第14話 封建王朝崩壊 2
なんとか更新できました。
明日も自信がありませんが、なんとか頑張ります。
雅人はディエンガンを含めて、封建王朝国内の中立宣言や降伏、落城の情報をちくいち矢文にしたためて首都の住民に向けて伝達していた。
だから、ノーティコ家を父親の代から支えていた中小貴族の半分以上が戦わずして降伏し、魔王に忠誠を誓ったことも、彼らはすぐに知り得た。
封建王朝内で首都だけを孤立させる。
秀吉が小田原城攻めでもちいた戦略を、雅人もなぞったのだ。
ただ、関東と東北を除いて中部地方から九州まで支配していた秀吉と異なり、アイェウェ国は本国、獣人領、旧魔導王国領、軍事同盟、旧立憲君主王国と面を支配していても、間にアールヴ領もあって国境線を管理するコストがかかる。
それ以外にも、ダークエルフ領や同君連合など戦いはしないが味方とも言い切れない国境を抱えているし、緩衝国家を隔てて、最大の仮想敵国である帝国とも対峙している。
その点では、冬になれば越後に引き上げることを余儀なくされた上杉謙信の小田原攻めに近く、いかにして籠城側を引きずり出して野戦に持ちこむかを考えなければならなかった。
そのための方法が、長期戦を許容した秀吉の小田原攻めと同じになるというのは少し皮肉なものである。
秀吉は小田原城を包囲しながら北条方の城を攻め落とし、城が一つ落ちるたびに矢文で小田原城内に知らせたという。
雅人は、後方への憂いがあるので包囲は後回しにしながらも、各封建領主がガオ王から魔王に忠誠を誓う先を変えるたびに知らせた。
これはよく効いた。
再びの指摘であるが、籠城とは基本的に味方の救援を待つ戦術である。
だが、多くの諸侯がガオ王を見限るように封建的な関係を解消していけば、助けが来る可能性がせばまっていく。
それをリアルタイムで知らされることで、先行きの不安は否応なく増す。
そして、満を持して首都を包囲したのだ。
「第二の矢を放つか」
とはいえ、短期決戦を望むのなら、こうして城に固く閉じこもられるのはよろしくない。
どうにかしてここから敵を引きずり出す必要がある。
ここでも雅人は、秀吉や家康のやったことを真似た。
他人が上手くいった方法を真似ることに、雅人は一切抵抗を覚えなかった。
どうせここは地球世界ではないのだ。
それに、カンナエでハンニバルにやられたことを分析し、自らの血肉にかえてザマでやり返したからこそ、スキピオは名将として二千年以上、語り継がれてきたのだ。
召喚された異世界では、帝国軍人に蹴られる可哀想な立場になってしまっていたとしても。
雅人が実行させたのは、ノーティコ家系の諸侯に対して、忠誠を誓う証として大声を出させたことだけだ。
内容的には、自分が無事命どころか所領まで安堵されたことを述べさせ、首都を護る兵士たちを動揺させる言葉を言わせる。
首都の守備兵とて、首都周辺に領地を持つ弱小封建領主とその配下なのだ。
これを狙い撃ちして、今のうちに降伏すれば所領を安堵するという意向を、現に降伏して許された者たちに語らせる。
そうして敵兵の逃亡を促し、あるいは最低でもサボタージュさせる。
籠城するにも、城門や城壁を守る兵士の数が足りなければ、そこから崩されてしまう。
そうなったら、籠城側は敵兵に侵入されて分断され、各個撃破される。
そうならないように、古来から兵士が不足しているなら住民を駆り出して、石や熱く煮えた油などを城壁にたかる攻城側の敵兵に浴びせる手法がとられてきた。
籠城する側からすれば、門を開けば略奪が待っていて、財産だけでなく命や、妻子の貞操も危険にさらすとなれば積極的に協力してくれる。
だが守備兵以上に、住民たちも降伏して許された事例に敏感に反応して、籠城に反対していた。
とうぜんだ。
抵抗すればディエンガンのように、皆殺しにされてしまうかもしれないが、降伏すれば規律の取れた軍の元で治安が維持されるというのなら、なぜわざわざリスクを負ってまで城を閉ざさねばならないのだろうか。
住民の非協力な態度を見て、ガオ=ノーティコ=マッコトは、籠城しきれないと絶望しているらしい。
ストレスにより、わずか数日で頭髪が薄くなってきたという未確認情報もある。
これはもう少し揺さぶれば、野戦に訴えざるを得なくなるなと、雅人はニンマリと笑った。
いやがらせ第三弾として、雅人はさらなる心理作戦を実行させた。
城壁を破壊しすぎない程度の攻撃を、昼夜を問わず行わせる。
住民が頼りにならないなら、最後の砦として城壁に依存するしかないのが守備側の立場だが、それが轟音とともに破壊される。
すぐさま必死に修復しなければならないので、人手が取られてしまう。
そして、昼も夜も大きな音を立てて攻撃されるので、眠る暇さえない。
風の邪精霊たちが増幅した大音量の悲鳴も流させる。
また土の邪精霊を動員して、城壁の下から侵入できる地下道を掘らせた。
それも、わざわざ作業が見えるようにしながら。
とうぜんのように対処しなければならず、敵は一週間も経たずに不眠によって動けなくなってしまったようだ。
壊れた城壁が修復されないことが増える。
重要な地点だけに修復作業が集中し、それも初日より倍以上の時間がかかっていた。
「そろそろ頃合いだな」
城門を開いて降伏し助命をもとめる住民と、今さら降伏しても無駄だと門を閉ざし続ける残った兵士たちの間で衝突も起き始める。
昼夜を問わない轟音は住民たちの精神も削っており、イチかバチかの反乱を誘発し、残り少ない兵士たちの命や体力も削っていく。
住民の非協力によって、食糧供給すら満足に行き渡らない。
完全に封建王朝は崩壊の危機に瀕していた。
最後の一押しの必要を認めた雅人は潜入させた男淫魔に、かのニンゲン至上主義を報じる王妃を誘惑させる。
相手が毛嫌いしていた魔族であっても、強力な魔法によって魅了された王妃は、抵抗できずに淫魔を受け入れてしまう。
翌朝、その光景を発見したガオ王……牙雄は激怒した。
自分がなんども女性を裏切り、邪魔になれば殺害までいとわなかったというのに、はじめて自分が裏切られたと思いこんだ牙雄は、衝動的に王妃を殺害した。
(ちょ……そこまでさせるつもりはなかったんだけどな)
不眠によって精神的に参っていた牙雄の行動を読み違えた雅人は、後悔した。
だが、起こってしまったことは仕方がない。
それに、王妃の密通相手が潜入した魔族だと知った牙雄が、王妃の無実を悟って半狂乱になったことは、結果的には復讐の一環として悪くないと許容できることだった。
王妃を誤って殺害したことで、ガオ=ノーティコ=マッコトは、抵抗をやめた。
むしろ、籠城に巻きこまれた住民のうち、美人で有名な人妻や美しい娘を誘拐させ、悦楽に没頭することで現実逃避しはじめた。
王の無気力はすぐに兵士たちに伝わる。
雅人はここがターニングポイントだと、ノーティコ家系貴族を説得に当たらせ、兵士と住民の命と貞操は保証し、財産も後日何割かの没収のみに留めると約束したことで、すべての城門を開けさせることに成功した。
こうして、封建王朝は名実ともに崩壊し、ガオ=ノーティコ=マッコトは無抵抗で捕らえられたのだった。




