幕間11 ルドラサ〇ムの憂鬱
今回は、これまでで最大級にぶっ込みました。
関係者の皆様、怒らないでください……。
「どうされました、我らが主よ」
眷属の一人が声を掛けてきたのに気づき、「主」と呼ばれた存在は顔を上げた。
「んー、キミさ。シャーンくんのこと、どう思う?」
「シャーンと言いますと……確か主が転生させた魔王でしたか。シャーン=カルダー八世とか名乗っていましたな。どう、と申されますと?」
眷属は主の懸念がわからず、問い返すことしかできない。
「いやさ。ちょっと魔王がチート過ぎじゃないかなと思って。あそこまで一方的になるようにしたつもりはなかったんだけど……どうしてこうなったんだろう」
眷属に話しかけるようで、一人で自分に問いかけを行っている。
見守るしかない。
「いやね、一方がチート級の強さでもって、ロードローラーみたいに何もかもをなぎ倒していく展開ってさ、最初のうちはスカッとジパングだか、ニッポンだかなわけで面白いんだけど、やっぱりワンパターンになると途中で飽きちゃうじゃない」
「はぁ」
自分で設定した見世物がワンパターンになりそうだからどうしようと悩むなんて、主は本当に絶対的な力を持っているのか、すべてを棄てて仕える眷属としては、不安を覚えてしまう。
「だって考えてもごらんよ。究極魔法使い団のリーダーだって、天災級の魔獣が相手ならよゆうでチートしたけど、魔人が相手だと苦戦するでしょ?」
「はぁ、そういう設定ですからね」
「水飲み百姓に毛が生えたみたいな、貧乏貴族だか騎士だかの末っ子も、死んだドラゴンは倒せるけど、ダンジョンでは仲間と一緒に死にかけるじゃない」
「……そうですね」
眷属は、そこまで言っていいんかい? という言葉が頭をよぎる。
「暴風竜を食べたスライムだって殺されかけたり、大事な仲間が殺されるのに助けが間に合わなかったりしたわけじゃない。結局復活させることができたからよかったけど」
「はぁ。あのう……ネタバレはよくないのではないですか?」
言い過ぎな気がして、つい口を挟んでしまう。
全能の主なら、そのくらいは考えていると信じて。
「……あれ、まだアニメ、そこまでいってなかったっけ?」
「はい、まったく。確かコミックスも微妙なところです。私が読んでいないだけかもしれませんが」
「……やべ」
主が小さくつぶやいたことは聞こえなかった。
うん、聞こえなかったぞ。
「ま、まぁ、ネットでも読めますし。本を買えって話ですが」
「そ、そうだね。みんな、本を買ってねっ」
焦って取りつくろっているわけではない。
きっと。たぶん。言い訳……じゃないよね、メイビー。
「あーっ、人様の宣伝してる場合ですか?」
「いや、人のふんどしで相撲とるような作品じゃない、これって。ツイッターでよくあるマンガ広告みたいに、どっかにPRって入れておかないと駄目な気がしてきたんだよ」
だんだん、眷属は頭が痛くなってきたする。
気のせいではない気がする気がする……。
「作品って……まぁ、大昔アイスホッケー漫画描いてらしたマンガ家さん的な方向性ではありますが。特に、その元アシスタントの方とかと同じですよね」
「まぁね、マンガじゃないと、モブとか背景に埋め込めないから難しいところがあるけど……って、ゲホゲホッ。うぉっほん。ちょっとやばくなってきたね。いろいろ絶望しそうだから話を戻そうか」
「……はい先生、そうですね」
眷属は頭を押さえながら、同意した。
「いやでもね、最初にチートにしちゃった手前。全集中的な呼吸の使い手とか、魔力ゼロのくせに魔法使いの皇帝になろうとする悪魔憑きみたいに、修行で強くなっていく方向性には今さら変更できないんだけどさぁ、どうすればいいかな」
「はぁ。ジャンプの海賊ってアトラクションの名前くらい、結局けっこう攻めてますよ?」
