はみなさまのご要望に応えまして、誠意を見せる準備がございます」

 はったり以下の嘘だが、ここはこのくらい言っておいてやる。

 案の定、誠意を見せると言ったとたんに、出席者の目がギラギラし出した。

 とうぜんだ。

 国に賠償金を持ち帰ったのであれば、そのうちの幾ばくかは手間賃として下賜されるであろうし、名誉も得られる。

 交易の民ダークエルフならケチなことは言わないだろうという思い込みと、もし払えなくても美男美女を奴隷として摂取すればよいと思っていることだろう。

 亜人に対する明確な差別を感じて、ノークはムカムカしつつも、外交官として表面はにこやかな笑顔を絶やさずにいた。


「賠償金の額ですが……このような場合、いくらくらいが妥当か、検討もつかないのですが……我々が見せられる最大限の誠意としまして、百万ディナールを列国会議に拠出するというのではいかがでしょうか」

「ひゃ、百万……」

 破格の申し出に、会議の場は静まり返った。

今日も、ノクターンの方に投稿しますので、年齢的に問題ない方はよろしくお願いいたします。

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