第1話 真実はいつも一つとは限らない? 1
大変長らくお待たせいたしまして申し訳ございません。
(待ってくださっている方がいると嬉しいです。。。)
実はまだ5月末のタスクが終わっていないのですが、ひとまず1話投降いたします。
明日も投稿できるかは未定ですが、できるだけ頑張りたいと思います。
「上出来だ。もう教えることはない」
「ありがとうございましたっ」
身長二メートル近い、筋肉ムキムキな男の言葉を合図に、立っていた少年たちが崩れ落ちる。
ヒューマン最強の戦士とたたえられる四天王が一人、猛者の扱きに耐えた後だ。
気が抜けた瞬間に全身の力が抜けるほど、すべてを出し切ったのだろう。
「どうだ、調子は?」
「やるだけのことはやった。あとは時間が必要だが……待ってくれないんだろう?」
色黒な女性がしゃがみ込む少年少女たちをまぶしそうに見ながら、横に立った男に吐き捨てるように言う。
「ちゃんと時間かけて育てれりゃ、すげぇ戦士になるかもしれないってのに。これだから政治家は」
「口がすぎるぞ、戦姫。帝国宰相たる我にそのような口の利き方。今回は勇者たちを鍛え上げた対価として聞き流してやろう」
次はないと言外にアマゾネスの女性に向かって言い放つと、宰相は部屋から出て行った。
「ったく。いけすかない野郎だ」
「そうだな。だが、魔族を倒すには、帝国の支援は不可欠。敵に回していいことはないぞ」
ヒューマン最強と言われていても、一人で万の敵を相手にできるわけではない。
戦場の地形を変えられるほどの魔法を使うことはできても、詠唱の間はどうしても無防備になる。
そこを物量で押しつぶされては勝てないのだから、国家を敵にするわけにはいかず、戦姫は忌々しげに顔を歪めた。
「なぁ、ヒヨッコども、勝てると思うか?」
戦姫が、即席栽培に過ぎない勇者たちの戦果を危ぶんでいることは、猛者もわかる。
懸念を共有しているのだから。
「やるだけのことはやった。それしか言えんな」
先ほどの戦姫と同じ言葉で猛者も危ぶむ。
「だが、そろそろヒューマン側の我慢も限界だ。同君連合も、血で血を洗う内乱中。魔族に介入されたら、お前の出身地も危ういぞ」
「……わかってる」
アマゾネス南辺境伯領が危ないとなれば、すぐにでも勇者を送りこみたい気持ちも抱いてしまう。
「いけ好かない野郎どもだったが……同じ四天王って呼ばれた誼だ。仇も取ってやりたいしな」
暴君は、戦姫が女だからと見下していたし、剣聖はアールヴだけに他の種族を自然と下に見ていた。
だが、彼らの強さは本物だった。
それを蹂躙したというのだから、魔族の強さには戦慄を禁じ得ない。
急いで集めた勇者たちに、できるだけのことは教えたとはいえ、すぐに強くなる秘訣などありはしないのだから、不安にもなるだろう。
「安心して。私たちは、魔族からヒューマンを守るためにこの世界に生まれたの。負けるわけにはいかない」
体力面では劣るが、適度にサボって限界を超えることのない知の勇者が、戦姫の隣に立ってつぶやく。
「あぁ、今度こそ、変なところで死ぬわけにはいかないもんな」
守の勇者が、膝をガクガク笑わせながら必死に立ち上がり、仲のいい二人に手を貸して立たせてやっていた。
***
(考えたら……あの三人、いつも一緒ね。幼なじみってだけじゃ、説明がつかないくらいいつも一緒)
知の勇者こと、イズマ=ワジックは、ふと天啓のようなひらめきを得た。
(体の大きい男と、それを好きな小柄な女と、女を好きな目つきの悪い男……まるで、あの三人のよう……)
あの三人も、幼なじみだった。
そして、体の大きい男が女の行為に気づいていながら、気づかないふりをして三角関係をあいまいにすることで関係を壊さないようにしているところまで同じだ。
それだけを見れば、ありふれた設定かもしれない。
薬で外見高校生になった男のクラスメイトと似た境遇だ。
(でも、今のセリフ……)
今度こそ死ぬわけにはいかない。
それは、一度死んだ人間にしか言えない言葉だろう。
だが、イズマは本人たちにはあえて聞かなかった。
(ねぇ、神様。私たちのこと、見てるんでしょ? 声、聞こえてるわよね?)
心の中で問いかけた。
返事はないが、とりあえず続けてみる。
(あなたはあの時言ったわ。魔王を倒す、勇者の冒険譚を見せてくれって。なら、とうぜん、私たちのことを見ているはず。ちがう?)
まるで、血のつながらない祖父にダンジョン都市に行けと言われて育てられた、小さなルーキーをけしかける、優男な男神のようなことを言っていた。
(心の声だって聞こえているはずよね。管理者Dにできて、本当の神様にできないわけ、ないわよね?)
『怖い子だね、君は』
通った!
イズマはニヤリと笑った。
『なにが望みだい?』
(そうね……死なない身体。他人には殺されない身体。でも、自分が望んだら死ねる身体ね。死ねない身体は嫌よ)
人魚の肉を食べたり、三つ目の妖怪に魂をささげた挙句、普通の人間に戻りたいと願うような人生はごめんだ。
(異世界建国記とか、無職転生みたいな人生は送りたくないの)
『……ネタバレになりそうなたとえ話はやめてもらえないかな』
困ったような声が聞こえるが、イズマは気にも留めない。
(死なないけど、死ねる、自分の人生の終わりを自分で決められる身体をくれたら、みんなには黙っててあげるわ)
『神を脅す気かい? 欲張りは人の身を亡ぼすよ』
すさまじいプレッシャーに襲われるが、イズマは耐えた。
ここで引いたところで、望みは叶わない。
なら、行くところまで行くしかない!
(私、考えたの。魔王って何者か?)
動揺したような雰囲気が伝わってくる。
やっぱりそこがポイントだったようだ。
(わざわざ、神様が転生者を送りこんでまで殺したい相手って誰だろうって)
『なんでそんなことを思うんだい? 世界に仇なす存在を滅ぼそうというのは自然なことだろう?』
口調から、話をそらしていると確信する。
(自分でやればいいじゃない。リソースが足りないとか? やめてよ。私、剣豪のおじいちゃんじゃないわ)
笑い飛ばしてやるが、神の警戒心は解けていない。
(ね、殺したいんじゃなくて、殺させたい。ううん。私たちに、殺し合いをさせたい相手って誰かしらね)
ブワッとプレッシャーが増す。
今や、他の勇者や猛者と戦姫も不穏な空気を感じているようだ。
(勇者に転生したら、魔王を倒すのって当たり前でしょう? それなのに、わざわざ魔王を倒せと命令した。勇者に生まれたら、遅かれ早かれ魔族の暴虐さを知って、決意して立つわ。それなのに、なんで念を押したの?)
これまで自分で感じていながら、答えの出なかった違和感の正体に思い至り、すっきりする。
プレッシャーは増すばかりだが……。
(勇者と仲良くする魔王なんて、レア中のレアよ。SSR級ね。スライムさんと仲良しさんくらいかしら)
『だから、ネタバレは勘弁してくれよ』
困ったような神の声に、笑みが浮かぶ。
(うふふ。困ってるのね。でも、そうやって誤魔化してる)
確信を突くように言うと、空気すら重く感じるほどのが襲ってくる。
(魔王も……クラスメイトだったりして)
そこまで心の中でつぶやくと、息もできないほどの圧力が頭の上からのしかかってきた。