ここまでくると、自重する気がないのだと判断せざるを得ないのだが。
「えっ? それって、マイアミみたいな地名にあるというアレかい?」
「えぇ、本物はみたいなというか、そこを参考に埋立地に名前をつけたって聞きましたけど。って、そんなことより私が言ったのは、あくまでも架空のアトラクションの名前ですからね!」
いろいろとケンカを売ってしまいそうで、必死にフォローを入れる。
特に、一番怒らせてはいけないところに。
「……そうかな? そんなに攻めちゃったか。まぁいいや。そうなると、やっぱりライバルだよね」
「はぁ」
よくない。全然よくない。
だが、この話を掘り下げると本当にマズそうで、とりあえず話が逸れたことに胸をなで下ろす。
「やっぱり、強敵と書いて「とも」、あるいは「ライバル」と読ませる存在が必要だと思うんだ」
「もしくは、目標となるような強い味方ですね」
ようやく心臓に悪くない会話が続いて、眷属はホッとする。だが。
「金色の鎧みたいなのを着た、光速でパンチしたり絶対零度じゃないと凍らない人たちとか、六大将軍の生き残り的な?」
「……そうですね。そろそろ伏字が必要なレベルですけど」
結局たとえ話はぜんぶそっちに持って行かれることに気づき、絶望した!
「うーん……。まぁ魔王よりつよい魔族はいないから、それはないな」
「では強敵ですか」
もはや眷属は達観してこの会話を続けることに決めた。
これがいわゆる明鏡止水の心境というヤツだろうか。
デビルガンダ……いや、なんでもない。
「そりゃそうでしょ。不敗の魔術師がいたからこそ、金髪の孺子の話は名作中の名作なわけだし、黒衣の将軍がいたから自由騎士は成長したんだよ?」
「主よ、伏字、伏字が必要です!」
「あ、ごめん」
さすがに看過できないレベルのモロ出しに、突っ込みを入れてしまった。
いくら両方とも前世紀の作品で、誰もが知る不朽の名作とはいえ、限度というものがある。
「でも、シャーン氏の願いを考えますと、ラスボス一人を倒すために頑張る感じではないですよね」
「うーん、そーともゆー」
「埼玉県の幼稚園児みたいなことを言わないでください……」
あぁ、抱える頭がいくつあっても足りない。
「はいはい。君もたいがいだよ。となると勇者と死闘を繰り広げてもらうしかないか」
「言わせたのは主ですよ。……いっそのこと、パラメータいじりますか?」
「どっちの? 魔王? 勇者?」
続くか?
このまま続いてくれ……。
「それこそ、今さら魔王を弱くするのは悪手ではないでしょうか」
「そうだね。魔王と藩王とのバランスが崩れちゃう。かといって、いまや? たぶん一般的ではないから怒られないように司っさんのいうところの気持ち悪い略語を使うけど、ドラゴボみたいにパワーインフレする余地もないんだよねぇ」
「……そうですね。ファイファンは言いましたけど、それは聞いたことないから許してもらえるといいですね……」
もはや、眷属は遠い目をして会話を続けている自分に気づいた。
「とりあえず常識的なところで、勇者は一人で藩王と互角に闘えるくらいに設定変えるかな」
「ようやく真面目な話になりましたね……となると、シャーン氏は勇者を各個撃破していくことが求められますね」
「うん。教えちゃダメだよ?」
「言いません。別に私は死んだ剣豪に竹刀を渡す役どころでもありませんし」
真面目な会話に耐えきれず、つい自分でぶっこんでしまった。
「そっか。じゃあ、対魔族に限って、勇者もチートにするってことで、今日の話は終わりにしようか。ちょっとすっきりしたよ」
「そうですか。主の心の安寧に貢献できて嬉しく思います。ガッテン」
「最後のはよけいだね」
笑いながら、眷属の主は歩いて行ってしまった。
眷属は、重く感じる頭をグリグリとマッサージしてから、やるべきことをなすために立ち上がるのだった。




